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学園2年目
いつの間にか二学期
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夏休みの間に、おじいちゃんの研究室は大忙し。
・スライム牧場の建設(街外れの廃屋を活用)
・ダンジョンでスライムの捕獲(3往復)
・餌の確保(生ゴミ回収業者との話し合い)
等々、ダンジョンから帰ってきて、魔石の分配をして、さあ魔石工学するぞ!と意気込んだのはいいけれど、こっちの手伝いも忙しく、結局今年も実家に帰らずにダンジョン仲間たちと過ごした。
まあ…忙しいほうが、あの日のことも思い出さずに済むし、殿下とも普通でいられるからいいんだけど。
魔石工学の自習も、ガーベラ先輩と…たまにトレッドさんが学校に来て、あれこれ教えてくれたので良しとする。
だけど、うっかり
「もし、学園のダンジョンの魔石が枯渇した原因が乱獲なら、スライムを何匹か放って増やせば、魔物や魔獣の個体数を回復させられないですかね?」
…なんて言ってしまったもんだから、夏休み明けからダンジョン管理者の先生と打ち合わせすることになってしまった。
そんなわけで訓練場の奥、一度も来たことのない「武術研鑽棟」なる所へ殿下の案内で行くことに。
「魔法棟から随分遠いんですね」
「昔かなり仲が悪かったらしくてな」
「うーん、なるほど納得な距離感」
武術研鑽棟に着いて、何人かに「魔法剣、私も使いたい」と声をかけられつつ先生の部屋を探す。
「ランディ・ケンタウレア…あっ、ここだ」
トントン、とノックをして声をかける。
「ケンタウレア先生、ダンジョンの件で参りました、ルース・ユーフォルビアです」
「……」
「返事がないな」
「ケンタウレア先生!ダンジョンの件で!参りました!ルース!ユーフォルビアです!」
「……」
「まさか、おらんのか?」
「えー、そんなぁ」
ノブを回してみると、扉が開いた。
そっと開けて中を覗く。
「……先生……?」
すると、扉が勢いよく開かれて…
「うわっ!」ドスっ!
「おっと、すまんすまん」
カチカチの腹筋に顔から突っ込んでしまった。
そのまま片手で頭をロックされる。苦し痛い。
「はっはっは」
「…何をしている」
殿下が不機嫌ボイスでケンタウレア先生に凄む。
だけど先生にはいまいち通じない模様…
タスケテ。
ケンタウレア先生は俺の頭をロックしたまま笑う。
「これはこれは、殿下までご一緒でしたか。
いやいや、ちょっとした仕返し…ですかね?」
「うぎゅ…っ」
「……いい加減放せ」
「はは、かしこまりました」
そう言うと、ケンタウレア先生は俺を開放した。
その反動で後ろによろめいたところを、今度は殿下に受け止められる。
「大丈夫か」
「はい」
…ちょっとクラクラしますけど、黙っときます。
「お前がダンジョンの魔石が枯渇してる理由を知りたいと言っている…と校長から聞いて、どの口が言ってるんだと思ってな」
「ほんとすみません…」
「ま、お前の兄貴達だけが悪いんじゃない。
だが魔物も魔獣もいなくなったのは事実だ」
だから学園のダンジョンにおける魔石の枯渇は、多分乱獲が原因じゃないか…とのこと。
実はユーフォルビア家、代々学園のダンジョンで魔石の採取をして小遣い稼ぎをしてきたそうで…。
乱獲したかどうかはともかく、ちょこちょこ出入りはしてたそうな。
「ふむ、スライムから増やして、スライムを食うやつらを増やして、それを食うやつを増やして…ってことか…やってみる価値はあるかもな」
「ただ、完全に死滅してるようだったら…」
「そうだな…去年も今年も立入禁止にしてるが、改善する気配が無くてな…見に行くか?」
「はい、是非」
というわけで、この3人のパーティで学園のダンジョンへ行ってみることになった。
***
学園ダンジョンは、学園の北門を出て馬車で数分の所にある洞窟だ。
「うわー、でかい!鉄の扉だ!」
「入り口を封鎖するために仕方無く付けたんだ。
調査の時はこちらの小さな扉を使う」
「おお、こんなところに」
ランプを持って中に入ると、何だか乾燥した空気。
「スライムって、ちょっとじめっとしたとこにいますよね?」
「そうだな…確かに」
「折角来たんで軽くしけらせときましょうか」
「ああ、頼む」
「了解…蒸気爆発少々、長めで」
パンッ
「何、わっ!?」ブワーーーーッ!
合わせた両手から蒸気が勢いよく吹き出す。
蒸気爆発はリリー君が開発した魔法で、片手でウォーター、片手でブレイズ…業火のちょい手前くらいの火魔法を発動させた瞬間に合わせて出来る魔法だ。
それのグレードダウン版…俺、ブレイズまだ出来ないから、右手で強火ファイヤー、左手でちょっとウォーター…なんちゅうかミストサウナみたいな…まあ、しけらせるには調度いいけど、攻撃には向かないな…。
「……こんなもんかな、終了」
「じゃ、ちょっと進んでみるか」
「はい」
1時間ほど歩く。
何にも出ない。
「本当に何にも出ませんね」
「ああ、1 層はずっとこうだ」
「全体でどのくらいの規模なんですか?」
「一番上まで行くのに5日ほどかかるな。
そこまで行ったら、後は別ルートで帰れるが…」
「えー、それじゃ冬休みまで本格的な調査は出来ないですね」
「ああ、だから今日はこんなとこだ…帰るか」
「1つ課題も見つかりましたしね」
そう、課題その1、湿度管理。
うーん、魔道具でどうにかならないかな…。
明日、魔石工学の授業だし、丁度二学期から実技だって言ってたし…考えてみよ。
「徹底的に調査するなら、もう少し人がいないと駄目だしな…募集するか」
「魔法生物学の授業で、興味ある人探しときます」
「ああ、頼む」
かくして、ここに学園のダンジョン再生計画がスタートしたのであった…。
・スライム牧場の建設(街外れの廃屋を活用)
・ダンジョンでスライムの捕獲(3往復)
・餌の確保(生ゴミ回収業者との話し合い)
等々、ダンジョンから帰ってきて、魔石の分配をして、さあ魔石工学するぞ!と意気込んだのはいいけれど、こっちの手伝いも忙しく、結局今年も実家に帰らずにダンジョン仲間たちと過ごした。
まあ…忙しいほうが、あの日のことも思い出さずに済むし、殿下とも普通でいられるからいいんだけど。
魔石工学の自習も、ガーベラ先輩と…たまにトレッドさんが学校に来て、あれこれ教えてくれたので良しとする。
だけど、うっかり
「もし、学園のダンジョンの魔石が枯渇した原因が乱獲なら、スライムを何匹か放って増やせば、魔物や魔獣の個体数を回復させられないですかね?」
…なんて言ってしまったもんだから、夏休み明けからダンジョン管理者の先生と打ち合わせすることになってしまった。
そんなわけで訓練場の奥、一度も来たことのない「武術研鑽棟」なる所へ殿下の案内で行くことに。
「魔法棟から随分遠いんですね」
「昔かなり仲が悪かったらしくてな」
「うーん、なるほど納得な距離感」
武術研鑽棟に着いて、何人かに「魔法剣、私も使いたい」と声をかけられつつ先生の部屋を探す。
「ランディ・ケンタウレア…あっ、ここだ」
トントン、とノックをして声をかける。
「ケンタウレア先生、ダンジョンの件で参りました、ルース・ユーフォルビアです」
「……」
「返事がないな」
「ケンタウレア先生!ダンジョンの件で!参りました!ルース!ユーフォルビアです!」
「……」
「まさか、おらんのか?」
「えー、そんなぁ」
ノブを回してみると、扉が開いた。
そっと開けて中を覗く。
「……先生……?」
すると、扉が勢いよく開かれて…
「うわっ!」ドスっ!
「おっと、すまんすまん」
カチカチの腹筋に顔から突っ込んでしまった。
そのまま片手で頭をロックされる。苦し痛い。
「はっはっは」
「…何をしている」
殿下が不機嫌ボイスでケンタウレア先生に凄む。
だけど先生にはいまいち通じない模様…
タスケテ。
ケンタウレア先生は俺の頭をロックしたまま笑う。
「これはこれは、殿下までご一緒でしたか。
いやいや、ちょっとした仕返し…ですかね?」
「うぎゅ…っ」
「……いい加減放せ」
「はは、かしこまりました」
そう言うと、ケンタウレア先生は俺を開放した。
その反動で後ろによろめいたところを、今度は殿下に受け止められる。
「大丈夫か」
「はい」
…ちょっとクラクラしますけど、黙っときます。
「お前がダンジョンの魔石が枯渇してる理由を知りたいと言っている…と校長から聞いて、どの口が言ってるんだと思ってな」
「ほんとすみません…」
「ま、お前の兄貴達だけが悪いんじゃない。
だが魔物も魔獣もいなくなったのは事実だ」
だから学園のダンジョンにおける魔石の枯渇は、多分乱獲が原因じゃないか…とのこと。
実はユーフォルビア家、代々学園のダンジョンで魔石の採取をして小遣い稼ぎをしてきたそうで…。
乱獲したかどうかはともかく、ちょこちょこ出入りはしてたそうな。
「ふむ、スライムから増やして、スライムを食うやつらを増やして、それを食うやつを増やして…ってことか…やってみる価値はあるかもな」
「ただ、完全に死滅してるようだったら…」
「そうだな…去年も今年も立入禁止にしてるが、改善する気配が無くてな…見に行くか?」
「はい、是非」
というわけで、この3人のパーティで学園のダンジョンへ行ってみることになった。
***
学園ダンジョンは、学園の北門を出て馬車で数分の所にある洞窟だ。
「うわー、でかい!鉄の扉だ!」
「入り口を封鎖するために仕方無く付けたんだ。
調査の時はこちらの小さな扉を使う」
「おお、こんなところに」
ランプを持って中に入ると、何だか乾燥した空気。
「スライムって、ちょっとじめっとしたとこにいますよね?」
「そうだな…確かに」
「折角来たんで軽くしけらせときましょうか」
「ああ、頼む」
「了解…蒸気爆発少々、長めで」
パンッ
「何、わっ!?」ブワーーーーッ!
合わせた両手から蒸気が勢いよく吹き出す。
蒸気爆発はリリー君が開発した魔法で、片手でウォーター、片手でブレイズ…業火のちょい手前くらいの火魔法を発動させた瞬間に合わせて出来る魔法だ。
それのグレードダウン版…俺、ブレイズまだ出来ないから、右手で強火ファイヤー、左手でちょっとウォーター…なんちゅうかミストサウナみたいな…まあ、しけらせるには調度いいけど、攻撃には向かないな…。
「……こんなもんかな、終了」
「じゃ、ちょっと進んでみるか」
「はい」
1時間ほど歩く。
何にも出ない。
「本当に何にも出ませんね」
「ああ、1 層はずっとこうだ」
「全体でどのくらいの規模なんですか?」
「一番上まで行くのに5日ほどかかるな。
そこまで行ったら、後は別ルートで帰れるが…」
「えー、それじゃ冬休みまで本格的な調査は出来ないですね」
「ああ、だから今日はこんなとこだ…帰るか」
「1つ課題も見つかりましたしね」
そう、課題その1、湿度管理。
うーん、魔道具でどうにかならないかな…。
明日、魔石工学の授業だし、丁度二学期から実技だって言ってたし…考えてみよ。
「徹底的に調査するなら、もう少し人がいないと駄目だしな…募集するか」
「魔法生物学の授業で、興味ある人探しときます」
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