上 下
105 / 586
学園3年目

揺れる「反王家」

しおりを挟む
「くそっ…何故だ…!」

あれだけのことをして、ルースの心に隙間を開けることができないとは。

いや、心の隙間は確かに空いたのだ。
だが…まさか、ケンタウレアに保護されることになるとは思いもしなかった。
そのうえ権力に興味の無い家のものがすっかり周りを固めて、こちら側が彼に近寄ることすらできない。

「しっかりタネを蒔けていれば、雑誌の記事でとどめを刺せるはずだったのに…!」

アルファードの近くに「見目麗しく頭の良い者」を配置して、ルースの不安を煽る計画は頓挫。
ルースは想定外の働きを見せ、本当に頭の良い連中はいつの間にか取り込まれ、中途半端に賢いものは近づくことすらできない鉄壁になってしまった。

「まだ用意はあるんだろう?」
「あと10人しかいない!
 もう30人も駄目になった!!」

いくつもの家に声をかけ、我が子を殿下のお側に近づける好機だと説得してきたが…
最も乗り気だったリリー家の次男でも駄目。
グロリオサ家には断られ、何かあれば屋敷も領地を灰にすると脅され、これも駄目。
ルースに手を出すことを期待して、無理やり担任にねじ込んだカレンデュラも駄目。
コスモス家の長男に至っては…家自体の反応が薄かったため、本人を唆したが…まだ、ルースのそばを離れずについてはいても、すでにアルファードへの忠誠を誓わされた状態だ。

近づけそうだと見越してから洗脳したガーベラ家の長男も、近づかないと大変なことになると脅してから洗脳したアイリス家の長男も、彼の懐に入れたのはすっかり洗脳が解けてからで…。

意味が無いどころか、あちらに大きな力を与えてしまった。

1番金を掛けた案件ですら、1年目ですでに破綻した。
「選りにもよってエルグランの奴…苦労してカメリア王家を落とし、金を積んで王子を送り込ませたのに…従者なんぞと婚約するだと!そのようなことが許されるのか!?」
「あの従者、平民どもからの支持が多いからと…
 つけあがりおって」

1番時間を掛けた計画は…散々な結果。
「イフェイオン公爵から、こちらの計画が漏れるようなことはないのだろうな?」
「我々が手を組んでいることが分かるようなことがあれば…お仕舞いだ」

計画の中心にいる者たちは焦る。
だが…
「ああ、問題ありませんよ…あの無能に全てを明かすほど、こちらも考え無しではありません。
 本人が思いついてやった、と思い込ませてありますから…それが解けることもないでしょう。
 あれとルースを会わせるようなことをあちらがするとは思えませんし、会っただけで解けることもないでしょう…対策は立ててありますよ」

1人の少年は余裕の微笑みを浮かべて言う。
3人の男のうち、1人が怒りの声を上げる。

「エルム公、元はと言えばあんたの父親が言い出した事だろう!何か無いのか!」
「…そうですね、今のところは…まだ。
 フリージア公はいかがです」
「王宮内の高官どもも、春先の王家の宴以降…奴に肩入れし始めている。
 本人と話をしてみれば、聞いたことと違うではないか…と、次期正室に相応しい人物だ…とも」
「洗脳が解け始めているのか?」
「あるいは解けてしまった可能性も…」

そこで、1人、物騒なことを言い出す人物がいる。

「婚約前に、アレを傷物にしてしまえば良い」
「バイオレット公…本気か?」
「あれは時々、自ら市場へ買い物に出るらしいな。
 それに、街外れの人気ひとけの少ない場所に研究施設を建てたとか?利用できそうじゃないか」

エルム公…正確にはエルム公爵家次期当主はにっこりと微笑み、その計画に対し言った。

「そうですか。
 ではその作戦の効果に期待致しましょう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

処理中です...