136 / 220
処刑場編
108 不測の事態 2(ヴィクトリア視点→三人称)
しおりを挟む
数発の銃弾がロータスの身体に命中していた。
最初、弾はカナリアを狙って飛んで来ていて、寸前で間に合ったロータスがカナリアを守るように腕の中に抱き込んで、庇ったのだ。
再び銃撃が襲い来るが、マグノリアが二人の周囲にかけた盾の魔法により跳ね返される。
(どこから狙ってるの?!)
数度二人を狙って銃撃が打ち込まれる。その度に魔法で跳ね返されていたが、匂いを辿れば誰が撃ったのかわかるはずなのに、銃弾は空中に突然出現していて、狙撃手を探せない。
(もしかして、この銃撃は魔法によるもの?!)
――――治癒魔法! 転移魔法!
マグノリアは走りながら、ロータスに向かってありったけの治癒魔法をかけた。体内に残っていた銃弾を消滅させて傷が治ったのを確認した後、すぐに転移魔法で二人を安全な場所まで飛ばす。
魔法の使用を勘付かれたとしてもそれを気にしている場合ではなかった。
マグノリアは全力で夫と娘を救って――――そこで限界が来てしまった。
「マグっ!」
ヴィクトリアは偽名を使う取り決めも忘れてマグノリアの名を叫んでいた。
走っていたマグノリアが膝からガクリと崩れ落ちるようにして倒れ込む。金髪だった髪色が黒に戻り、長い髪が空中で揺れていた。
「マグ! マグっ!」
マグノリアが地面に落ちる寸前でヴィクトリアの腕が間に合ったので、マグノリアが身体を強く地面に打ちつけることにはならなかったが、呼びかけても彼女は目を開けない。
マグノリアは気絶していた。
(これは、魔力切れ…………)
魔力が足りなくなった時のために用意していた札はまだあったはずだが、家族の命が掛かった場面で常になく焦ったのか、それを取り出す余裕もなかったのだろう。
魔法で変わっていたマグノリアの髪色も容貌も、全てが元の通りに戻っている。
つまり、ヴィクトリアの今の容姿も、元の姿に戻ってしまっている――――
視界の端で、ナディアに切り揃えてもらって短くなった自分の銀髪が見えた。
ヴィクトリアたちの変化を見て周りの観客たちがざわめいている。軍隊靴の硬い靴音が幾つか聞こえてきて、マグノリアを腕に抱え座り込むヴィクトリアの周囲を、複数の銃騎士たちが取り囲んだ。
彼らは一様に、銃口をヴィクトリアに向けている。
銃騎士隊員で獣人姫ヴィクトリアの容姿を知らない者はいない。
******
近くにいた銃騎士隊員以外でも、出現したヴィクトリアとマグノリアの元の姿を見て、反応する者たちがいた。
「ヴィクトリア!」
レインは元に戻ったヴィクトリアの姿を見るなり、彼女に向かって一目散に走り出していた。
「マグナ……」
処刑場に連れてくるまでシドの近くにいた、魔法使い兼ハンターのノエルは、会場に到着するなり兄たちとは分かれて観客席に移動していたが、昔の仲間の窮地に気付いて、急いでその場に向かい始めた。
そしてもう一人――――――
十字の柱に張り付けにされたまま、まるで眠っているかのようにそれまで瞳を閉じ続けていたシドが、瞼を開けた。
血のような色をした赤い瞳が顕になる。
シドはカチャリと金属の鎖が触れ合う音をさせて首を動かし、ヴィクトリアがいる方向へと視線をやった。
最初、弾はカナリアを狙って飛んで来ていて、寸前で間に合ったロータスがカナリアを守るように腕の中に抱き込んで、庇ったのだ。
再び銃撃が襲い来るが、マグノリアが二人の周囲にかけた盾の魔法により跳ね返される。
(どこから狙ってるの?!)
数度二人を狙って銃撃が打ち込まれる。その度に魔法で跳ね返されていたが、匂いを辿れば誰が撃ったのかわかるはずなのに、銃弾は空中に突然出現していて、狙撃手を探せない。
(もしかして、この銃撃は魔法によるもの?!)
――――治癒魔法! 転移魔法!
マグノリアは走りながら、ロータスに向かってありったけの治癒魔法をかけた。体内に残っていた銃弾を消滅させて傷が治ったのを確認した後、すぐに転移魔法で二人を安全な場所まで飛ばす。
魔法の使用を勘付かれたとしてもそれを気にしている場合ではなかった。
マグノリアは全力で夫と娘を救って――――そこで限界が来てしまった。
「マグっ!」
ヴィクトリアは偽名を使う取り決めも忘れてマグノリアの名を叫んでいた。
走っていたマグノリアが膝からガクリと崩れ落ちるようにして倒れ込む。金髪だった髪色が黒に戻り、長い髪が空中で揺れていた。
「マグ! マグっ!」
マグノリアが地面に落ちる寸前でヴィクトリアの腕が間に合ったので、マグノリアが身体を強く地面に打ちつけることにはならなかったが、呼びかけても彼女は目を開けない。
マグノリアは気絶していた。
(これは、魔力切れ…………)
魔力が足りなくなった時のために用意していた札はまだあったはずだが、家族の命が掛かった場面で常になく焦ったのか、それを取り出す余裕もなかったのだろう。
魔法で変わっていたマグノリアの髪色も容貌も、全てが元の通りに戻っている。
つまり、ヴィクトリアの今の容姿も、元の姿に戻ってしまっている――――
視界の端で、ナディアに切り揃えてもらって短くなった自分の銀髪が見えた。
ヴィクトリアたちの変化を見て周りの観客たちがざわめいている。軍隊靴の硬い靴音が幾つか聞こえてきて、マグノリアを腕に抱え座り込むヴィクトリアの周囲を、複数の銃騎士たちが取り囲んだ。
彼らは一様に、銃口をヴィクトリアに向けている。
銃騎士隊員で獣人姫ヴィクトリアの容姿を知らない者はいない。
******
近くにいた銃騎士隊員以外でも、出現したヴィクトリアとマグノリアの元の姿を見て、反応する者たちがいた。
「ヴィクトリア!」
レインは元に戻ったヴィクトリアの姿を見るなり、彼女に向かって一目散に走り出していた。
「マグナ……」
処刑場に連れてくるまでシドの近くにいた、魔法使い兼ハンターのノエルは、会場に到着するなり兄たちとは分かれて観客席に移動していたが、昔の仲間の窮地に気付いて、急いでその場に向かい始めた。
そしてもう一人――――――
十字の柱に張り付けにされたまま、まるで眠っているかのようにそれまで瞳を閉じ続けていたシドが、瞼を開けた。
血のような色をした赤い瞳が顕になる。
シドはカチャリと金属の鎖が触れ合う音をさせて首を動かし、ヴィクトリアがいる方向へと視線をやった。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
極道に大切に飼われた、お姫様
真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
あなたの巨根を受け入れたかっただけなのに
オポチュニティ
恋愛
彼氏の巨根を自分の中に受け入れられるように日々大人の玩具を使って自己開発に努めていた健気な女の子が、何か勘違いをした彼氏にドロドロに嫉妬エッされる話。
(注意:激しめの♡喘ぎですが、エロまで長いです。他サイトにも載せています。)
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
気が付いたら乙女ゲームのヒロインとして監禁エンドを迎えていますが、推しキャラなので問題ないですね
秋月朔夕
恋愛
気が付いたら乙女ゲームのヒロインとして監禁エンドを迎えていた。
けれどその相手が前世で推していたユリウスであったことから、リーシャは心から歓喜する。その様子を目の当たりにした彼は何やら誤解しているようで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる