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学園2年目

彼シャツと男気 〜アルファード視点〜

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「すまん、大丈夫か」
「な…んとか…」

小太りの男が下敷きになり、俺は無事にルースを抱えて着地することができた。

「悪いがすぐにこいつを洗わねばならん。
 水場はあるか?」
「消火用の水を、入口付近に用意していたかと」
「そうか、ところでお前、今こいつに触れたか?」
「えっ、いえ、そんな!」
「なら良かった、だが粘液がついていないとは限らん、念のため手と顔を洗ったほうがいい」
「あっ、ああ…、ああ、はい!」

ルースについた粘液で、自分の手の皮膚が溶けて爛れているのがわかる。
強力な消化液なのだろう…ルースの結界が消える前にこの忌々しい粘液を全て洗い流さねばならない。

俺はいくつも水樽が置いてあるその場所へルースを急いで運び、粘液がついた上着を脱ぎ捨て、そこにあったバケツでルースの体にザバザバと水を掛ける。
掛けているうちに、溶けかけたブーツが脱げた。
だが、そんなことを気に掛ける余裕はない。
耳の穴や鼻の穴にも粘液が付着しているかもしれないので、指を突っ込んで洗う。
下穿きを剥ぎ取って、尻の穴も、アソコも、遠慮なくバシャバシャと水を掛けて洗い流す。

そうしているとヘヴィがヘザーを抱きかかえて走ってきて、息子を樽へ丸ごと投入した。

「…ゴフッ、とうさん!ブハッ、やめて!」

やつは無言で、息子の体を樽に漬けたまま、頭には別の樽から水を掛けてわしわし洗っている。なるほどあれは早そうだ…。

だが、意識の無いルースにあの手は使えない。
何度も水を掛けては、体中を手で擦る。
頭を洗うと、溶けた髪が流れる。
多少短くなってしまったが、禿げてはいないようだ。
これならルースも一安心するだろう。
下の毛はツルツルになってしまったが…。


衛生班だったらしいお祖父様がバスタオルを持ってきてくれたので、それできれいに拭いてから馬車のほうへ運ぶ。
何人か触手の出す粘液にやられたようで、クレビアやリリー、ガーベラが回復魔法で治してやっている。

馬車の中でお祖父様がルースの体を確かめる。
「外傷は今の所無さそうじゃの」
「体の中は?」
「さすがにわからん、医者に見せたほうがいい」
「わかった、医務室へ連れて行く」

再度抱えて馬車を出ようとしたが、これ以上ルースの裸を他人に見られるのも癪だ。
仕方なく自分のシャツを脱いで着せてやる。
ルースは俺より一回り小さいから、大事な部分までは隠せるだろう…

……

…………


初夜の閨着はこれだな。



いや、違う。
そうではない。
そういう場合ではない。
しかしエロい。
いや、扇情的すぎる。
俺の匂いに包まれて、
無防備な姿を晒して、
シャツの下からはすらりとした、
触り心地の良さそうな腿が見えて…



初夜と言わず、閨着は常にこれだな。



いや、違う。
違うのだ。

これを他人に見せてはいけない。

着せ方を変えよう。
腰に巻いて下半身だけを隠すほうがまだましだ。
シャツを一旦脱がせようとボタンを外し…

はだけたシャツから、
触手に散々弄られたとみえる、
胸の突起がぷっくり赤く腫れているのが見えて、
そうしたのは忌々しいあのミミズで、
触られたところはきっちり全て上書きせねば…

いや、後で、後でだ。
とにかく着せ方を変えなければいけな…

…イケない……イ、け、な、い…

どうなんだろうか…ルースは、あの時…
あの触手にさわられて、どうなったのだ?
このへその中も粘液で濡らされていたし、
その下の…それも、
下穿きの上から…とはいえ、
俺がれずにいた場所を…


いかん、無だ、無になれ。


しかし、あのミミズの化け物め。
俺のものを好き勝手になぶるとは…
こんなことなら山ごと燃やせば良かった。
なぜこんな手間をかけて討伐しなければならない?

「誰の立案だ…」

確認しなければならん。
そうだ、立案者に本意を確認せねばならない。
ルースを危険に追い込むためにしたのなら…

……

「少しぐらい、触っても…」

いかん、無だ。
無にならんか、俺。
でも少しぐらい良いのでは?
いや、待て。
あんな目に合わされた直後にそんな事をしては…

……

匂いを嗅ぐ程度ならいいのでは?
粘液がきちんと落ちたか確認せねばならんし。
うむ、確認だから、これは。問題ない。

特に髪の毛はちゃんと確認せねば…
あと、鼻の穴と耳の穴も。

こっちの穴は…

……

…………

さっき、思いきり指を突っ込んで洗ったが…
もう少しちゃんと洗ったほうがいいのでは?
こう…
優しく解す様に…
感じる場所を探りながら…

……

…………


「立案者を探してきます。
 お祖父様、ルースを暫く頼みます」
「お、おお…わかった」
「では」

馬車を出てケンタウレアを探す。
この作戦の責任者だ、立案もあいつだろう。
事前に調べたところ問題は無さそうだったからルースを預けたが…預けた後に何かあったかもしれん。

しばらく外を歩き回っていると、先程下敷きにした男と何か話をしているケンタウレアを見つけた。

「ケンタウレア!」
「は、殿下、どうされましたか」
「この作戦を立案したのは貴殿か」
「いえ、違います」
「では、誰が立案した」
「ルースです」
「何…?」
「この事はここにいるソランと、我が弟子の2人、アナガリス兄弟もご存知です」

ケンタウレアの目の奥をじっと見る。
ブレずに見つめ返す目に、異常はない。

「…そうか、分かった。手間を取らせたな」
「いえ、問題ありません」

嘘ではないようだ。
なぜ自分から危険な目に合いに行くような真似を?
それを何故アナガリス兄弟が止めないんだ?
この場にいない事で、作戦に抗議しているのか?
作戦に介入しないように、あえて外されたのか? 

ルースが目を覚ましたら、
ちゃんと言い聞かせなければ。

お前ほど大事なものはいないのだ、と。

----------

医務室へ行くには、多くの人間の目にこの姿を晒すことになる。それはまずい。
ルースにつけていた監視役に服を持って来るよう命じて、誰の目にも触れないよう少し離れた場所で待つことにした。
後ろから抱き込んで、匂いを確認する。
頭にも、耳の穴にも、異常はない。

鼻の穴…にも、ない…

我慢できずにキスをする。

それでも目を覚まさないルース。
よく見ると睫毛や眉毛は無事なようだ。
瞳はどうだろうか。
あのきらきらした黒い瞳は無事だろうか。

もう一度、もう一度とキスをする。
何度目かのキスで、瞼がぴくりと動いた。
次の瞬間。

「はっ!?」

ルースが目を覚ました。
危険な事はやめろと言い、作戦の真意を問い質す。
何故こんな危険な作戦を立てたのか。
ダンジョンごとあの魔物を焼くことを考えつかなかったとは言わせない。
夏に行った遺跡のダンジョンで、ヘヴィがゴブリンを巣穴ごと焼いたのを見ているはずだからだ。

なぜわざわざ危険な真似をする?
そう問えば…

ルースがこの危険な作戦を立てた理由は、
このダンジョンを護るためだという。
多くの人間の想いが詰まったものだから、
絶対に護らなければならない、と。

「そんなものよりお前のほうが大切だ」

俺はお前を失いたくない。
だがルースは言った。

「王家は国民のためにある」

だから、俺の伴侶になるものとして、
みんなの大事なものを護りたかった…と。
自分のことより国民のことを優先する。
それは、子どもの頃に俺が教えたことだ。

俺は、何をしてきたんだ。
俺と伴侶になるということは、一緒に幸せな家庭を築くということでは終わらない。
王家の人間になるということ。
それはということ。

次期国王おれの伴侶になるとは、そういうことだ。

俺がそうなるように教えた。
教えてきたはずなのに…

「忘れないで、アルは王子様だってこと」
「俺も、忘れないから」

そんなふうに言われて、キスされたら…

……惚れ直すに決まっているだろう?

だからお返しにキスをする。
俺の上にルースを乗せて…
絡み合うようなキスをする。

「…アル…ごめんね、心配かけて」
「全くだ」

もう、絶対に離さない。
俺のルース。

「ちょっ…だめっ、そんなとこ触らないのっ!」
「ちゃんとついているか確認しただけだ」
「ふぇ!?うそでしょ?ついてるよね!?」
「ああ…つるつるだけどな」
「えっ!はっ、嘘やん!?まじで!?」
「俺はそこの毛など生えてなくても一向に構わん」
「うわーん変態!!」


可愛いルース。
でも可愛いだけじゃないルース。

愛してる。

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