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学園2年目

身体強化と「気」

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あれから毎日、朝はみっちり対人戦。

対戦の結果、勝った人は昼から自由行動、
負けた人は悪かった部分を反省し特訓する。

俺は途中からおじいちゃん先生に結界禁止と言われてしまい、それから全く勝てなくなってしまった。
だって攻撃を避けられないんだもん…。

今日も「矢継ぎ早に魔法を出して、疲れたところをぺちんとやられる」パターンで負け。

「魔物相手ならあんなに活躍するのにな」
「やっぱ俺が護衛についてなきゃ駄目だな、師匠」

そういって、今日勝ったカイト君とアレクさんは市場へ買い出しに行った。

「魔力量を増やすしかないかのう…」
とおじいちゃん先生に言われ、毎日魔法を限界まで使う練習ばかりしていたら、昨日ついに火属性上位の業火インフェルノを覚えてしまった。
風属性上位の大嵐テンペストとか、
水属性上位の大地洗浄フラッシュフラッドとか、
魔法の練習場ならバンバン出して練習できるからって魔力量を上げるついでに各属性の上位魔法を取得しまくってはみたんだけど、こんなの対人でどうやって使うんだ…。

まあ、魔力量は上がったから、ぺちんとやられるまでの時間は伸びたけど。

「上位魔法を覚えても対人じゃ意味ないですよね…」
「そうだね、でも業火インフェルノはさ、魔石錬成に使うかもしれないんでしょ?
 覚えといて損はないんじゃない?」
「まあ、確かに…。
 でも、魔石の研究も対人戦に勝てなきゃできませんしねえ」

はー、困ったな。

「ルースの敗因は人間の身体しんたいに対する無理解なんじゃないか?
 俺がみっちり教えてやろう」

ケンタウレア先生の申し出をありがたく受け、今日は魔法でなく一日体術の訓練をすることにした。
剣は駄目でも拳なら何とかなるかもしれないしな!



「まずは、人間の体にはいくつも急所があるんだが、知っているな?」
「はい、いくつかは」
「そこを突く。
 体術とは、簡単にいうとそういうことだ。
 まずはやってみよう」

ケンタウレア先生が俺に拳を握らせる。

「親指を中に握りこまないで、軽く握れ。強く握ると動きが鈍る」
「はい」
「で、狙うのはここ、鳩尾みぞおちだな。
 体格差があるから頭は難しいだろうし、お前の性格上人の顔面を攻撃するのは抵抗があるだろう?
 試しにここを、叩いてみろ」
「はい」

ぽすっ!

「そうだ、もう一回」
「えい!」ぽすっ!
「繰り返せ」
「えい!えい!えい!」ぽす、ぽす、ぽす。

1ミリも効いてる気がしませんが?

「効いているようにみえんだろう?
 実際に効いていないからな。
 そのくらい、鍛えた人間というものは強い。
 少々攻撃したくらいでは死なん…
 まずはそれを覚えろ」
「は、はい」
「ただ、鍛えていないとなるとこうなる」

ケンタウレア先生が俺の鳩尾みぞおちを軽く2本の指でついた。

「あだ!」
「まずは筋肉という鎧を我々が着ているということを分かってもらいたい」
「は…はい」

痛いいいい…

「遠慮なくぶち込めばいい、まずはそれだ」
「はい」
「では、かかってこい!」
「はい!」

ケンタウレア先生と対戦する。

「行きます!ファイヤーアロー!」
「遅い!」
先生は華麗に躱す…でしょうね!
「からのファイヤーアロー!」
「おっ?」
「からのウインドカッター!」
「やるな!」
先生は上空へ逃げた、そこだ!
「サンダー!!」
「あちち!やるな!そうだ、飛んでいるときに軌道を変えることは困難だ!よく分かってるじゃないか!」
先生が降ってくるので走って逃げる。

地面に降りた先生が俺に言った。

「ルース、それだ」
「えっ」
「避けるときに地面を見るな、敵を見ろ。
 距離を稼ごうとするな。
 短い距離でも躊躇なく叩き込め」
「は、はい」
「それに、あれが効いたようにみえるか?俺はサンダー程度でやられんぞ、もう一度!」

そういうとまたケンタウレア先生が飛んだ。
「撃ち落としてみろ!」
「はい!強力サンダー!」
「うおっ!…そうだ!らしさが出てきたぞ!」
「はい!」

俺と先生の組手は、お昼買い出し組が帰って来るまで続いた。

ーーーーーーーーーー

お昼を食べたらまた組手。
そういえば、ケンタウレア先生に聞きたいことがあったんだ。

「先生、気と魔力が似てるって言ってましたよね?」
「ああ、そうだな、似ていると思う」
「気って何ですか?」
「体内に流れる生命力…のようなものだ。
 説明は難しいが…体中にそれが流れていることを意識しながら体を動かし、体術を自然動きにする」
「自然の動き?」
「さっき、お前は拳を握っただろう?
 意識して握ったから、親指を中に入れようとしたし、無駄な力を入れようとした。要は不自然だ。
 それを自然の動きにする…まあ、ちょっと見ていろ」

そういうと、ケンタウレア先生はゆったりと練習場の真ん中に立ち、ス…と流れるように構え…

「すごい…」

構えたかと思ったら腰を落として正拳突き。その拳を引きながら立ち上がり片足を浮かせて踏み込み逆の手で正拳突き。そして後ろの足を前に出しながらその足を高く蹴り上げる…
一つ一つに無駄が無い、というか…
無理に動かしていないというか…

「こういう感じだ、分かるか?気を巡らせることを意識し、攻撃のときにその気を拳であったり足であったりにめるイメージだ。魔力はめずに放つイメージだ」
「なるほど…放つんじゃなくてめる…」
「そうだ。魔法使いが魔力の流れを体内で感じているかどうかはよく分からんが、俺はそういうイメージで水魔法拳を使っているな」
「なるほど…」
「こうして動きを自然に馴染ませれば、魔法を躱したり受けきったりすることまで可能になる。
 お前は組手のとき相手が避ければ当たらない魔法ばかり撃つが、そんな「気遣い」はしなくていい。
 相手が「気を使う」練習にならんだろう?」
「はい!俺も何か見えた気がします、お相手して頂けますか?」
「う、うむ…もちろんだ!」

その後「気」についてさらに詳しく教えてもらいながら、体に流れる魔力を意識しつつ、体を動かしたり魔法を使ったり…おやつの時間もすっかり忘れて、練習に没頭した。


「もしかしたら身体強化の魔法ができるかも…」

何かドーピングみたいでズルいかもしれないけど、いつまでも誰かに運んでもらうわけにいかんし。

「あの、ケンタウレア先生の流派の指南書があれば、見せてもらうことはできますか?」
「うむ、「気を使う」ことを学ぶのに「気を遣う」ことはないぞ」
「ありがとうございます!
 明日からも宜しくお願いします!」
「…………うむ」
「?」


ーーーーーーーーーーーーー


「洗ったお皿、拭いていきますね~」
「あっ王子、お気遣いありが……あっ!!」
「?」


俺が「気を遣う」と「気を使う」を掛けたケンタウレアジョークに気が付いたのは、晩御飯の後だった。

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