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リュージュバッドエンド 輪廻の輪は正しく巡らない
10 輪廻の輪は正しく巡らない
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注)ホラー注意
出産の内容あり
***
その日の真夜中――――
深い眠りに落ちていたヴィクトリアは、誰かの声を聞いた気がした。
『ようやく会えるな』
ヴィクトリアはその声に導かれるように目を覚ました。すると、腹部に痛みがあることに気付く。痛みは等間隔でやって来ていた。
ついに陣痛が来たのかと思ったヴィクトリアは、ドキドキしながら隣で寝ていたリュージュを起こした。
「何っ!」
陣痛が来たかもしれないと伝えると、リュージュはすぐに覚醒した。
「よし! 医療棟に行くぞ!」
「待って! 荷物! 入院用の荷物を持って行かないと!」
「そうだった!」
ヴィクトリアを姫抱きにしてそのまま勇んで出立しようとするリュージュは、少し気が動転しているようだった。
リュージュはバッグを肩に担いでヴィクトリアを抱き上げると、急いで医療棟に向かった。
「も、も、もうちょっとゆっくり走って!」
最初リュージュが全速力を出すものだから、ヴィクトリアは悲鳴を上げた。
「わ、わわわ、わかってるっ! ごめんっ!」
自分と同じく出産への動揺継続中のリュージュと共に辿り着いた医療棟で、ヴィクトリアはそのまま丸一日陣痛に苦しむことになった。
与えられた部屋で痛みに耐え、そろそろ生まれるから息んでと言われる頃には、ヴィクトリアの体力は底を尽きかけていた。
「ヴィクトリア! 頑張れ! ヴィクトリア!」
リュージュが手を握りそばで励ましてくれるが、何度息んでもお産が進んでいる気配はなく、長引く出産によって次第に意識が遠くなっていく。
「…………身体……腰が……狭……」
「……そんな! …………! ヴィクトリア!」
朦朧とする意識の狭間で、リュージュと医師が何やら深刻そうな話をしているのが聞こえたが、内容まではよくわからない。
そのうちに視界が真っ暗になって、意識が完全に落ちる寸前に、ヴィクトリアは身体の奥から、ぐぐぐ…… と、何か大きなものが動く気配を感じた。
次にヴィクトリアが目を覚ました時、繰り返し襲い来るあの地獄のような陣痛の痛みは綺麗さっぱり無くなっていた。
ヴィクトリアは、出産をしていた部屋とは別の部屋で寝台に寝かされていた。
身体全体から強く疲労感を感じたが、腹部からは普段と違っていつもの圧迫感が減っていて、少し楽になっていた。
(そうだわ! 赤ちゃん!)
出産中だったことを思い出したヴィクトリアは、重く感じる身体を何とか起こして状況を確認しようとした。
自分に掛かっていた上掛けを取り去ると、大きかったはずの腹の膨らみが小さくなっていて、意識を失っていた間に赤子が身体の外ヘ出たことを知る。
「私の赤ちゃん、どこにいるの……?」
思わず呟き、床に足を着いて立とうとした時、部屋の扉が開いてリュージュが現れた。
「ヴィクトリア、目が覚めたか」
「リュージュ、赤ちゃんは?」
ヴィクトリアの問い掛けを受けたリュージュが目を泳がせたのと、現れた時からリュージュの顔色が悪いのを見て、ヴィクトリアは赤子に何か良くないことが起こったのではないかと心配になった。
「赤ちゃんに何かあったの?」
「いや…… 赤ん坊は無事生まれたよ。お前が意識失くしてからお産が一気に進んでさ…… さっきまでペラペラ喋っ……」
リュージュはそこで不自然に言葉を切った。
「いや…… えーっと…… 何でもない」
リュージュの様子が何だかおかしい。リュージュは隠し事をするのが下手だ。
「赤ちゃんに会いたいわ」
「うーんと…… それは………… お前も疲れてるだろうし、もう少し後でもいいんじゃないか?」
ヴィクトリアはリュージュに胡乱な目を向けた。
「新生児室よね?」
「あっ…… ちょ、ちょっと待てって! ヴィクトリア!」
リュージュの横をすり抜けて廊下へ出ると、後ろからリュージュが慌てた様子で追いかけてきた。
もしかしたら我が子に会うのを阻止されるだろうかと思ったが、リュージュはヴィクトリアを止めることはせず、黙って付いてきた。
やがて新生児室に辿り着く。ここ何日かで生まれたばかりの赤子が、小さな寝台に一人ずつ寝かされて並んでいるわけだが、どれが自分たちの子供なのか確証が持てない。
「リュージュ」
困ってリュージュを見つめるが、リュージュは口を閉ざしたままだ。
「リュージュ」
「…………ここにはいない」
咎めるようなヴィクトリアの視線に耐えかねたのか、リュージュは白状した。
「ここにはいないって、どういうことなの?」
「他の赤ん坊と一緒に置いておくとちょっとマズイんだ」
「どうして?」
リュージュはその質問にはすぐには答えず、沈黙の後に、ためらいがちに別のことを聞いてきた。
「本当に会いたいか?」
「もちろんよ。私の子だもの」
「わかった……」
リュージュは、観念したかのようにそう答えると、赤子がいるという部屋にヴィクトリアを連れてきた。
扉の前に立っても、先ほど新生児室を前にした時のように、赤子の泣き声が聞こえてくることはない。
「何があっても驚くなよ」
ヴィクトリアは頷き、子に何があっても受け入れようと覚悟を決めてから部屋の扉を開けた。
部屋の中央には、新生児用の寝台が一つだけ置かれていた。
寝台には赤子が寝かされていて、じいっとヴィクトリアを見ている。
匂いからその赤子の性別は男だとわかる。
ヴィクトリアは一歩室内に足を踏み入れた所で立ち止まり、それ以上歩を進めることが出来ずに固まっていた。
その赤子はヴィクトリアが部屋の扉を空けるなり、首をぐるりと動かしてヴィクトリアに顔を向けたのだが、赤子の髪色も瞳も血のように真っ赤だった。
だが何よりも、幼いとはいえ赤子の顔付きはシドそのものであり、シドが蘇ったように思えてしまって、ヴィクトリアの背筋が凍った。
(リュージュの子供なんだから、シドに似ていることはあるだろうけど…… でも…… でも…………)
言いようの無い不安感に全身を支配されているヴィクトリアを見つめる赤子は、片側の口角だけを上げて、ニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。
赤子は口を開くと、ヴィクトリアに話しかけてきた。
「やっと会えたな」
【リュージュバッド(&シドメリーバッド)エンド 了】
出産の内容あり
***
その日の真夜中――――
深い眠りに落ちていたヴィクトリアは、誰かの声を聞いた気がした。
『ようやく会えるな』
ヴィクトリアはその声に導かれるように目を覚ました。すると、腹部に痛みがあることに気付く。痛みは等間隔でやって来ていた。
ついに陣痛が来たのかと思ったヴィクトリアは、ドキドキしながら隣で寝ていたリュージュを起こした。
「何っ!」
陣痛が来たかもしれないと伝えると、リュージュはすぐに覚醒した。
「よし! 医療棟に行くぞ!」
「待って! 荷物! 入院用の荷物を持って行かないと!」
「そうだった!」
ヴィクトリアを姫抱きにしてそのまま勇んで出立しようとするリュージュは、少し気が動転しているようだった。
リュージュはバッグを肩に担いでヴィクトリアを抱き上げると、急いで医療棟に向かった。
「も、も、もうちょっとゆっくり走って!」
最初リュージュが全速力を出すものだから、ヴィクトリアは悲鳴を上げた。
「わ、わわわ、わかってるっ! ごめんっ!」
自分と同じく出産への動揺継続中のリュージュと共に辿り着いた医療棟で、ヴィクトリアはそのまま丸一日陣痛に苦しむことになった。
与えられた部屋で痛みに耐え、そろそろ生まれるから息んでと言われる頃には、ヴィクトリアの体力は底を尽きかけていた。
「ヴィクトリア! 頑張れ! ヴィクトリア!」
リュージュが手を握りそばで励ましてくれるが、何度息んでもお産が進んでいる気配はなく、長引く出産によって次第に意識が遠くなっていく。
「…………身体……腰が……狭……」
「……そんな! …………! ヴィクトリア!」
朦朧とする意識の狭間で、リュージュと医師が何やら深刻そうな話をしているのが聞こえたが、内容まではよくわからない。
そのうちに視界が真っ暗になって、意識が完全に落ちる寸前に、ヴィクトリアは身体の奥から、ぐぐぐ…… と、何か大きなものが動く気配を感じた。
次にヴィクトリアが目を覚ました時、繰り返し襲い来るあの地獄のような陣痛の痛みは綺麗さっぱり無くなっていた。
ヴィクトリアは、出産をしていた部屋とは別の部屋で寝台に寝かされていた。
身体全体から強く疲労感を感じたが、腹部からは普段と違っていつもの圧迫感が減っていて、少し楽になっていた。
(そうだわ! 赤ちゃん!)
出産中だったことを思い出したヴィクトリアは、重く感じる身体を何とか起こして状況を確認しようとした。
自分に掛かっていた上掛けを取り去ると、大きかったはずの腹の膨らみが小さくなっていて、意識を失っていた間に赤子が身体の外ヘ出たことを知る。
「私の赤ちゃん、どこにいるの……?」
思わず呟き、床に足を着いて立とうとした時、部屋の扉が開いてリュージュが現れた。
「ヴィクトリア、目が覚めたか」
「リュージュ、赤ちゃんは?」
ヴィクトリアの問い掛けを受けたリュージュが目を泳がせたのと、現れた時からリュージュの顔色が悪いのを見て、ヴィクトリアは赤子に何か良くないことが起こったのではないかと心配になった。
「赤ちゃんに何かあったの?」
「いや…… 赤ん坊は無事生まれたよ。お前が意識失くしてからお産が一気に進んでさ…… さっきまでペラペラ喋っ……」
リュージュはそこで不自然に言葉を切った。
「いや…… えーっと…… 何でもない」
リュージュの様子が何だかおかしい。リュージュは隠し事をするのが下手だ。
「赤ちゃんに会いたいわ」
「うーんと…… それは………… お前も疲れてるだろうし、もう少し後でもいいんじゃないか?」
ヴィクトリアはリュージュに胡乱な目を向けた。
「新生児室よね?」
「あっ…… ちょ、ちょっと待てって! ヴィクトリア!」
リュージュの横をすり抜けて廊下へ出ると、後ろからリュージュが慌てた様子で追いかけてきた。
もしかしたら我が子に会うのを阻止されるだろうかと思ったが、リュージュはヴィクトリアを止めることはせず、黙って付いてきた。
やがて新生児室に辿り着く。ここ何日かで生まれたばかりの赤子が、小さな寝台に一人ずつ寝かされて並んでいるわけだが、どれが自分たちの子供なのか確証が持てない。
「リュージュ」
困ってリュージュを見つめるが、リュージュは口を閉ざしたままだ。
「リュージュ」
「…………ここにはいない」
咎めるようなヴィクトリアの視線に耐えかねたのか、リュージュは白状した。
「ここにはいないって、どういうことなの?」
「他の赤ん坊と一緒に置いておくとちょっとマズイんだ」
「どうして?」
リュージュはその質問にはすぐには答えず、沈黙の後に、ためらいがちに別のことを聞いてきた。
「本当に会いたいか?」
「もちろんよ。私の子だもの」
「わかった……」
リュージュは、観念したかのようにそう答えると、赤子がいるという部屋にヴィクトリアを連れてきた。
扉の前に立っても、先ほど新生児室を前にした時のように、赤子の泣き声が聞こえてくることはない。
「何があっても驚くなよ」
ヴィクトリアは頷き、子に何があっても受け入れようと覚悟を決めてから部屋の扉を開けた。
部屋の中央には、新生児用の寝台が一つだけ置かれていた。
寝台には赤子が寝かされていて、じいっとヴィクトリアを見ている。
匂いからその赤子の性別は男だとわかる。
ヴィクトリアは一歩室内に足を踏み入れた所で立ち止まり、それ以上歩を進めることが出来ずに固まっていた。
その赤子はヴィクトリアが部屋の扉を空けるなり、首をぐるりと動かしてヴィクトリアに顔を向けたのだが、赤子の髪色も瞳も血のように真っ赤だった。
だが何よりも、幼いとはいえ赤子の顔付きはシドそのものであり、シドが蘇ったように思えてしまって、ヴィクトリアの背筋が凍った。
(リュージュの子供なんだから、シドに似ていることはあるだろうけど…… でも…… でも…………)
言いようの無い不安感に全身を支配されているヴィクトリアを見つめる赤子は、片側の口角だけを上げて、ニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。
赤子は口を開くと、ヴィクトリアに話しかけてきた。
「やっと会えたな」
【リュージュバッド(&シドメリーバッド)エンド 了】
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