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元相棒、調査する
20。図書館ではお静かに!
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魔道具の案内に従ってやってきたのは、精霊コーナーにある"属性の掛け合わせ"というジャンルの棚。エヴィレーゼですら実現が難しい事象のため、蔵書の数は棚の半分にも満たないほど少なかった。
基本的には筆者名順で並んでいるようだが、魔道具に指示を出せば並べ替えたり指定した筆者のものを呼び寄せてくれるらしい。至れり尽くせりだなと、せっかくだから発行順で並び替えて貰う。
「数はそこまで多くないが…全部読むわけではないんだろう?」
「そりゃあね。ん~…一番古いヤツ、真ん中くらいの、最新ってところかな。簡単に流し読みして三冊選んでみるわ」
「手分け、する?」
「あ~……だな。カザキはそこら辺にある属性についての本を見繕ってくれるか?」
「ん。行ってくる」
魔道具をカザキに譲って、ハオは並び直された本の背表紙を見る。ガロンは他の場所に行くつもりはないのか、適当に隣の棚から本を抜いて時間を潰すことにしたようだ。
ハオは元々魔法を習っていたことがある。その教本として色んな学者が出した本に目を通して来たため、有名どころならある程度知っている。だから今回選ぶべきは、ハオが知らない筆者のものだ。
とりあえず一番古いものから、と左上の端に移動した本に指をかけた。だが取る前にその背表紙に違和感を覚えて、取り出して開く前に表紙を観察する。
装丁はすこし古ぼけているが濃いクリーム色。着色をしたというより、鞣した皮をそのまま加工したような感じだ。表紙と背表紙の文字は焼き入れられたもの。裏表紙には商品コードも発売日も記されておらず、誰かの手作りとよく分かる。感じた違和感は、装丁の何処にも筆者の名前が書かれていないことだろう。
焼き入れられた題名は『精霊の力の掛け合わせ』という、至極シンプルなものだった。
似たものを、何処かで見た気がする。手作り感のある皮の装丁に、焼きごてで入れられた文字。中身をパラりと捲れば、古そうな見た目の割にページは問題なく送られた。
個人で作った本をここに寄付したのだろう。寄付するまでに放置でもしていたのか黄ばみや表紙のスレは見当たるが、今は魔法で保護されているようでよっぽどの事がない限り破損も汚れもしなさそうだ。
中身を流し読みしたところ、かなりヒントになりそうな単語がいくつか引っかかった。すこし飛ばして横の本も見てみるが、そちらはあまり有益な情報はなさそうである。
最新まで飛ばし飛ばし読んでみたが、どれも同じことばかり。やはりこの国でも難しいことなのだろう。一番古い本と似たり寄ったりな内容は、そこから先にどうしても進めないのだという研究者たちの苦悩と落胆が伝わってくる。
これは最新のものも同じかなと思いつつも、一番右下にある本を取り出した。表紙に刻まれた文字は『属性を複合させるには』。こちらも至ってシンプルなタイトルである。
筆者も全く知らない人物であるため、もしやという期待とどうせという諦めが混ざる。だが一応念の為、とページを捲った。
パチリと、ピーチピンクの瞳が瞬く。パラパラとページを早送りして、最後に出てきた著者近影を確認する。本職と書かれた欄をじっと見て、ふむと一人頷いた。
「ガロン!直接話を聞けそうな──あれ、居ない…」
最新の本は、古い本の内容を更に展開したものとなっていた。おそらくそれをベースにして、筆者なりの考えで理論をまとめたのだろう。多少矛盾点はありそうだったが、今の所一番の有力情報だ。
しかも著者近影に書かれたことが今も確かであれば、この筆者はそこらの学者よりも簡単に会える可能性が高い。是非とも直接会って話を聞きたいなと思ったハオは、その事を伝えようと隣りのガロンへ話しかけようとした。
だが振り返った所に彼は居なかった。おそらく別の場所で気になる本でも見つけたのか、物珍しくて別の場所を見に行ったのかしたのだろう。声を掛けられなかったような気がするが、単純にハオが聞いていなかっただけかもしれない。そういうことは昔もよくあった。
ガロンもカザキもここに戻ってくるはずだ。下手に動いてはぐれてもいけないしなぁと、隣の棚にもなにか無いか見る。見ようとした。
「ねぇ君、一人?」
「あ?」
トン、と目の前を遮るように腕が現れた。本棚に手をついたその腕を辿ればいかにも軽薄そうな、ハオにとっては印象の薄い男がこちらを見下ろしていた。
覚えのある状況に舌打ちしそうになるが、反応したら負けだと無視して逃げようと踵を返す。だがそれは察せられていたのか経験則か、男はハオに覆い被さるように反対側にも手をついた。
今度こそ飛び出した舌打ち。だが都合の良い耳を持っているらしい男は聞こえていなかったのか、一人ならどうたらこうたらと興味のない話しを始めた。
知らない奴に話しかけられたことでハオの機嫌は最低を通り越してマイナスである。そも、森育ちで他者との関わりの少ない幼少期を過ごしたハオは『知らない他人』が苦手であった。
今はクリスによって多少直されたため平気になったが、警戒心はそのままにされた上で強化されている。特に不躾な輩というのが大嫌いなハオは、そういった他人に話しかけられると機嫌が急降下してしまうのである。
昔はガロンが大体一緒にいたからか声を掛けられることは少なく、錬金術師になってからは爆弾魔として活動したため一年でそんな輩は湧かなくなった。だがここはイグアスタの王都ではなく、ゆえにハオのことを知らないアホが勘違いして話しかけてくる確立はかなり高い。
ここ最近はめっきりなかったため完全に油断していた。誰が女顔だ。誰が低身長だ。これでも気にしてるんだぞと頬を引き攣らせながら、今だ目の前から退かない男の足を思い切り踏んづけて睨みつけた。
「さっきからうるせーんだよ、図書館じゃ静かにしろってママから言われなかったか?あ゛?」
「いっ………え、は?」
ちなみにハオは見た目こそ女性と見紛うものであるが、その声は正しく性別に合っているものである。確かに同性の中では高い方だろうが、きちんと男性と分かる声だった。
これでもなお、声が低いんだね!と現実を見ないアホが居るので、その場合ハオは容赦なく爆弾をぶん投げていた。だがここは他国で図書館の中である。いくら魔法で保護されていても本のある場所で爆発物は使いたくない。
あとこんなアホのせいで出禁にもなりたくない。なのであくまでも図書館というのを考慮した声量で、だが踏みつけた足の力は決して抜かず。
八つ当たりを決行した。
「つか何だテメェ、突然進行方向を腕で邪魔して話しかけてきやがって。普通に声かけらんねぇのか?今のがかっこいいとでも思ってんのか?」
「痛い痛いご、ごめんなさ」
「ダッセェよキメェよ意味わかんねぇよ。しかも逃げ道まで塞いで?初対面で話しかけたばかりの相手に覆いかぶさって?警邏に突き出されても文句言えねぇ行動なの分かってんのか?女にこれやってんの?ただただ恐怖を与えてるだけだからやめた方がいいと思うぜ。気持ち悪いし」
「す、すみませんすみません、痛いです痛いっ!」
「あとナンパするならもっと鍛えてから出直すんだな。ンなひょろっこい印象にも残らない見た目でよく出来るぜ…恥ずか」
「おい、そこまでにしてやれ」
さっさと腕を退けろや!という気持ちのまま男を責め立てていたハオだったが、男を背後から現れたガロンの声にピタリと止まる。八つ当たりがバレたかと足を退けて素知らぬ振りをするが、しっかり見られていたようで深いため息を吐き出された。
実は男がハオに覆いかぶさった辺りで戻ってきていたガロン。人の物(違う)に何してやがると怒り心頭で近づいたのだが、男を捻り潰そうと手を伸ばす前に男の足がハオに踏み潰された。あ、と思っても遅い。
過去、幾人ものナンパ男の心を折った男の口撃が始まってしまった。ナンパされた側の率直な感想を心底嫌そうに、本当に気持ち悪いのだと全面に出した言い方をするので全員心がバッキバキに折られるのだ。
ある者は白に近い色の髪がトラウマになったし、ある者は長髪低身長がダメになった。またある者は大きな音に怯え土下座し始めるといった具合に、何人か物理的対処をされているが大層なトラウマを植え付けてきた。
そんな男がせっかくの旅行先で、見たことない本も多い図書館に心を踊らせていた所に水を差されたらどうなるか。そう、相手の心がボキッと折られるのである。
多分ついでに足の指の骨も折られてそうだなと、意気消沈した男に哀れみを持つガロン。自分も先程まではどうしてくれようかと考えていたことは棚に上げて、男を引き離しつつ流石にやり過ぎであることをハオに諭す。
「怪我をさせたらこちらが悪くなるのは分かっていたはずだ。何故足を思い切り踏んでしまった」
「右足だから大丈夫かなって」
「完治したのだから結局同じだろうが。ほら、治してやれ」
「いい教訓になると思う」
「出禁になるぞ」
「チッッッ」
非常に渋々と言いたげに男に近づいたハオ。男はそれにビクリと怯え、既にトラウマになっていることにガロンは頭を押さえる。ハオは顔は最大限に顰めつつ、青痣くらいは残る程度に治してやろうと魔法を使った。
男は怯えたままそそくさと逃げ出し、その背中にんべっ!と舌を出す。行儀が悪いだなんだと小言を言うガロンは無視して、カザキはまだかと空に目をやった。
そして目の前でぷわん、と音を出す魔道具に飛び出しそうになった悲鳴を飲み込む。
「っ、っ!っ!!ビックリした!いつの間に…」
「急に現れたな。ん…ディスプレイが勝手に出てきたぞ」
『登録No.80067の魔法使用を確認。使用された属性・土属性。魔法を解析します。解析結果→回復魔法。問題ありません』
現れたディスプレイ並べられていく文字。どうやらハオが魔法を使ったことに反応し、それに害があるかどうかを調べに来たらしい。
この魔道具は来館者の案内や本の検索だけでなく、図書館全体の見回りと警護も兼ねたものだったらしい。そりゃ大量に設置される訳だと納得する。下手に魔法を使えば、すぐさま近くにいる魔道具が飛んでくるのだろう。
森の見回り様に一台欲しいなぁなんて呑気に考えていれば、本を抱えたカザキが戻ってきた。このままうろついても時間が無くなるだけなので、三人は計五冊の本を持って借りた小部屋へと向かう。
一台の魔道具が後をついてくることに首を傾げるカザキに、多分さっきのせいだなとハオは冷や汗を流す。弟の説教が一番心にくるのだ。絶対にバレたくないとガロンに目配せをすれば、呆れた目を向けられる。
「あー、そういやガロン。お前さっきどこに行ってたんだ?」
「はぁ…知った顔が居たような気がしたんだが、見失ってな」
「ふぅん?一声かけていけよ」
「かけた。お前も返事をしたぞ」
「やべっ」
やはり自分が聞いていなかっただけらしい。誤魔化すように足を早めたハオに、後ろの二人は顔を見合わせて肩をすくめたのだった。
基本的には筆者名順で並んでいるようだが、魔道具に指示を出せば並べ替えたり指定した筆者のものを呼び寄せてくれるらしい。至れり尽くせりだなと、せっかくだから発行順で並び替えて貰う。
「数はそこまで多くないが…全部読むわけではないんだろう?」
「そりゃあね。ん~…一番古いヤツ、真ん中くらいの、最新ってところかな。簡単に流し読みして三冊選んでみるわ」
「手分け、する?」
「あ~……だな。カザキはそこら辺にある属性についての本を見繕ってくれるか?」
「ん。行ってくる」
魔道具をカザキに譲って、ハオは並び直された本の背表紙を見る。ガロンは他の場所に行くつもりはないのか、適当に隣の棚から本を抜いて時間を潰すことにしたようだ。
ハオは元々魔法を習っていたことがある。その教本として色んな学者が出した本に目を通して来たため、有名どころならある程度知っている。だから今回選ぶべきは、ハオが知らない筆者のものだ。
とりあえず一番古いものから、と左上の端に移動した本に指をかけた。だが取る前にその背表紙に違和感を覚えて、取り出して開く前に表紙を観察する。
装丁はすこし古ぼけているが濃いクリーム色。着色をしたというより、鞣した皮をそのまま加工したような感じだ。表紙と背表紙の文字は焼き入れられたもの。裏表紙には商品コードも発売日も記されておらず、誰かの手作りとよく分かる。感じた違和感は、装丁の何処にも筆者の名前が書かれていないことだろう。
焼き入れられた題名は『精霊の力の掛け合わせ』という、至極シンプルなものだった。
似たものを、何処かで見た気がする。手作り感のある皮の装丁に、焼きごてで入れられた文字。中身をパラりと捲れば、古そうな見た目の割にページは問題なく送られた。
個人で作った本をここに寄付したのだろう。寄付するまでに放置でもしていたのか黄ばみや表紙のスレは見当たるが、今は魔法で保護されているようでよっぽどの事がない限り破損も汚れもしなさそうだ。
中身を流し読みしたところ、かなりヒントになりそうな単語がいくつか引っかかった。すこし飛ばして横の本も見てみるが、そちらはあまり有益な情報はなさそうである。
最新まで飛ばし飛ばし読んでみたが、どれも同じことばかり。やはりこの国でも難しいことなのだろう。一番古い本と似たり寄ったりな内容は、そこから先にどうしても進めないのだという研究者たちの苦悩と落胆が伝わってくる。
これは最新のものも同じかなと思いつつも、一番右下にある本を取り出した。表紙に刻まれた文字は『属性を複合させるには』。こちらも至ってシンプルなタイトルである。
筆者も全く知らない人物であるため、もしやという期待とどうせという諦めが混ざる。だが一応念の為、とページを捲った。
パチリと、ピーチピンクの瞳が瞬く。パラパラとページを早送りして、最後に出てきた著者近影を確認する。本職と書かれた欄をじっと見て、ふむと一人頷いた。
「ガロン!直接話を聞けそうな──あれ、居ない…」
最新の本は、古い本の内容を更に展開したものとなっていた。おそらくそれをベースにして、筆者なりの考えで理論をまとめたのだろう。多少矛盾点はありそうだったが、今の所一番の有力情報だ。
しかも著者近影に書かれたことが今も確かであれば、この筆者はそこらの学者よりも簡単に会える可能性が高い。是非とも直接会って話を聞きたいなと思ったハオは、その事を伝えようと隣りのガロンへ話しかけようとした。
だが振り返った所に彼は居なかった。おそらく別の場所で気になる本でも見つけたのか、物珍しくて別の場所を見に行ったのかしたのだろう。声を掛けられなかったような気がするが、単純にハオが聞いていなかっただけかもしれない。そういうことは昔もよくあった。
ガロンもカザキもここに戻ってくるはずだ。下手に動いてはぐれてもいけないしなぁと、隣の棚にもなにか無いか見る。見ようとした。
「ねぇ君、一人?」
「あ?」
トン、と目の前を遮るように腕が現れた。本棚に手をついたその腕を辿ればいかにも軽薄そうな、ハオにとっては印象の薄い男がこちらを見下ろしていた。
覚えのある状況に舌打ちしそうになるが、反応したら負けだと無視して逃げようと踵を返す。だがそれは察せられていたのか経験則か、男はハオに覆い被さるように反対側にも手をついた。
今度こそ飛び出した舌打ち。だが都合の良い耳を持っているらしい男は聞こえていなかったのか、一人ならどうたらこうたらと興味のない話しを始めた。
知らない奴に話しかけられたことでハオの機嫌は最低を通り越してマイナスである。そも、森育ちで他者との関わりの少ない幼少期を過ごしたハオは『知らない他人』が苦手であった。
今はクリスによって多少直されたため平気になったが、警戒心はそのままにされた上で強化されている。特に不躾な輩というのが大嫌いなハオは、そういった他人に話しかけられると機嫌が急降下してしまうのである。
昔はガロンが大体一緒にいたからか声を掛けられることは少なく、錬金術師になってからは爆弾魔として活動したため一年でそんな輩は湧かなくなった。だがここはイグアスタの王都ではなく、ゆえにハオのことを知らないアホが勘違いして話しかけてくる確立はかなり高い。
ここ最近はめっきりなかったため完全に油断していた。誰が女顔だ。誰が低身長だ。これでも気にしてるんだぞと頬を引き攣らせながら、今だ目の前から退かない男の足を思い切り踏んづけて睨みつけた。
「さっきからうるせーんだよ、図書館じゃ静かにしろってママから言われなかったか?あ゛?」
「いっ………え、は?」
ちなみにハオは見た目こそ女性と見紛うものであるが、その声は正しく性別に合っているものである。確かに同性の中では高い方だろうが、きちんと男性と分かる声だった。
これでもなお、声が低いんだね!と現実を見ないアホが居るので、その場合ハオは容赦なく爆弾をぶん投げていた。だがここは他国で図書館の中である。いくら魔法で保護されていても本のある場所で爆発物は使いたくない。
あとこんなアホのせいで出禁にもなりたくない。なのであくまでも図書館というのを考慮した声量で、だが踏みつけた足の力は決して抜かず。
八つ当たりを決行した。
「つか何だテメェ、突然進行方向を腕で邪魔して話しかけてきやがって。普通に声かけらんねぇのか?今のがかっこいいとでも思ってんのか?」
「痛い痛いご、ごめんなさ」
「ダッセェよキメェよ意味わかんねぇよ。しかも逃げ道まで塞いで?初対面で話しかけたばかりの相手に覆いかぶさって?警邏に突き出されても文句言えねぇ行動なの分かってんのか?女にこれやってんの?ただただ恐怖を与えてるだけだからやめた方がいいと思うぜ。気持ち悪いし」
「す、すみませんすみません、痛いです痛いっ!」
「あとナンパするならもっと鍛えてから出直すんだな。ンなひょろっこい印象にも残らない見た目でよく出来るぜ…恥ずか」
「おい、そこまでにしてやれ」
さっさと腕を退けろや!という気持ちのまま男を責め立てていたハオだったが、男を背後から現れたガロンの声にピタリと止まる。八つ当たりがバレたかと足を退けて素知らぬ振りをするが、しっかり見られていたようで深いため息を吐き出された。
実は男がハオに覆いかぶさった辺りで戻ってきていたガロン。人の物(違う)に何してやがると怒り心頭で近づいたのだが、男を捻り潰そうと手を伸ばす前に男の足がハオに踏み潰された。あ、と思っても遅い。
過去、幾人ものナンパ男の心を折った男の口撃が始まってしまった。ナンパされた側の率直な感想を心底嫌そうに、本当に気持ち悪いのだと全面に出した言い方をするので全員心がバッキバキに折られるのだ。
ある者は白に近い色の髪がトラウマになったし、ある者は長髪低身長がダメになった。またある者は大きな音に怯え土下座し始めるといった具合に、何人か物理的対処をされているが大層なトラウマを植え付けてきた。
そんな男がせっかくの旅行先で、見たことない本も多い図書館に心を踊らせていた所に水を差されたらどうなるか。そう、相手の心がボキッと折られるのである。
多分ついでに足の指の骨も折られてそうだなと、意気消沈した男に哀れみを持つガロン。自分も先程まではどうしてくれようかと考えていたことは棚に上げて、男を引き離しつつ流石にやり過ぎであることをハオに諭す。
「怪我をさせたらこちらが悪くなるのは分かっていたはずだ。何故足を思い切り踏んでしまった」
「右足だから大丈夫かなって」
「完治したのだから結局同じだろうが。ほら、治してやれ」
「いい教訓になると思う」
「出禁になるぞ」
「チッッッ」
非常に渋々と言いたげに男に近づいたハオ。男はそれにビクリと怯え、既にトラウマになっていることにガロンは頭を押さえる。ハオは顔は最大限に顰めつつ、青痣くらいは残る程度に治してやろうと魔法を使った。
男は怯えたままそそくさと逃げ出し、その背中にんべっ!と舌を出す。行儀が悪いだなんだと小言を言うガロンは無視して、カザキはまだかと空に目をやった。
そして目の前でぷわん、と音を出す魔道具に飛び出しそうになった悲鳴を飲み込む。
「っ、っ!っ!!ビックリした!いつの間に…」
「急に現れたな。ん…ディスプレイが勝手に出てきたぞ」
『登録No.80067の魔法使用を確認。使用された属性・土属性。魔法を解析します。解析結果→回復魔法。問題ありません』
現れたディスプレイ並べられていく文字。どうやらハオが魔法を使ったことに反応し、それに害があるかどうかを調べに来たらしい。
この魔道具は来館者の案内や本の検索だけでなく、図書館全体の見回りと警護も兼ねたものだったらしい。そりゃ大量に設置される訳だと納得する。下手に魔法を使えば、すぐさま近くにいる魔道具が飛んでくるのだろう。
森の見回り様に一台欲しいなぁなんて呑気に考えていれば、本を抱えたカザキが戻ってきた。このままうろついても時間が無くなるだけなので、三人は計五冊の本を持って借りた小部屋へと向かう。
一台の魔道具が後をついてくることに首を傾げるカザキに、多分さっきのせいだなとハオは冷や汗を流す。弟の説教が一番心にくるのだ。絶対にバレたくないとガロンに目配せをすれば、呆れた目を向けられる。
「あー、そういやガロン。お前さっきどこに行ってたんだ?」
「はぁ…知った顔が居たような気がしたんだが、見失ってな」
「ふぅん?一声かけていけよ」
「かけた。お前も返事をしたぞ」
「やべっ」
やはり自分が聞いていなかっただけらしい。誤魔化すように足を早めたハオに、後ろの二人は顔を見合わせて肩をすくめたのだった。
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