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天才錬金術師と最強S級冒険者
16。エンジョイしようぜ
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エヴィレーゼ王国は乾燥地帯に築かれた国であり、緑に囲まれたイグアスタ王国とは違い乾いたサバンナと岩山に囲まれている。崖などの高地も多く、鱗のある生物や風属性と火属性の魔物が多い印象だ。
この国は先も言ったように他の場所で溢れた亜人や、魔物に近い存在である魔族なんかも受け入れている。そのため種族の数が世界で一番多く、道を一本ズレれば全く別の文化が広がる場所へ出たりする。
出身者曰く、建物が多いため路地が基本的な通り道なんだとか。似たような文化で区画が分けられており、店も人も物も多いから飽きの来ない国らしい。
そしてこの国は何より──
「すっげぇーー!!!絨毯が大量に荷物乗せて空飛んでるぞ!!あんな不安定なヒラヒラに安定して物を乗せてる!!あれは浮きと固定と移動を同時進行で発動してるんだろうか、あれだけの荷物を不安定な布に乗せた上で落とさないよう均等に満遍なく魔力を注ぎ、かつそれを落とさないように固定しながら一定のスピードで飛ぶなんて!!少しならともかくあの量はオレだって出来るか分かんねーー!!!」
「おい、ここの街灯は全て支柱がないぞ。常に浮いてる…のか?」
「色んなとこに、魔法陣…あ、獣人。ん、アカスナタテガミヤマアラシ、かな。針、凄い」
入国料を払って王都に入る為の門を潜れば、真っ先に目に入るのは多種多様な魔法による景色。これぞ魔法大国。イグアスタでは見られない光景に、三人は興味の惹かれるままキョロキョロと目に付くものを観察する。
兵士をやってはいたが、根が研究者気質で元々魔法の得意なハオがその魔法技術に一人でマシンガンの如く喋り。
支柱もなくふよふよと浮いて柔らかいオレンジの光を発する灯りに、魔法が身近になかったガロンが興味深そうに眺め。
地面や空中、建物の壁にまで描かれた魔法陣を見ていたカザキは視界に入った獣人を思わず目で追っていた。
三者三様の反応に、通ったばかりの門に配属されている警備兵が微笑ましげに目元を和らげる。完全にただの観光客を見る目である。それは確かに間違いではないが、A級パーティが『ただの』観光客とはあまり言えないだろう。
まぁそんなこと警備兵には知ったこっちゃないので、こんなに良い反応をするならとオススメの観光スポットを三人に教えてくれた。どれもこの国ならではの名所であり、国民にとっては来たなら是非見て行って欲しい場所である。
教えて貰った名所は、西のオアシスと宝石採掘体験場と魔王城。
ま お う じ ょ う。
「魔王城、観光スポットなの!?」
「あぁ!鏡越しだか、魔王様が相談を請け負ってくれたりするぞ。執務でお忙しいときも多いが」
「随分と親身な王だな……いや、うちの王も大概だが…」
「うん。庶民派で、脱走癖も酷い」
「お、なんだ。君らイグアスタの人かい」
魔王城の観光できる場所の一つに、魔王の鏡と呼ばれるものがあるらしい。それは魔王が持つ鏡と繋がっていて、話しかけると時間があれば魔王直々に姿を見せて話をしてくれると。
何そのアトラクションみたいなの、とそわそわするハオ。その横で自国の王を思い出したガロンとカザキは苦い顔をする。なんと言うか、王ってそんな簡単に表に出ていいもんだっけ?と疑問に思わざるを得ない。
そして自国の王の脱走癖が他国にもバレている。別に気にすることでは無いのだが、なんかこう…とても微妙な気持ちである。警備兵の言葉に頷けば、更に魔王城を勧められた。
なんでも、イグアスタ出身で片手剣使いなら是非魔王に挑んでみればいいと。いや、いいのかそれ?と三人がギョッとしていれば、警備兵は笑って肯定した。
曰く、先々代のイグアスタ国王が魔王に喧嘩を挑んでからの恒例行事らしい。どういうことだ。確かに、先々代と魔王が友人関係だったのは近隣諸国ではそこそこ有名な話である。だからって恒例行事にする意味はあるのか。
まぁ、魔王本人が随分と楽しんでいるそうだが。だから国民たちは、魔王様が楽しいのなら!と全肯定しているらしい。かなり慕われている王のようだ。
そこまで言うならと、ついでに良さげな宿もいくつか教えて貰った三人はまず魔王城に行ってみることにした。最後のお楽しみにしても良かったのだが、やっぱり見たことない魔王は気になるのである。
「時間あるようなら、ちょっと話すだけな。勝負はなしだ」
「…一試合」
「ダメだって」
「……十分」
「ダメ」
「……………五分」
「だぁめ」
…約一名、物凄く勝負がしたそうであるが。
食い下がるガロンに、にべも無く却下するハオ。諦めの悪い彼にこの戦闘狂めと思ったが、彼は自身の力を向上させることに余念がないだけで戦闘狂ではないなと思い直す。だとしても許可は出来ないのだが。
別に勝負自体は構わないのだが、それを楽しみにしてる魔王と体力無尽蔵が一試合で終わる気がしない。もしそれで国の執務とかが滞ったりしたら申し訳ないし。国際問題とかにならないか怖いし。あと何でか、どう隠しても局長にバレる気がする。
歩きながら同じことを繰り返していれば、埒が明かないと感じたのか。ガロンは一歩後ろを歩いていたカザキを振り返る。それに助言を求められてるんだろうなと察したカザキは少し悩んで。
「今日約束して、今度にすれば、いい」
「なるほど」
「こら、カザキ。入れ知恵すんじゃねぇ」
その場の思いつきではなく、きちんと予定を立ててすれば問題ない。カザキの言いたいことはそういう事で、それを全部読み取ったハオはそうだけどそうじゃない…と額を抑える。そしてもはや諦めた。今休暇中だし、というのは現実逃避の言い訳である。
建物と建物で入り組んだ道は、路地と言っても四人くらいならすれ違えられる程度には広かった。人種が多いため、身体が大きな種族にも考慮しての広さなのだろう。
どこに何があるか分からないかと思っていたが、その予想に反してどんな店があるかは分かりやすかった。何せ魔法大国。上を見れば看板があるだけでなく、魔法による標識や付近の地図などが空中に映し出されているのである。
「あれのおかげで余り迷う心配は無さそうだな。でも局長が移動は空飛んだ方が良い、って言ってた理由はよく分かった」
「あぁ…道は思ったより広かったが、それでも路地だから狭い。おかげで余計に人数が多いように感じる…」
「迷いはしないけど、人に押されてはぐれそう…あ!あの看板、教えてもらった宿じゃないか?マトンシチューが美味いって言う」
警備兵に教えてもらった特徴の看板を見つけ、そちらの道へと人を避けつつ入り込む。国の出入口に続くからか先程まで居た道は人が多かったが、一本ズレればそこまで人数はいなかった。
道を考えればそこまで歩くのも大変じゃなさそうだと考えて、早めに宿を取ってしまおうかと宿屋に向かう。だが一歩を踏み出したところで、パッと見つけたから勝手に決めてしまったことにハオは気づいた。他にも教えてもらった宿はあるのだ。
「悪い、勢いで決めたけどあそこでいいか──…カザキ?」
隣のガロンと後ろにいたカザキに確認を取ろうとしたハオは、振り返ってピーチピンクの瞳をあらん限りに見開いた。同時に後ろを向いたガロンもビタリとその場に固まる。
振り返ったそこに、カザキはいなかった。
「─なぁ、さっき珍しい見た目の奴が通ったろ」
「珍しい見た目?」
エヴィレーゼ王国王都の入口である門。その内側を担当している警備兵は、外側担当である同僚に声をかけられて首を傾げる。珍しさだけで言えば、この国にはそんな種族がかなりいるわけで。
はてどれの事かと首を捻って、言われた特徴にあぁ!と手を打つ。
「銀髪で耳の尖ったあの二人か!確かに通ったが…どうかしたか?」
「さっき東側から連絡が入ったんだが、"ハンター"らしき奴らを見かけたらしい。観光客だと知らないから注意を…と思ったんだが、もう行ってしまったか」
「あぁ、ついさっき。そうか、しまったな…」
警備兵は難しい顔をして頭を掻いた。何がなくとも、教えておくべきだったかもしれない。自国をあそこまで楽しそうにしてくれるから、あれもこれもと喋りすぎてうっかり言い忘れてしまった。
先程行ってしまった三人組を思い出す。一人は黒髪で普通の男だったが、問題は兄弟らしい綺麗な銀髪をした二人だ。ちらりと髪から覗いたその耳は、恐らく対象になってしまうだろう。
「珍しい種族を捕まえて売る異種族ハンター…奴らに見つからなければいいけれど…」
この国は先も言ったように他の場所で溢れた亜人や、魔物に近い存在である魔族なんかも受け入れている。そのため種族の数が世界で一番多く、道を一本ズレれば全く別の文化が広がる場所へ出たりする。
出身者曰く、建物が多いため路地が基本的な通り道なんだとか。似たような文化で区画が分けられており、店も人も物も多いから飽きの来ない国らしい。
そしてこの国は何より──
「すっげぇーー!!!絨毯が大量に荷物乗せて空飛んでるぞ!!あんな不安定なヒラヒラに安定して物を乗せてる!!あれは浮きと固定と移動を同時進行で発動してるんだろうか、あれだけの荷物を不安定な布に乗せた上で落とさないよう均等に満遍なく魔力を注ぎ、かつそれを落とさないように固定しながら一定のスピードで飛ぶなんて!!少しならともかくあの量はオレだって出来るか分かんねーー!!!」
「おい、ここの街灯は全て支柱がないぞ。常に浮いてる…のか?」
「色んなとこに、魔法陣…あ、獣人。ん、アカスナタテガミヤマアラシ、かな。針、凄い」
入国料を払って王都に入る為の門を潜れば、真っ先に目に入るのは多種多様な魔法による景色。これぞ魔法大国。イグアスタでは見られない光景に、三人は興味の惹かれるままキョロキョロと目に付くものを観察する。
兵士をやってはいたが、根が研究者気質で元々魔法の得意なハオがその魔法技術に一人でマシンガンの如く喋り。
支柱もなくふよふよと浮いて柔らかいオレンジの光を発する灯りに、魔法が身近になかったガロンが興味深そうに眺め。
地面や空中、建物の壁にまで描かれた魔法陣を見ていたカザキは視界に入った獣人を思わず目で追っていた。
三者三様の反応に、通ったばかりの門に配属されている警備兵が微笑ましげに目元を和らげる。完全にただの観光客を見る目である。それは確かに間違いではないが、A級パーティが『ただの』観光客とはあまり言えないだろう。
まぁそんなこと警備兵には知ったこっちゃないので、こんなに良い反応をするならとオススメの観光スポットを三人に教えてくれた。どれもこの国ならではの名所であり、国民にとっては来たなら是非見て行って欲しい場所である。
教えて貰った名所は、西のオアシスと宝石採掘体験場と魔王城。
ま お う じ ょ う。
「魔王城、観光スポットなの!?」
「あぁ!鏡越しだか、魔王様が相談を請け負ってくれたりするぞ。執務でお忙しいときも多いが」
「随分と親身な王だな……いや、うちの王も大概だが…」
「うん。庶民派で、脱走癖も酷い」
「お、なんだ。君らイグアスタの人かい」
魔王城の観光できる場所の一つに、魔王の鏡と呼ばれるものがあるらしい。それは魔王が持つ鏡と繋がっていて、話しかけると時間があれば魔王直々に姿を見せて話をしてくれると。
何そのアトラクションみたいなの、とそわそわするハオ。その横で自国の王を思い出したガロンとカザキは苦い顔をする。なんと言うか、王ってそんな簡単に表に出ていいもんだっけ?と疑問に思わざるを得ない。
そして自国の王の脱走癖が他国にもバレている。別に気にすることでは無いのだが、なんかこう…とても微妙な気持ちである。警備兵の言葉に頷けば、更に魔王城を勧められた。
なんでも、イグアスタ出身で片手剣使いなら是非魔王に挑んでみればいいと。いや、いいのかそれ?と三人がギョッとしていれば、警備兵は笑って肯定した。
曰く、先々代のイグアスタ国王が魔王に喧嘩を挑んでからの恒例行事らしい。どういうことだ。確かに、先々代と魔王が友人関係だったのは近隣諸国ではそこそこ有名な話である。だからって恒例行事にする意味はあるのか。
まぁ、魔王本人が随分と楽しんでいるそうだが。だから国民たちは、魔王様が楽しいのなら!と全肯定しているらしい。かなり慕われている王のようだ。
そこまで言うならと、ついでに良さげな宿もいくつか教えて貰った三人はまず魔王城に行ってみることにした。最後のお楽しみにしても良かったのだが、やっぱり見たことない魔王は気になるのである。
「時間あるようなら、ちょっと話すだけな。勝負はなしだ」
「…一試合」
「ダメだって」
「……十分」
「ダメ」
「……………五分」
「だぁめ」
…約一名、物凄く勝負がしたそうであるが。
食い下がるガロンに、にべも無く却下するハオ。諦めの悪い彼にこの戦闘狂めと思ったが、彼は自身の力を向上させることに余念がないだけで戦闘狂ではないなと思い直す。だとしても許可は出来ないのだが。
別に勝負自体は構わないのだが、それを楽しみにしてる魔王と体力無尽蔵が一試合で終わる気がしない。もしそれで国の執務とかが滞ったりしたら申し訳ないし。国際問題とかにならないか怖いし。あと何でか、どう隠しても局長にバレる気がする。
歩きながら同じことを繰り返していれば、埒が明かないと感じたのか。ガロンは一歩後ろを歩いていたカザキを振り返る。それに助言を求められてるんだろうなと察したカザキは少し悩んで。
「今日約束して、今度にすれば、いい」
「なるほど」
「こら、カザキ。入れ知恵すんじゃねぇ」
その場の思いつきではなく、きちんと予定を立ててすれば問題ない。カザキの言いたいことはそういう事で、それを全部読み取ったハオはそうだけどそうじゃない…と額を抑える。そしてもはや諦めた。今休暇中だし、というのは現実逃避の言い訳である。
建物と建物で入り組んだ道は、路地と言っても四人くらいならすれ違えられる程度には広かった。人種が多いため、身体が大きな種族にも考慮しての広さなのだろう。
どこに何があるか分からないかと思っていたが、その予想に反してどんな店があるかは分かりやすかった。何せ魔法大国。上を見れば看板があるだけでなく、魔法による標識や付近の地図などが空中に映し出されているのである。
「あれのおかげで余り迷う心配は無さそうだな。でも局長が移動は空飛んだ方が良い、って言ってた理由はよく分かった」
「あぁ…道は思ったより広かったが、それでも路地だから狭い。おかげで余計に人数が多いように感じる…」
「迷いはしないけど、人に押されてはぐれそう…あ!あの看板、教えてもらった宿じゃないか?マトンシチューが美味いって言う」
警備兵に教えてもらった特徴の看板を見つけ、そちらの道へと人を避けつつ入り込む。国の出入口に続くからか先程まで居た道は人が多かったが、一本ズレればそこまで人数はいなかった。
道を考えればそこまで歩くのも大変じゃなさそうだと考えて、早めに宿を取ってしまおうかと宿屋に向かう。だが一歩を踏み出したところで、パッと見つけたから勝手に決めてしまったことにハオは気づいた。他にも教えてもらった宿はあるのだ。
「悪い、勢いで決めたけどあそこでいいか──…カザキ?」
隣のガロンと後ろにいたカザキに確認を取ろうとしたハオは、振り返ってピーチピンクの瞳をあらん限りに見開いた。同時に後ろを向いたガロンもビタリとその場に固まる。
振り返ったそこに、カザキはいなかった。
「─なぁ、さっき珍しい見た目の奴が通ったろ」
「珍しい見た目?」
エヴィレーゼ王国王都の入口である門。その内側を担当している警備兵は、外側担当である同僚に声をかけられて首を傾げる。珍しさだけで言えば、この国にはそんな種族がかなりいるわけで。
はてどれの事かと首を捻って、言われた特徴にあぁ!と手を打つ。
「銀髪で耳の尖ったあの二人か!確かに通ったが…どうかしたか?」
「さっき東側から連絡が入ったんだが、"ハンター"らしき奴らを見かけたらしい。観光客だと知らないから注意を…と思ったんだが、もう行ってしまったか」
「あぁ、ついさっき。そうか、しまったな…」
警備兵は難しい顔をして頭を掻いた。何がなくとも、教えておくべきだったかもしれない。自国をあそこまで楽しそうにしてくれるから、あれもこれもと喋りすぎてうっかり言い忘れてしまった。
先程行ってしまった三人組を思い出す。一人は黒髪で普通の男だったが、問題は兄弟らしい綺麗な銀髪をした二人だ。ちらりと髪から覗いたその耳は、恐らく対象になってしまうだろう。
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