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処刑場編

【SIDE -1】 予知/もう家族やめる/分離(ジュリアス視点→三人称)

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※【SIDE数字】付きの話は今後投稿予定のナディアが主人公の話にも載せます。ほぼ同じ内容ですが、ストーリーをわかりやすくするために載せています。


【注意】一部残酷な表現あり

時間が少し戻っています



***

『マズい! シー兄が勘付いた! 「未来視」だよ! 何でよりによってこのタイミングで開眼しちゃうんだろう! たぶんそっちに行くから警戒して!』 

 シドを幽閉中の郊外の獣人収容施設にて父のアークと待機中だったジュリアスは、脳内に響く弟セシルの精神感応テレパシーの声を聞いた。シドの処刑執行まであと数時間と迫った所だった。

 顔を動かしたジュリアスはアークと視線を交わし合った。セシルの精神感応はアークにも送られていたらしい。

 部屋に気配が増えた。セシルの言葉通り瞬間移動で現れたのは、全身に殺気を纏ったすぐ下の弟シリウスだった。

 任務中は常に姿替えの魔法でオリオン少年や別人の姿に成り代わっているシリウスだが、今は魔法を解いて本来の白金髪の青年の姿に戻っている。

 アークを睨み付けるシリウスの様子とセシルの精神感応の言葉から、ナディアが捕まったことをシリウスが気付いてしまったようだとジュリアスは理解した。

『未来視』というかなり稀有な力がシリウスに発現したとの話だが、喜ばしい反面、ナディアについてどこまで気付いているかが気がかりだった。

(ナディアがエヴァンズと接触したことまでは知らなければいいが)

 ジュリアスは怒れる弟を見つめながら、シリウスがアークに攻撃を仕掛けることを最大限警戒していた。

 もしもの場合は、ジュリアスはアークを守るつもりだった。アークも対応はするだろうが、魔法での防御が間に合わなかった場合、アークではシリウスに勝てない。

 ふと、脳内にいきなり絵が映り込む。今視界に映るものとは別の光景が『視える』この現象は、魔法使いが他の者に絵を伝える際に起こるものだ。





 ――――断頭台に上がるのは虚ろな目をした茶髪の少女だ。

 場所はシドの処刑が予定されている処刑場で、数多くの見物人が観客席に詰めている。

 少女は何も語らず、抵抗もせず、促されるまま首切り台に首を差し出した。機械の斧が落ちてきて、少女の首が斬られる。

 切断面から血が吹き出し、残された少女の身体がビクビクと痙攣している。台の下では、目を閉じた少女――――ナディアの首がゴロリと転がる…………





 絵が切り替わり、今の凄惨な場面とは別の絵が脳内に映し出された。





 ――――茶髪の少女が泣きそうな顔で走っている。場所はやはりシドの処刑が予定されている処刑場だが、背景の観客席は空席ばかりで、ほとんど人がいない。

 銃声が聞こえた。走っていた少女は後ろから銃弾を撃ち込まれていて、倒れた。胸を撃ち抜かれて倒れ込む最中さなか、少女は銃撃された方向に視線を向けながら、その瞳を途方も無い悲しみの色に染めていた。

 少女が倒れた時には、その瞳は既に力なく閉じられていた。

『ナディアァァァァァぁぁぁっ!』

 絶叫と共にその場に現れたのは白金髪姿のシリウスだ。少女――――ナディアを胸に抱き起こしたシリウスは治癒魔法を施し始める。

 二人から光が溢れて、光が収まった時にはナディアが吐いた血や服に付いた胸からの出血の跡は消えていたが、ナディアは目を覚まさない。

『ナディア! 嘘だ! ナディア!』

 シリウスは何度も何度も治癒魔法をかけているが、傷口や出血の跡は消えて身体は綺麗になっても、ナディアはピクリとも動かない。

『嘘だ! 嘘だ! 嫌だ! いやだァァァッ! ――――――――』

 叫ぶ絵の中のシリウスは気付いたようだが、ジュリアスも気付いた。

 治癒魔法は文字通り傷を治癒するのみで、死者を蘇らせることはできない。

 シリウスの魔法も虚しく、ナディアは銃撃の直後には既に事切れていたらしい――――――





「どういうことだ!」

 脳内から絵が消えた直後、シリウスがアークに向かって凄む中、ノエルを連れたセシルも瞬間移動で姿を現していた。

『今のはシー兄が送った「未来視」だよ。愛の力なのか何なのかわからないけど、シー兄はナディアお義姉さんに将来起こりかねないことを予知しちゃったみたい。

 パターンが二つあるのは、それが未来で確定してないからだよ。『未来視』は未来の色んな可能性が視えるみたい。今の所シー兄の『未来視』は、ナディアお義姉さんの「死」しか感知してないっぽいけど……』

 セシルが精神感応で告げてきた。

「俺のナディアを捕まえて、処刑場で殺すつもりだったのか! 俺に内緒で! 俺が気付かないとでも思ったのか!」

 シリウスはアークに掴み掛からんほどの勢いだった。ジュリアスは衝突を防ぐために二人の間に割って入った。

「シー、落ち着いて」

 止めに入ると、シリウスは今度はジュリアスを睨んだ。

「兄さんも兄さんだ! どうせナディアが捕まったことを知っていたんだろ! どうして俺に知らせてくれなかったんだ! どうして隠すんだ! 兄さんの俺への信頼なんてその程度だったのか!」

「シー、違う、お前を悲しませたくなかったんだ。一番良い方法を模索していただけだ。

 俺が気付いた時にはもうナディアの捕縛は上に報告されてしまっていた。銃騎士隊が捕えた獣人を逃したなんてことにはできないから、彼女には獣人奴隷になるか処刑かの二択しかなかった。だけど処刑になんてさせない。絶対に回避するから」

 それからジュリアスは精神感応で、シリウスにだけこう告げた。

『今、俺の獣人奴隷になれるように手続きを進めている。お前の大切な人を殺させはしない。必ず助ける。

 シドの処刑が終わったら、俺はフィーと結婚してキャンベル伯領へ移るから、お前も治療が上手く行って外国から戻ってきたことにして、俺たちと共に本来の姿でナディアと暮らしたらいい。

 ナディアが奴隷であることは不服だとは思うが、それは折を見て死んだことにでもして、二人だけで新しく暮らしてもいい』

 ジュリアスはシドの処刑という山場が終わったら、婚約者のフィオナ・キャンベル伯爵令嬢と結婚するつもりだった。

 新居はフィオナの故郷に構えるつもりだったから、首都から遠く離れた場所で、ほとぼりが冷めるまでナディアを匿うことは可能だと思った。

 シリウスは正式な銃騎士隊員ではないから、獣人奴隷を有する資格を持っていない。書類上だけではあるが、シリウスの代わりにジュリアスがナディアの奴隷主人になるのが一番良い方法だと思った。

 ジュリアスの心を知り、シリウスの瞳に若干の安堵の気配が浮かんだが、しかし、そんなジュリアスのナディア救出案をぶち壊す低い美声が響き渡った。

「言っておくが、ナディアをジュリアスの獣人奴隷にする案なら通らないぞ。ジュリアスの獣人奴隷所持の許可願いは却下するようにと、総隊長に一生のお願いだと言って頼んでおいた」

 ジュリアスは振り返ってアークを見つめながら眉根を寄せた。

 銃騎士は獣人奴隷を持つことができるが、「銃騎士隊総隊長の許可があれば」という但し書きが付く。

 そこは懸念しておくべきだったかもしれないが、アークに考えを読まれた上で先回りされていた。

 ジュリアスは父に妨害されても諦めるつもりはなかった。一つの方法は潰されてしまったが、別の方法がないわけではない。

 しかし、一生のお願いだなんて、まさかこの父が人のお情けにすがるような真似をするとは――――

「今更ジュリアスお前が総隊長に一生のお願いだと言った所で無駄だろうな。俺と、ジュリナリーゼ様との婚約話を蹴ったお前と、総隊長は一体どちらのお願いを聞くだろうな? お前がだなんて、きっと総隊長は絶対に許さないぞ」

 ジュリアスは理由があってジュリナリーゼとは結婚できなかったのだが、ジュリナリーゼを幼い頃から目に入れても痛くない程に慈しんでいたグレゴリー・クレセント総隊長は、ジュリアスのその決断をしばらく根に持っていて、私情でパワハラを掛けかねないほどには怒っていた。

 確かに、総隊長はこの案件ではジュリアスではなくてアークの味方に付くだろう。

「どうあっても、ナディアを殺すつもりか……っ!」

 シリウスが怒りで身体を震わせながら吠えた。シリウスの周囲の空気がバチバチと帯電し始めている。

「俺だって鬼じゃない。生き残る道は示してやったのにジュリアスが邪魔をしたんだ。エヴァンズが拒むのは仕方がないにしても、駄目ならレインに抱かせるつもりだったが阻止された」

「父さん!」

 ジュリアスはアークをたしなめるように咄嗟に声を荒げていた。勤務中なのに父と呼んでしまうくらいには驚いたのだ。

 不必要にシリウスの気持ちを逆撫でしてどうしたいのか――――

 ジュリアスはシリウスの心が傷付くことを恐れたが、その反面、アークの気持ちの揺れも感じ取っていた。

 アークは魔法無しの生身では勝てないシリウスに向かって、今だって父親でなければ一瞬で雷を落とされて殺されていたかもしれないのに、無表情なままで自分の苛立ちを息子にぶつけていた。

 アークにとっては不本意だったのだろうノエルの結婚があった影響もありそうだが、アークは自分が反対し続けた相手を選ぼうとしているシリウスが許せないのだ。

 シリウスへの愛情はあるはずなのに、息子を追い詰めて苦しめたい気持ちも強いのかもしれない。

「ハァ?」

 シリウスは、怒りを通り越してもはや笑いすら含んだ低く冷たい声でそう言い返していた。

「レインは俺の親友だぞ………… 何ゲスなこと考えてんだよこのクソ親父…………」

「ならばこそだ。親友と寝た女なんて尚更無理だろう?」

 シリウスの瞳にアークへの殺意が一瞬だけ宿った。

「――――二人ともやめてください! 父さんは言い過ぎとやり過ぎですし、シー兄さんだって今はシドの処刑前で大事な時なんですから、今だけは怒りを沈めて協力し合ってください!」

「そうだよ、家族なのに仲違いしないでよ……」

 すぐにでも殺戮が始まりそうな険悪な雰囲気に、見かねたノエルが言い合いを止めるように声をかけた。

 それから、ノエルに追従するようにセシルも声を出したが、その声はいつもは余裕のあるセシルにしては珍しく、しょげ返っていた。

「…………無理だろ、こんなクソ相手にどう協力しろってんだよ」

「お前こそ、親に向かって何て口の聞き方をしているんだ」

 冷静に状況を見ようとしていたジュリアスは、シリウスの堪忍袋の緒が切れる音を聞いた気がした。

「何が親だ! !」

 シリウスの怒声が響き渡り、ジュリアスは――――――――魔法を使っていた。

 しんと静まり返る部屋の空気は張り詰めていた。

 シリウスはジュリアスだけを見つめていたが、その瞳に宿しているのは、父にではなくて自分に対する悲しみだとジュリアスは気付いた。

 シリウスはアークを害さなかった。魔法すら出さずにただ怒りを見せただけだったが、ジュリアスはアークを守るために、父の身体の周囲にシールドの魔法を展開させていた。

 ジュリアスとしては、シリウスがどんな攻撃を仕掛けてきても絶対にアークを守るために安全策を取ったつもりだったが、結果としてシリウスの心を傷付けてしまったと気付いた。

 信じていなかったわけじゃない。でも懸念があった。シリウスはいつかアークを殺そうとするのではないかと。

 シリウスは昔は――「あの事」が起こる前から――アークをどこか避けていた。恐れていたと言った方がいいかもしれないが、あまり懐かなかった。
 しかしだからといって逆らうわけでもない。シリウスとアークの関係性を例えるならば、親子というよりも、独占欲の強い主人と縛り付けられた下僕のようでもあった。
 特に幼い頃のシリウスはアークに従順で、「シリウスシーちゃんアークアーちゃん愛玩動物ペットみたいね」と母から言われたこともあった。

 それが変わったのが、恋敵のゼウスを本気で殺そうとした一年前の事件からだ。シリウスは生まれて初めて父に逆らった。雷魔法でアークに火傷を負わせたのだ。

 アークシリウスの関係性が変わってしまった。シリウスは、必要とあればアークを殺すだろう。

 その懸念から、ジュリアスはシリウスが怒りを爆発させて怒鳴る寸前に、アークの周囲に魔法を張り巡らせたのだが、それはジュリアスの意図とは違った形の印象をシリウスに与えることになってしまった。

 シリウスを信頼せず、シリウスよりもアークを大切にして守ったような印象を――――

「…………もういいよ」

 シリウスは、とても弱々しい声を出した。

 恋敵ゼウス相手とは違う。シリウスは激怒しても、自分の父親を殺すつもりなんて本当はなかったのだ。攻撃魔法が出そうになるのを何とか抑えていた。

 けれど、一番の心の拠り所であり、一番信じていた兄は、自分のことを信じてくれなかったと――――シリウスは、そう感じてしまった。

「…………俺、もう家族やめる」

「シー兄さん!」

「シー兄、何言ってんだよ!」

 シリウスの言葉に、ノエルとセシルの弟二人が慌て出す。

「シー、そんなこと言わないでくれ!」

 何より、家族から離れるという発言をしたシリウスに、ジュリアス自身が酷く動揺していた。ジュリアスは踵を返して部屋から出ていこうとするシリウスの腕を掴んで呼び止めた。必死だった。

 ジュリアスにとってシリウスは自分の魂の片割れにも等しい、対となる存在だった。他の弟たちも大事だが、シリウスはジュリアスにとっては特別すぎる弟だ。喜びも悲しみも、辛い時はいつだって二人で支え合ってきた。シリウスがいなければ、ジュリアスは立っていられなかった。
 
「ナディアのことは何とかするから! 俺が駄目なら、に頼んでみるから!」

 銃騎士とは違い、貴族としてであれば獣人奴隷を持つのに総隊長の許可はいらない。

 同期のロレンツォ・バルトはバルト公爵家の次男だ。ジュリアスの親友でもあり、お願いすれば多少の無茶は聞いてくれる。

 けれど、一度離れてしまったシリウスの心は戻らなかった。シリウスは首を振る。

「俺はもう兄さんを信じられない。いや、もう家族じゃないから兄さんじゃない……

 俺はオリオンでもシリウス・ブラッドレイでもない、ただのシリウスだ。家名は捨てるよ。

 俺は金輪際ブラッドレイ家には関わりたくない。もう無理だ。俺はもう俺の意志でしか動きたくない。悪いけど、今回の作戦からも抜けさせてもらう」

 シリウスはジュリアスの腕を振り払った。

「シー……」

「兄さんごめん………… 俺をもう解放してよ」

 その言葉にジュリアスの身体に衝撃が走った。

『兄さんはで頑張ってよ! 俺がから支えるからさ!』

 ジュリアスが銃騎士として表立って活動し、シリウスが諜報活動に特化した任を行い裏から支えていくことは、二人で話し合って決めたことだった。

 けれど実態は、ジュリアスがとてつもなく目立って周囲から広く認められていくのに対し、シリウスだって多くの人間たちの命を救っているのにも関わらず、シリウスの本来の存在はずっと希薄なままで、家族以外の者たちからは褒められることも感謝されることもほとんどなかった。

 二人はあまりにも対局すぎる位置にいた。

 シリウスの可能性を封じて影に徹しさせてしまった罪悪感のようなものをジュリアスはずっと抱えていた。解放してほしいと、それを真正面から本人に言われてしまっては、シリウスを引き止めることなんてジュリアスにはできなかった。

「待て」

 しかしそれを引き止める男が一人。

「諦めるのか? 放り投げるのか? シドを葬ることがお前たちの目標の足掛かりとなる第一歩ではなかったのか? お前たちが成してきたものを、犠牲にしてきたものを、こんなことで反故にするつもりなのか? お前は、本当にそれでいいのか?」

「……………………うるせえよクソ親父」

 シリウスは一瞬立ち止まったけれど、振り返らずにそれだけ言って、部屋から出て行った。

「兄さん!」

「シー兄!」

 弟二人がシリウスを追いかけようとするのを、ジュリアスが止める。

「……このまま行かせてやってくれないか。シーの自由にさせてやってほしい」

「でも、シー兄一人で何かあったらどうするの?」

 セシルは泣き出してしまった。

「…………シー兄さんも、今は頭に血が上っているだけで、少し時間が経てば冷静になって戻って来るかもしれません。信じて待ちましょう」

 ノエルがセシルの頭を撫でながら慰めている。

「だがジュリアス、シドのことはどうするつもりだ? あの化け物の動きを安定的に封じるためには、五人必要だ。四人でも抑えられなくはないが、不足の事態が起これば破られる可能性も高い」

 この人はこんな時でも冷静に事態を分析している。あまりにもブレなさすぎてある意味この人らしいなと思ってしまう。

「言っておくがカインを呼ぶのは不可だ」

 アークが名前を出したのはセシルのすぐ下の弟のカインだ。

 実はシドの処刑執行当日であるこんな日の明け方から、妊娠中の母が産気付いてしまって、カインは下の弟二人と共に自宅で母に付き添っている。

 訳あって、母の出産は医師や助産師を同席させることができない。母はこれまでの七回のお産は医療行為を頼らずに、全て自宅で出産している。

 安産であればいいが、何かあった時のためにカインには母のそばについていてもらわなければならない。父の言う通り、人数の不足を補うためにカインを呼び出すことは不可だった。

 カインのすぐ下の弟シオンも、一応魔法は使えるようになってはいるが、初歩的なものばかりであり、それにまだ六歳だ。母を任せても的確な判断は下せないだろうし、まして作戦に参加させるなんて、危険すぎて却下だ。

 父や兄たちがシドに張り付いていなければならない中で、母の出産については九歳のカインに委ねるしかない状況だった。

 ブラッドレイ家も色々とギリギリだった。

 もしもシド捕獲作戦を実行するのが五年後であったならば―― カインの成人後であったならば、もう少し余裕を持って作戦を実行できたかもしれないが―――― しかし、今更そんなことを考えても仕方のないことだった。

 本当は、精神年齢が高めとはいえ、未成年のセシルも今回の作戦に参加させたくはなかった。

 次期宗主配という大事な立場ではあるし、何よりジュリナリーゼを悲しませたくはない。

 本来ならばセシルはこの作戦の外に置くべきだった。

 しかし、セシルは自分の役割をよくわかっていた。

 銃騎士養成学校に入校した時から覚悟はできているからと、セシルは死ぬ可能性が皆無ではないこの捕獲作戦への参加を希望した。

 セシルがいてくれた方が作戦の成功率が上がるのはわかりきっていた。本人の意向を汲むという形で――そういう風に持っていってくれたのはセシルだが――セシルは作戦に関わる五人目の魔法使いになった。

 セシルは他者の幸せのためなら自己犠牲を厭わない部分があり、作戦中は特に注意が必要だった。ジュリナリーゼのことを思うと、セシルは必ず生きて彼女の元へ帰さなけらばならなかった。

(セシとリィ……………… 二人はとんでもない宿命を背負っている)

 彼らの結末が不幸であってはいけない。シリウスが抜けたとしても、自分たちの当初の目標は絶対に成功させてやる。

 もし自分たちの代で果たせなかったとしても、子供たち次の代に託すことはできる。
 
 母の出産については、シドの処刑さえ終わってしまえば、愛妻家のアークが一番に駆け付けて、どんな場面であっても母を救ってくれるだろう。

 全てはシドの処刑が済むまでだ。それまでは、六人目の魔法使いカインを呼び寄せる選択肢などない。

「…………わかっていますよ。カイは呼びません。シーがいない分は、この命に代えてでも、絶対に俺が何とかします」










******





『シー兄、ごめんね。ナディアお義姉さんのこと黙っててごめん。父さんのこともどうか許してほしい。

 ナディアお義姉さんは、本部の留置場はもういないよ。今はアンバー公爵家に頼んで匿ってもらってるから、無事だよ。

 シー兄、大好きだよ。俺たちずっと待ってるからね』
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