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天才錬金術師と最強S級冒険者
10。暇だとやること探すよね
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─はじめに、光と闇が生まれた。
─光によって大地に芽が生えた。
─それが焼けて炎が生まれた。
─鎮火のために闇が水を生み出した。
─それによって世界に風が生まれた。
─それが始まり。
─それが世界の中心で起きた出来事。
─故に、その場所は始まりの名を冠している。
─だからこそ、
──安易にそこへ踏み入ってはならぬのだ。
─────
ガサガサと草をかき分け、目当てのものだけを摘んで鞄に仕舞っていくハオを眺めるガロン。自分は他の雑草とあまり見分けがつかないが、きちんと見分けの付いている様子のハオに関心する。
兵士時代にもやたら薬草類に詳しいと思ったことは多々あり、彼の実家が自然豊かなところにあると一度聞いた記憶があった。だから詳しいんだな、と思い出して一人納得する。
それと同時に、その実家の場所すら知らないということも思い出す。確かに自分たちは相棒という立場であったし、何年も同室で暮らしていた。だから趣味趣向や癖などは知っているし、多少なりとも思考も読める。
だが、自分たちは互いにその出自も何も知らないのだ。出会った頃はそういう馴れ合いを拒んだのはガロンの方であり、合わせてくれたのはハオの方だ。しかし心を許したところで詮索も何もしなかったしされなかった。
ガロンが唯一知っていることは、ハオには溺愛している弟が一人いることだけ。彼自身のことはよく知っているが、その同時に彼の周りのことは何も知らない。今更ではあるが、それがどうにも気に食わなくなってしまったのは何故だろうか。
そんなことを考えながら採取を続けるハオの背中を見る。正直ついて来たはいいが、何も出来ることがない。
あるとすれば獣や魔物がいつ現れても対処出来るよう気を張っておく事だけで、しかしこの始まりの森は一般人が立ち入っても良いぐらい危険がない。奥に踏み込まない限り安全で、入口付近には危ない魔物などいないのだ。
手持ち無沙汰になるのは承知の上でついてきたが、予想以上に何も出来ることがなくガロンは若干の申し訳なさを感じていた。ハオがそれを聞けば別に気にすんなよ、とでも笑うのだが、如何せん今の彼は薬草採取に夢中である。
時間にしておよそ1時間ほどが経過した頃。入口付近で採れる薬草を全て採り終わったハオと、あまりの手持ち無沙汰に知っている木の実や果実などを集めていたガロンが顔を見合わせていた。
お互いに採取したものを見て、もう一度顔を見合う。それにハオがふはっ!と吹き出し、楽しそうにケラケラと笑う。
「ふははっ!なんかしてんなぁって思ってたら、木の実採ってたの?」
「暇だったもので。お前の方はそんなに量は無さそうだな」
「採りすぎんのも森に悪いからな!そっちは随分大収穫だな?」
「…つい」
「んふ。まぁ、半分ぐらいドライフルーツにでもしたらいいんじゃねぇか?今度の冒険に持ってく用にさ!」
「いいな、それ」
外套を受け皿にしているガロンに、ハオは鞄から巾着袋を出して差し出す。鞄に一緒に入れるとしても、柔らかい木の実などは避けておかないと潰れてしまうので。
巾着に木の実を詰め、薬草の入った鞄にそれも仕舞って残りを探しに二人はその場を移動し始める。
残りは少し奥に近い方をあると言うハオに、奥への立ち入りを禁じられていることを知るガロンは大丈夫なのかと疑問を零す。ギリギリの位置にはなるがまだ立ち入れる場所だと言われ、それならいいかとそれ以上の追求はしなかった。
だからこそ、森に慣れているハオが異変に気付くのが遅れた。
「あ!そうだ、ガロン。"連れてかれない"様に手か何かを繋いで……あれ?ガロン?」
何か大事なことを思い出したかのようにガロンの方を振り返れば、後ろをついてきていたはずの彼の姿は何処にもなくなっていた。ぐるりと辺りを見渡しても同様で、彼はふざけて隠れるような人物ではないため何かがあったのは確実。
そしてふと、自分が今立っている地面を見下ろす。しばらく眺めながら考え込み、原因を思い当たってやらかしたと頭を掻く。
ハオの足元、そこに生えている雑草の色は深い深い緑だった。対して数歩前の雑草の色は、明るい緑。
それはまるで境界線の様に、キッパリと別れていた。
はぁ…と大きなため息を一つ吐き出して、木々が鬱蒼と茂る森の奥を見やる。ざわりと葉の揺れる音が、影が、まるで人を誘い込むような動きに見えた。
─キャハハッ
その奥から、幼い子供のような笑い声が聞こえた。
─────
「……はぁ…」
大きなため息を一つ吐き出して、ガロンは周りを見渡した。ハオの後ろをついて森を歩いていたのだが、どこかで一歩を踏み出した瞬間に目の前のハオが掻き消えたのである。
否、おそらく消えたのは自分の方だ。ハオだけでなくその先の景色も歪んでいたので、ブレたのは周りではなく自分の視界。歪む直前に子供の笑い声のようなものが聞こえたので、原因はおそらくそれだろう。
下手に動いて迷う訳にもいないため、その場に留まったままガロンは考える。あいにくと、ガロンは魔法が使えない。正しくは『属性魔法』に適性が皆無であり、無属性である身体強化系の魔法しか使えないのである。
この世界の魔法は、主に七つの属性に分けられている。基本の土、水、火、風属性に加え、扱いの難しい光と闇属性。そして何処にも当てはまらない無属性である。
魔法の発動方法は至ってシンプルであり、自身の持つ魔力を繋ぎにして世界に漂う『精霊の欠片』を集め形にする。何かを燃やしたければ火属性の欠片を、植物を生やしたければ土属性の欠片を集める。
それだけかと言われればそれだけなのだが、大きな魔法にはそれだけ大量の魔力と欠片が必要になる。場所によって精霊の欠片の量は変動するので、例えば海辺などでの火魔法は使いにくい。
ちなみに、そういう大掛かりな魔法を簡略化するための魔法陣なんかを作っているのも魔法省である。単純に仕事が多い職場だ。
無属性は精霊の欠片が必要ない、自身の魔力だけで使える魔法だ。精霊の属性と魔力には相性があり、ガロンは基本属性との相性が悪かった。光と闇はそもそも滅多に存在が確認出来ないため調べようがない。
そんなわけで、狼煙を上げることもなにも出来ない。魔道具ぐらい持ってくれば良かったかと思うも、そもそも森の奥に近づくと聞いた時点でもっと警戒をすれば良かったのだが後の祭りだ。
ハオがさも慣れているようだったので油断していたが、いくら彼が慣れていようとガロンは森初心者も同然であった。確かに森で野営したことも、場所が森の依頼も何度かこなしたこともある。
が、おそらく現在地は始まりの森の奥にある迷いの森だ。そこらの一般森林での実習など参考にならない。
鬱蒼と茂る木のおかげで薄暗い森をもう一度見渡し、さてどうしたものかとゆるく頭を振る。その時、不意に視界のすみで何か明るいものがチラついた気がした。そちらを見れば、木に何かが引っかかっているのが見える。
動物でも枝に引っかかったのかと思わず手を伸ばす。もふり、と動物の毛のような、綿菓子のような感触がした。随分と毛足が長いのか、枝やら葉っぱやらが絡んでしまったのだろう。そしてもがいて余計にくい込んだのだ。
そっとそれらを取り払い、ようやく毛玉のような生き物を救出する。薄いクリーム色の毛は、その色のせいか薄暗い森の中では緩やかに発光しているようにも見えた。片手から少しはみ出るぐらいの大きさの生き物は、クリクリとした目をガロンに向ける。
「…怪我は、無いようだな。これは何の動物だ?」
「……くぅ…」
「なんだ、それは…鳴き声か?それとも腹の音か?確か鞄に入り切らなかった木の実が……食えるか?」
「!!み!」
「…元気そうだな」
どこかぐったりした様子の生き物は、どうやら空腹なだけだったらしい。余っていた木の実を差し出せば、途端に元気になってかぶりついた。無心で木の実を貪り、もう無くなったのに気づいてまたガロンを見上げる。
だがもう全て平らげられたので、もうないという意思表示に首を軽く振る。そうすればしょんぼりと落ち込んだようだが、気を取り直したのかどこかキリッとした面持ちで顔(と思われる胴体)を上げた。
ぽふんと前足(と思われる毛の塊)でガロンの手を叩き、もう片方の前足でとある方向を指し示す毛玉な生き物。そちらを一度見て、ガロンは手元に視線を落とす。
その生き物は、まるで急かすようにチカチカと柔らかく瞬いた。どうやら、発光は色による錯覚ではなかったらしい。
動物ではなく魔獣の類かと一瞬疑いを持つが、殺意などは全くないので気にしないことにした。立ち尽くしているのもあれなので、その指し示された方向へと進むことにしたガロン。
悪い予感などは一切しないため、なるようになるだろうと歩き出す。冒険者業で、この手の順応力は軒並み発達してしまったのである。
その不思議な生き物は、まるでランタンの様にガロンの進む先を照らしていた。
─光によって大地に芽が生えた。
─それが焼けて炎が生まれた。
─鎮火のために闇が水を生み出した。
─それによって世界に風が生まれた。
─それが始まり。
─それが世界の中心で起きた出来事。
─故に、その場所は始まりの名を冠している。
─だからこそ、
──安易にそこへ踏み入ってはならぬのだ。
─────
ガサガサと草をかき分け、目当てのものだけを摘んで鞄に仕舞っていくハオを眺めるガロン。自分は他の雑草とあまり見分けがつかないが、きちんと見分けの付いている様子のハオに関心する。
兵士時代にもやたら薬草類に詳しいと思ったことは多々あり、彼の実家が自然豊かなところにあると一度聞いた記憶があった。だから詳しいんだな、と思い出して一人納得する。
それと同時に、その実家の場所すら知らないということも思い出す。確かに自分たちは相棒という立場であったし、何年も同室で暮らしていた。だから趣味趣向や癖などは知っているし、多少なりとも思考も読める。
だが、自分たちは互いにその出自も何も知らないのだ。出会った頃はそういう馴れ合いを拒んだのはガロンの方であり、合わせてくれたのはハオの方だ。しかし心を許したところで詮索も何もしなかったしされなかった。
ガロンが唯一知っていることは、ハオには溺愛している弟が一人いることだけ。彼自身のことはよく知っているが、その同時に彼の周りのことは何も知らない。今更ではあるが、それがどうにも気に食わなくなってしまったのは何故だろうか。
そんなことを考えながら採取を続けるハオの背中を見る。正直ついて来たはいいが、何も出来ることがない。
あるとすれば獣や魔物がいつ現れても対処出来るよう気を張っておく事だけで、しかしこの始まりの森は一般人が立ち入っても良いぐらい危険がない。奥に踏み込まない限り安全で、入口付近には危ない魔物などいないのだ。
手持ち無沙汰になるのは承知の上でついてきたが、予想以上に何も出来ることがなくガロンは若干の申し訳なさを感じていた。ハオがそれを聞けば別に気にすんなよ、とでも笑うのだが、如何せん今の彼は薬草採取に夢中である。
時間にしておよそ1時間ほどが経過した頃。入口付近で採れる薬草を全て採り終わったハオと、あまりの手持ち無沙汰に知っている木の実や果実などを集めていたガロンが顔を見合わせていた。
お互いに採取したものを見て、もう一度顔を見合う。それにハオがふはっ!と吹き出し、楽しそうにケラケラと笑う。
「ふははっ!なんかしてんなぁって思ってたら、木の実採ってたの?」
「暇だったもので。お前の方はそんなに量は無さそうだな」
「採りすぎんのも森に悪いからな!そっちは随分大収穫だな?」
「…つい」
「んふ。まぁ、半分ぐらいドライフルーツにでもしたらいいんじゃねぇか?今度の冒険に持ってく用にさ!」
「いいな、それ」
外套を受け皿にしているガロンに、ハオは鞄から巾着袋を出して差し出す。鞄に一緒に入れるとしても、柔らかい木の実などは避けておかないと潰れてしまうので。
巾着に木の実を詰め、薬草の入った鞄にそれも仕舞って残りを探しに二人はその場を移動し始める。
残りは少し奥に近い方をあると言うハオに、奥への立ち入りを禁じられていることを知るガロンは大丈夫なのかと疑問を零す。ギリギリの位置にはなるがまだ立ち入れる場所だと言われ、それならいいかとそれ以上の追求はしなかった。
だからこそ、森に慣れているハオが異変に気付くのが遅れた。
「あ!そうだ、ガロン。"連れてかれない"様に手か何かを繋いで……あれ?ガロン?」
何か大事なことを思い出したかのようにガロンの方を振り返れば、後ろをついてきていたはずの彼の姿は何処にもなくなっていた。ぐるりと辺りを見渡しても同様で、彼はふざけて隠れるような人物ではないため何かがあったのは確実。
そしてふと、自分が今立っている地面を見下ろす。しばらく眺めながら考え込み、原因を思い当たってやらかしたと頭を掻く。
ハオの足元、そこに生えている雑草の色は深い深い緑だった。対して数歩前の雑草の色は、明るい緑。
それはまるで境界線の様に、キッパリと別れていた。
はぁ…と大きなため息を一つ吐き出して、木々が鬱蒼と茂る森の奥を見やる。ざわりと葉の揺れる音が、影が、まるで人を誘い込むような動きに見えた。
─キャハハッ
その奥から、幼い子供のような笑い声が聞こえた。
─────
「……はぁ…」
大きなため息を一つ吐き出して、ガロンは周りを見渡した。ハオの後ろをついて森を歩いていたのだが、どこかで一歩を踏み出した瞬間に目の前のハオが掻き消えたのである。
否、おそらく消えたのは自分の方だ。ハオだけでなくその先の景色も歪んでいたので、ブレたのは周りではなく自分の視界。歪む直前に子供の笑い声のようなものが聞こえたので、原因はおそらくそれだろう。
下手に動いて迷う訳にもいないため、その場に留まったままガロンは考える。あいにくと、ガロンは魔法が使えない。正しくは『属性魔法』に適性が皆無であり、無属性である身体強化系の魔法しか使えないのである。
この世界の魔法は、主に七つの属性に分けられている。基本の土、水、火、風属性に加え、扱いの難しい光と闇属性。そして何処にも当てはまらない無属性である。
魔法の発動方法は至ってシンプルであり、自身の持つ魔力を繋ぎにして世界に漂う『精霊の欠片』を集め形にする。何かを燃やしたければ火属性の欠片を、植物を生やしたければ土属性の欠片を集める。
それだけかと言われればそれだけなのだが、大きな魔法にはそれだけ大量の魔力と欠片が必要になる。場所によって精霊の欠片の量は変動するので、例えば海辺などでの火魔法は使いにくい。
ちなみに、そういう大掛かりな魔法を簡略化するための魔法陣なんかを作っているのも魔法省である。単純に仕事が多い職場だ。
無属性は精霊の欠片が必要ない、自身の魔力だけで使える魔法だ。精霊の属性と魔力には相性があり、ガロンは基本属性との相性が悪かった。光と闇はそもそも滅多に存在が確認出来ないため調べようがない。
そんなわけで、狼煙を上げることもなにも出来ない。魔道具ぐらい持ってくれば良かったかと思うも、そもそも森の奥に近づくと聞いた時点でもっと警戒をすれば良かったのだが後の祭りだ。
ハオがさも慣れているようだったので油断していたが、いくら彼が慣れていようとガロンは森初心者も同然であった。確かに森で野営したことも、場所が森の依頼も何度かこなしたこともある。
が、おそらく現在地は始まりの森の奥にある迷いの森だ。そこらの一般森林での実習など参考にならない。
鬱蒼と茂る木のおかげで薄暗い森をもう一度見渡し、さてどうしたものかとゆるく頭を振る。その時、不意に視界のすみで何か明るいものがチラついた気がした。そちらを見れば、木に何かが引っかかっているのが見える。
動物でも枝に引っかかったのかと思わず手を伸ばす。もふり、と動物の毛のような、綿菓子のような感触がした。随分と毛足が長いのか、枝やら葉っぱやらが絡んでしまったのだろう。そしてもがいて余計にくい込んだのだ。
そっとそれらを取り払い、ようやく毛玉のような生き物を救出する。薄いクリーム色の毛は、その色のせいか薄暗い森の中では緩やかに発光しているようにも見えた。片手から少しはみ出るぐらいの大きさの生き物は、クリクリとした目をガロンに向ける。
「…怪我は、無いようだな。これは何の動物だ?」
「……くぅ…」
「なんだ、それは…鳴き声か?それとも腹の音か?確か鞄に入り切らなかった木の実が……食えるか?」
「!!み!」
「…元気そうだな」
どこかぐったりした様子の生き物は、どうやら空腹なだけだったらしい。余っていた木の実を差し出せば、途端に元気になってかぶりついた。無心で木の実を貪り、もう無くなったのに気づいてまたガロンを見上げる。
だがもう全て平らげられたので、もうないという意思表示に首を軽く振る。そうすればしょんぼりと落ち込んだようだが、気を取り直したのかどこかキリッとした面持ちで顔(と思われる胴体)を上げた。
ぽふんと前足(と思われる毛の塊)でガロンの手を叩き、もう片方の前足でとある方向を指し示す毛玉な生き物。そちらを一度見て、ガロンは手元に視線を落とす。
その生き物は、まるで急かすようにチカチカと柔らかく瞬いた。どうやら、発光は色による錯覚ではなかったらしい。
動物ではなく魔獣の類かと一瞬疑いを持つが、殺意などは全くないので気にしないことにした。立ち尽くしているのもあれなので、その指し示された方向へと進むことにしたガロン。
悪い予感などは一切しないため、なるようになるだろうと歩き出す。冒険者業で、この手の順応力は軒並み発達してしまったのである。
その不思議な生き物は、まるでランタンの様にガロンの進む先を照らしていた。
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