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アルベールハッピーエンド あなたと生きる道
4 不気味な扉 2 ✤(アルベール視点)
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少し変態注意
***
ヴィクトリアの手を握りしめながら、処刑場広場を囲っていた建物も抜けて外へ出たアルベールは、視線の先に乗り捨てられた無人の馬車を見つけて走り寄った。
華美な装飾の付いたその貴族的な馬車の持ち主の姿は近くにない。馬車に繋がれている二頭の馬は、良く訓練されているようで好き勝手に動き回ることもなく、所在なげにその場所に留まっていた。
「ヴィー、これを借りていこう。早く乗って」
「え、でも……」
「オニキスなら死ぬわけないから大丈夫だ。それよりも、ヴィーが美人すぎて逃げてる最中に獣人だと疑われる方がまずい気がする。街中を抜けるまでは馬車から出ないで、窓のカーテンも開けないようにね」
ヴィクトリアが馬車に乗ることを躊躇っている一番の理由が、オニキス云々よりも、「『番の呪い』にかかっている相手であるレインを残していくことだ」と理解しているアルベールは、ヴィクトリアがそれ以上何かを言うのを阻止するように早口で捲し立てると、戸惑うヴィクトリアを急かして、馬車の中に追いやった。
「あの…… アル……」
「大丈夫だよ、俺も念の為にこうやって顔を隠しておくから」
御者台に乗ったアルベールは、馬車の屋根から垂れ下がっていた飾り布を取って顔に巻き付けながら、ヴィクトリアの言葉を遮るようにしてそう言った。
顔の下半分を隠した状態で後ろを振り返ると、馬車の前面には御者とのやり取りのためなのか格子付きの小さな窓があって、格子の隙間からこちらを不安そうに見つめるヴィクトリアの美しすぎる顔が見えた。
(ああ、一刻も早くヴィーと……)
困ったようなヴィクトリアの極上級に美しい顔を見ているだけで、性欲と吸血への欲求がない混ぜになった情動が、アルベールの背中をゾクゾクと駆け上がってきて感じてしまう。
軽く勃起しそうになったが、妙な状態になったことを嗅覚でヴィクトリアに勘付かれると、警戒されて計画が駄目になると思ったアルベールは、ヴィクトリアとの愛の成就のため、強い意志の力で身体の反応を抑え付けた。
格子越しというのもまた良くない。長年喉から手が出るほどに欲しかった最愛の女性を捕獲し、自分だけの愛の鳥籠の中に閉じ込めることに成功したように思えて、気分がとても高揚した。
(でもまだ駄目だ。警戒心は抱かせない)
アルベールは普段通りに振る舞おうとしたが、思わず「ふふふ」と声を出して上機嫌に微笑し、ヴィクトリアの血の味を思い出しながら、布で隠した自分の唇を舐めた。
「ここの格子窓のカーテンも閉めておいて。じゃあ出発」
「……アル…………」
全ての窓のカーテンを閉めるように指示してから、アルベールは手綱を握って馬に鞭を入れ、何かを――レインのことを――言いたそうなヴィクトリアは完全無視して、馬車を走らせ始めた。
愛するヴィクトリアと一緒に行動できる幸せに浸っていたアルベールだったが、いきなり全身が総毛立つような嫌な感覚を覚えて真顔になり、馬車を止めた。
背後を振り返れば、処刑場がある辺りの上空に、目玉や骸骨の付いた巨大な扉が出現していた。
「……」
扉は開いている最中だった。扉の向こうには闇が広がっていて、そこから黒い靄のようなものが空中に放出されてた。
「アル、どうしたの?」
馬車の中から、突然止まったことを訝しむ麗しい声が聞こえてきた。
馬車を停止させた街道に人の姿はまばらだが、アルベールと同じく空に浮かぶ不気味な扉を発見した人間たちから、驚く声や悲鳴のような声が上がり始めていた。
どう返事をするべきかアルベールが逡巡している間に、人々の悲鳴を聞いたヴィクトリアが、カーテンの窓を開けて外を確認しようとするのが嗅覚でわかった。
アルベールは咄嗟に馬に鞭を入れた。馬が嘶き、馬車が急発進する。
「きゃっ!」
ヴィクトリアはカーテンに手をかけたものの、結局外を見ることは叶わず、急に動いた馬車の中で体勢を崩し、座席の背もたれに寄りかかっていた。
「ヴィー、俺たちの正体に勘付かれたかも。急ぐから掴まってて。カーテンは絶対に開けないでね」
アルベールはヴィクトリアの可愛らしすぎる悲鳴を聞いて、『もっと鳴かせたい』と背中に甘く痺れるような快感を走らせながらも、ヴィクトリアには不気味な扉のことは知らせず、周囲の悲鳴は自分たちへのものだと誤魔化してこの場から去ることにした。
アルベールにとってはヴィクトリアの安全が最優先だ。
あの扉の存在に気付いたら、ヴィクトリアはレインやオニキスが心配だから戻ると言い出しそうだった。
(あんな見るからに危険そうな禍々しいもののそばに、俺のヴィーを近付けたくはない)
アルベールには、ヴィクトリアを長年シドから守ってやれなかったという負い目があった。
今回はヴィクトリアを追いかけて里を飛び出すことができたが、前回、ヴィクトリアが初めて里から出奔した時は、ヴィクトリアを追いかけたシドの存在が恐ろしすぎて、彼女を追いかけることができなかった。
(今度こそ、ずっとそばにいたい……)
まるで地獄から顕現したかのような異様な扉の存在に、処刑場に残してきたオニキスが少しだけ心配ではあったが、アルベールは再度馬に鞭を入れると、馬車の速度を上げた。
***
その後の処刑場の様子についてはアルファポリス未掲載のシリーズ別作品「その結婚お断り(以下略)」のシリウスアナザーエンド(ヒロインはナディア)で書く予定です
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ヴィクトリアの手を握りしめながら、処刑場広場を囲っていた建物も抜けて外へ出たアルベールは、視線の先に乗り捨てられた無人の馬車を見つけて走り寄った。
華美な装飾の付いたその貴族的な馬車の持ち主の姿は近くにない。馬車に繋がれている二頭の馬は、良く訓練されているようで好き勝手に動き回ることもなく、所在なげにその場所に留まっていた。
「ヴィー、これを借りていこう。早く乗って」
「え、でも……」
「オニキスなら死ぬわけないから大丈夫だ。それよりも、ヴィーが美人すぎて逃げてる最中に獣人だと疑われる方がまずい気がする。街中を抜けるまでは馬車から出ないで、窓のカーテンも開けないようにね」
ヴィクトリアが馬車に乗ることを躊躇っている一番の理由が、オニキス云々よりも、「『番の呪い』にかかっている相手であるレインを残していくことだ」と理解しているアルベールは、ヴィクトリアがそれ以上何かを言うのを阻止するように早口で捲し立てると、戸惑うヴィクトリアを急かして、馬車の中に追いやった。
「あの…… アル……」
「大丈夫だよ、俺も念の為にこうやって顔を隠しておくから」
御者台に乗ったアルベールは、馬車の屋根から垂れ下がっていた飾り布を取って顔に巻き付けながら、ヴィクトリアの言葉を遮るようにしてそう言った。
顔の下半分を隠した状態で後ろを振り返ると、馬車の前面には御者とのやり取りのためなのか格子付きの小さな窓があって、格子の隙間からこちらを不安そうに見つめるヴィクトリアの美しすぎる顔が見えた。
(ああ、一刻も早くヴィーと……)
困ったようなヴィクトリアの極上級に美しい顔を見ているだけで、性欲と吸血への欲求がない混ぜになった情動が、アルベールの背中をゾクゾクと駆け上がってきて感じてしまう。
軽く勃起しそうになったが、妙な状態になったことを嗅覚でヴィクトリアに勘付かれると、警戒されて計画が駄目になると思ったアルベールは、ヴィクトリアとの愛の成就のため、強い意志の力で身体の反応を抑え付けた。
格子越しというのもまた良くない。長年喉から手が出るほどに欲しかった最愛の女性を捕獲し、自分だけの愛の鳥籠の中に閉じ込めることに成功したように思えて、気分がとても高揚した。
(でもまだ駄目だ。警戒心は抱かせない)
アルベールは普段通りに振る舞おうとしたが、思わず「ふふふ」と声を出して上機嫌に微笑し、ヴィクトリアの血の味を思い出しながら、布で隠した自分の唇を舐めた。
「ここの格子窓のカーテンも閉めておいて。じゃあ出発」
「……アル…………」
全ての窓のカーテンを閉めるように指示してから、アルベールは手綱を握って馬に鞭を入れ、何かを――レインのことを――言いたそうなヴィクトリアは完全無視して、馬車を走らせ始めた。
愛するヴィクトリアと一緒に行動できる幸せに浸っていたアルベールだったが、いきなり全身が総毛立つような嫌な感覚を覚えて真顔になり、馬車を止めた。
背後を振り返れば、処刑場がある辺りの上空に、目玉や骸骨の付いた巨大な扉が出現していた。
「……」
扉は開いている最中だった。扉の向こうには闇が広がっていて、そこから黒い靄のようなものが空中に放出されてた。
「アル、どうしたの?」
馬車の中から、突然止まったことを訝しむ麗しい声が聞こえてきた。
馬車を停止させた街道に人の姿はまばらだが、アルベールと同じく空に浮かぶ不気味な扉を発見した人間たちから、驚く声や悲鳴のような声が上がり始めていた。
どう返事をするべきかアルベールが逡巡している間に、人々の悲鳴を聞いたヴィクトリアが、カーテンの窓を開けて外を確認しようとするのが嗅覚でわかった。
アルベールは咄嗟に馬に鞭を入れた。馬が嘶き、馬車が急発進する。
「きゃっ!」
ヴィクトリアはカーテンに手をかけたものの、結局外を見ることは叶わず、急に動いた馬車の中で体勢を崩し、座席の背もたれに寄りかかっていた。
「ヴィー、俺たちの正体に勘付かれたかも。急ぐから掴まってて。カーテンは絶対に開けないでね」
アルベールはヴィクトリアの可愛らしすぎる悲鳴を聞いて、『もっと鳴かせたい』と背中に甘く痺れるような快感を走らせながらも、ヴィクトリアには不気味な扉のことは知らせず、周囲の悲鳴は自分たちへのものだと誤魔化してこの場から去ることにした。
アルベールにとってはヴィクトリアの安全が最優先だ。
あの扉の存在に気付いたら、ヴィクトリアはレインやオニキスが心配だから戻ると言い出しそうだった。
(あんな見るからに危険そうな禍々しいもののそばに、俺のヴィーを近付けたくはない)
アルベールには、ヴィクトリアを長年シドから守ってやれなかったという負い目があった。
今回はヴィクトリアを追いかけて里を飛び出すことができたが、前回、ヴィクトリアが初めて里から出奔した時は、ヴィクトリアを追いかけたシドの存在が恐ろしすぎて、彼女を追いかけることができなかった。
(今度こそ、ずっとそばにいたい……)
まるで地獄から顕現したかのような異様な扉の存在に、処刑場に残してきたオニキスが少しだけ心配ではあったが、アルベールは再度馬に鞭を入れると、馬車の速度を上げた。
***
その後の処刑場の様子についてはアルファポリス未掲載のシリーズ別作品「その結婚お断り(以下略)」のシリウスアナザーエンド(ヒロインはナディア)で書く予定です
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