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学園2年目
不満もまた愛しい ~アルファード視点~
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今日は菓子を作るのも忘れて組手か…。
ルースは俺の事を忘れすぎではないか?
晩飯にデザートを要求せねばならん。
この前のスパイスココアは美味かったな…
あれにするか。
「…うむ」
しかし、俺があいつに買わせた魔石オーブンが活躍しているようで気分がいい。
欲を言えばルースから買って欲しいと言われたかったが…まあ買ってやれて良かったと思う。
「恋人にいくら金を使えるか」などというのが人間の価値だとは思わんが、恋人に何かを強請られたいという気持ちはよく分かる。
たまには可愛くあざとくお願いされたい。
毎度強請られると辟易するのだろうが…。
そういえばあいつ、イドラに「高いものは買わないし強請ることもない」などと啖呵をきったらしい。
あの言葉で目が覚めた…とイドラが笑っていたが、こちらとしては笑い事ではない。
イドラもそうなのかもしれない…と思うと、犯人は1人しか思いつかないが、いかんせん証拠がない。
妙なことだが、ルースは自分に悪意を持たされている人間の目を覚まさせるのが得意なようだ。
特別な魔法を使うわけではない。
その人間が闇魔法による支配を受けていることも知らないで、偶然にも支配を解いてしまう。
あの性格が為せる業だろうか。
ルースは時々、「みんなには笑っていて欲しい」と言う。そのためなら自分が笑われても良いのだと。
俺が教えたのではない、それがあいつの信念だ。
普通の人間なら、笑わせるのは良いが笑われるのは駄目だと言うだろう。
それこそ街で見る大道芸人は、「笑われるのではなく笑わせるのだ」と奮闘しているではないか。
それはルースが王家に相応しい人間であることを示しているようで誇らしい。
それにあの交友関係はどうだ。
やつらもルースに気があったうちは腹立たしかったが、それが友人として強固な縁を築きたいと願うようになってみれば、素晴らしい人脈だ。
我が王家は一粒種が3代続き、王位継承権の争いからしばらく遠ざかっている。
そのおかげで、父も祖父も自分の派閥を作るということをしなくて済んだ。
だが、俺が次期国王になると事態が変わった。
いくつかの公爵家を中心に、王位を簒奪しようという動きが出てきたのだ。
やつらは高位貴族を取り込み、勢力を次々に拡大している。
最近、連中はついに軍事費にも手を出したようで、度々ケイやヘヴィから報告を受けるようになった。
彼らが時々ここを訪れるようになったのはそういう理由もある。
だからこちらも、それに対抗する人脈と後ろ盾を早急に築かねばならない。
連中にこの国を渡すわけにはいかないからだ。
やつらは戦争の口実をずっと探している。
なぜそんなに戦争をしたいのか分からん。
戦争で武功を立てたいのか、
自分の領地を広げたいのか、
それとも世界征服をしたいのか。
他国を征服し統治することの難しさが想像できない馬鹿に共鳴する馬鹿の多いことと言ったら…
しかし、これは我が国の腐った部分を切り落とす絶好の機会でもあるはずだ。
…それなのに、俺は人脈を得ることが上手くない。
命令して人を動かすことはできるし、対価を示して交渉することもできる。だが交友関係を築くのは苦手…というより、できたことが無い。
だが、ルースはどうだ。
1年もしないうちに、二つ名をもつ魔法使いに研究者に剣士…爵位や血筋などよりも実力が有名な者たちをすっかり味方につけてしまった。
それなのにルースは、クリビアに対して、それを自分のではなく俺の交友関係だと断言した。
やつは普段ただのギルトの受付係として振舞っているが、本当の立場は冒険者ギルド本部の副長だ。
そんな人間に、あっさりそう断言したのだ。
相手の地位を知らないで放った一言だけに、この言葉は「真実」として受け入れられ、冒険者を通じて市井にもじわじわと拡がっている。
そして今やルースは、中立であるはずの者たちですら取り込もうとしている。
国家から独立した組織の幹部であるクリビアや、
辺境で独自の軍を持つあの家は言うに及ばず、
誰に対しても等しく商いをするあの家も、
作った魔道具にしかプライドを持たないあの家も、
出世より魔生物のことを考えるようなあの家も、
地位に興味のない拳法家も、
真実だけを追い求める新聞記者も。
この人脈を気前よく俺にくれようとするのだから、いくら払っても釣りがくる。
魔石オーブンや菓子作りの道具などいくらでも買ってやるし、何なら菓子屋を一つ買ってもいいくらいだ。
ルースが望めば、だが。
「そうか」
いい事を考えついた。
俺の離れを改築して、1階を菓子店にしよう。
それなら材料をいくら買おうが道具をいくら集めようが、気にすることはない。
イドラを経営に関わらせれば、それなりに利益が出る方法も考えてくれるだろう。
そうすれば伴侶になってからも、あいつが菓子作りをしている姿を見られるに違いない。
そうだ…菓子を作っているルースを見れば、あの連中にも平和の何たるかがわかるんじゃないか?
「名案だな」
早速、父上たちに相談しよう。
善は急げ、だ。
ルースは俺の事を忘れすぎではないか?
晩飯にデザートを要求せねばならん。
この前のスパイスココアは美味かったな…
あれにするか。
「…うむ」
しかし、俺があいつに買わせた魔石オーブンが活躍しているようで気分がいい。
欲を言えばルースから買って欲しいと言われたかったが…まあ買ってやれて良かったと思う。
「恋人にいくら金を使えるか」などというのが人間の価値だとは思わんが、恋人に何かを強請られたいという気持ちはよく分かる。
たまには可愛くあざとくお願いされたい。
毎度強請られると辟易するのだろうが…。
そういえばあいつ、イドラに「高いものは買わないし強請ることもない」などと啖呵をきったらしい。
あの言葉で目が覚めた…とイドラが笑っていたが、こちらとしては笑い事ではない。
イドラもそうなのかもしれない…と思うと、犯人は1人しか思いつかないが、いかんせん証拠がない。
妙なことだが、ルースは自分に悪意を持たされている人間の目を覚まさせるのが得意なようだ。
特別な魔法を使うわけではない。
その人間が闇魔法による支配を受けていることも知らないで、偶然にも支配を解いてしまう。
あの性格が為せる業だろうか。
ルースは時々、「みんなには笑っていて欲しい」と言う。そのためなら自分が笑われても良いのだと。
俺が教えたのではない、それがあいつの信念だ。
普通の人間なら、笑わせるのは良いが笑われるのは駄目だと言うだろう。
それこそ街で見る大道芸人は、「笑われるのではなく笑わせるのだ」と奮闘しているではないか。
それはルースが王家に相応しい人間であることを示しているようで誇らしい。
それにあの交友関係はどうだ。
やつらもルースに気があったうちは腹立たしかったが、それが友人として強固な縁を築きたいと願うようになってみれば、素晴らしい人脈だ。
我が王家は一粒種が3代続き、王位継承権の争いからしばらく遠ざかっている。
そのおかげで、父も祖父も自分の派閥を作るということをしなくて済んだ。
だが、俺が次期国王になると事態が変わった。
いくつかの公爵家を中心に、王位を簒奪しようという動きが出てきたのだ。
やつらは高位貴族を取り込み、勢力を次々に拡大している。
最近、連中はついに軍事費にも手を出したようで、度々ケイやヘヴィから報告を受けるようになった。
彼らが時々ここを訪れるようになったのはそういう理由もある。
だからこちらも、それに対抗する人脈と後ろ盾を早急に築かねばならない。
連中にこの国を渡すわけにはいかないからだ。
やつらは戦争の口実をずっと探している。
なぜそんなに戦争をしたいのか分からん。
戦争で武功を立てたいのか、
自分の領地を広げたいのか、
それとも世界征服をしたいのか。
他国を征服し統治することの難しさが想像できない馬鹿に共鳴する馬鹿の多いことと言ったら…
しかし、これは我が国の腐った部分を切り落とす絶好の機会でもあるはずだ。
…それなのに、俺は人脈を得ることが上手くない。
命令して人を動かすことはできるし、対価を示して交渉することもできる。だが交友関係を築くのは苦手…というより、できたことが無い。
だが、ルースはどうだ。
1年もしないうちに、二つ名をもつ魔法使いに研究者に剣士…爵位や血筋などよりも実力が有名な者たちをすっかり味方につけてしまった。
それなのにルースは、クリビアに対して、それを自分のではなく俺の交友関係だと断言した。
やつは普段ただのギルトの受付係として振舞っているが、本当の立場は冒険者ギルド本部の副長だ。
そんな人間に、あっさりそう断言したのだ。
相手の地位を知らないで放った一言だけに、この言葉は「真実」として受け入れられ、冒険者を通じて市井にもじわじわと拡がっている。
そして今やルースは、中立であるはずの者たちですら取り込もうとしている。
国家から独立した組織の幹部であるクリビアや、
辺境で独自の軍を持つあの家は言うに及ばず、
誰に対しても等しく商いをするあの家も、
作った魔道具にしかプライドを持たないあの家も、
出世より魔生物のことを考えるようなあの家も、
地位に興味のない拳法家も、
真実だけを追い求める新聞記者も。
この人脈を気前よく俺にくれようとするのだから、いくら払っても釣りがくる。
魔石オーブンや菓子作りの道具などいくらでも買ってやるし、何なら菓子屋を一つ買ってもいいくらいだ。
ルースが望めば、だが。
「そうか」
いい事を考えついた。
俺の離れを改築して、1階を菓子店にしよう。
それなら材料をいくら買おうが道具をいくら集めようが、気にすることはない。
イドラを経営に関わらせれば、それなりに利益が出る方法も考えてくれるだろう。
そうすれば伴侶になってからも、あいつが菓子作りをしている姿を見られるに違いない。
そうだ…菓子を作っているルースを見れば、あの連中にも平和の何たるかがわかるんじゃないか?
「名案だな」
早速、父上たちに相談しよう。
善は急げ、だ。
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