4 / 5
鬼ヶ島
しおりを挟む
しばらく行くと、鬼ヶ島が見えてきました。
「あれが鬼ヶ島に違いないわん!鬼の匂いがプンプンするわん!」
吠える犬が見ている先には、禍々しい形をした島がありました。
◆
鬼ヶ島に着くと、お城の門の前に大きな鬼が立っていました。
「どうする? とりあえず牽制しとく?」
「賛成!」
桃太郎の提案に、全員が賛成。
桃太郎は大きな石をつかむと、鬼に向かって投げました。
猿は素早く門に登り、鍵を開けます。
キジは鬼の目をつつきました。
「痛っ!痛っ!やめてくれ!うわー、大将ー!」
そういうと、鬼はお城の中に逃げていきました。
すると、お城から沢山の鬼が出てきて、ついに大きな鬼が現れました。
「このクソどもが!オレ様がぶっ殺してやるわ!」
大きな鬼は、金棒を振り回しながらそう言い放ちました。
「あんたが大将か?」
そう言うと同時に、桃太郎は素早く鬼の懐に入り込んで、
「村に来て、随分と悪さをしてくれたな!くらえ、おれの拳!」
と、渾身のパンチを繰り出しました。
しかし、鬼は微動だに動かず、全く反応をしません。
「あ? 今何かしたか?」
「え?」
鬼は左手で桃太郎をつかみ、右手を大きく振り上げました。
次の瞬間、ミシミシという鈍い音が体内で鳴り響き、それと同時に桃太郎は門の前まで吹っ飛ばされました。
「パンチってのはな、こうやるんだよ。小僧」
「……ガハっ」
桃太郎は蹲った体勢から、身動きが取れません。
鬼は構わず、桃太郎の近くに向かってきます。
「威勢がいい割には、随分と弱いんだな。ま、そういう命知らずなやつ嫌いじゃないけどよ」
「く……」
「そういえば、お前はここには一人で来たのかい?」
鬼は桃太郎の前で屈み、問いました。
「……は? 何バカなこと言ってやがる。仲間と一緒に来たにきまってるだろ!」
「仲間ぁ? どんなやつらだい?」
「犬、猿、キジだ。大切な仲間さ!」
「そうかい? そんなやつらは、ここにはいないけどねぇ?」
鬼は城の方を振り返りました。つられて、桃太郎も城の方を見ました
「ほらな?」
「なん……」
城の前には、犬も猿もキジの姿が見あたりませんでした。
しかし、そこには大量の血痕と臓物が撒き散らされています。
「あ、そっか。オレ達が食ったからいないのか!がっはっは!」
桃太郎は、目の前の光景を受け入れられることができません。
「いやー、オレ達腹ペコだからよ。何でも食っちまうんだよ」
唖然とする桃太郎をよそに、鬼は話を続けます。
「お、お前のその腰の袋。美味しそうな匂いがするな。よこせ!」
「やめろ!くっ……」
抵抗する桃太郎を難なく押さえつけ、鬼は袋を手にしました。
「ほう、美味しそうな団子じゃねえか。どれ、食ってやろう」
鬼は袋の中の団子を、全て頬張りました。
しかし、ほんの数秒も経たないうちに、
「う…うぇ!くそまず!くそまずいぞ!!」
鬼は口に入れた団子を全て吐き捨て、何度も何度もそう叫びました。
「誰だ? こんなクソまずい団子を作るのはよ? 今から殺しにいこう。行くぞ、野郎ども!」
「わかりやした!大将を怒らせた恨み、晴らしてみせやしょう!」
城の中の鬼達は興奮した様子で、武装をし始めています。
大将鬼もまた準備を整えようとしました。
「あれ? 金棒は? おい、お前ら。おれの金棒知らねえか?」
「いえ、見てませんね。誰か、大将の金棒知らねえか?」
大将鬼も、それ以外の鬼も金棒を探しますが、どこにも見当たりません。
『グオオオオオオン!』
突如として、除夜の鐘のような大きな金属音が鳴り響きました。
「何の音だ? 新手の敵襲か? 面白い、返り討ちにしてやろう。おい、手下ども!迎え撃つぞ!」
大将鬼は、血気盛んに声を荒げました。
しかし、手下の鬼達は微動だにしません。それどころか、青ざめた表情で大将鬼を見ています。
「お前ら、どうした? 戦いだぞ? もっと雄叫びを上げろよ!」
それでも手下の鬼達は、誰一人として動きませんでした。
「おい!お前ら!いい加減にしろよ!ぶん殴るぞ!!」
「……い、いえ。大将。ひ、膝が」
「ああ? 膝がなんだ? お前達、敵にビビって膝震えてんのか?」
「……そ、そうじゃなくて。その。大将の膝が……」
「オレ様の膝? それがどうしたっていうんだ……よ?」
大将鬼は、手下鬼の目線を辿りました。
すると、その先にあったのは、
「ぎゃあああああああああああ!オレの膝が!オレの膝が!」
骨が剥き出しになった、大将鬼の右膝でした。
「結構、軽いんだな。この金棒」
「お、おま……」
先ほどまで蹲っていた桃太郎が、鬼の金棒を手に、大将鬼の後方に立っています。
さらに、桃太郎は金棒をもう一度振りかぶって、
『グオオオオオオオオオオオン!』
鬼の左膝を粉々に砕きました。
両膝を粉々に叩き折られた大将鬼は、文字通り、膝から崩れ落ちました。
大将鬼は、あまりの痛みに声すら挙げられません。
「じゃ、次は」
『グオオオオオオオオオオオオオン!』
「はい、次」
『グオオオオオオオオオオオオオン!』
「こっちもだな」
『グオオオオオオオオオオオオオン!』
「あ、ここも」
『グオオオオオオオオオオオオオオン!』
「逆にここもか」
『グオオオオオオオオオオオオオオン!』
◆
どれだけの時間が経ったことでしょう。
とうとう大将鬼は、全ての関節を粉々に潰され、微動だに動くことすらできなくなりました。
「……た、たす……」
顎関節すら潰されてしまったため、大将鬼はまともに話すこともできません。
消え入りそうな呼吸の音だけが、彼の口元から漏れ出てきます。
「ま、別にいいんだけどさ。仲間が殺され、きび団子をバカにされたのもさ」
桃太郎は金棒をヒュンヒュンと振り回しながら、言葉を続けます。
「村のために鬼退治するとか、どうでも良かったんだよね。だって、元々ここを占拠するつもりだったんだから」
「……なん……で」
「いやー、あの村退屈だったんだよね。だからさ、鬼ヶ島をおれが占拠してさ、逆に村を襲う側にまわった方が楽しいじゃん」
笑いながら話を進める桃太郎の目には、もう光が灯っていません。
「というわけで、今日からおれがこの鬼ヶ島の大将ということで。今までご苦労様でした。さよなら」
振り下ろした金棒を最後に、大将鬼はもうぴくりとも動かなくなりました。
「手下鬼のお前らもさ、こういう風になりたい? なりたいやつはこっちに来てくれる?」
桃太郎の問いには、誰も答えません。
答えないことこそが、彼らの答えでした。
◆
大将鬼の返り血を浴びた桃太郎は、川で顔を洗うことにしました。
その水面に映る桃太郎の顔は、まるで鬼のような形相でした。
「あれが鬼ヶ島に違いないわん!鬼の匂いがプンプンするわん!」
吠える犬が見ている先には、禍々しい形をした島がありました。
◆
鬼ヶ島に着くと、お城の門の前に大きな鬼が立っていました。
「どうする? とりあえず牽制しとく?」
「賛成!」
桃太郎の提案に、全員が賛成。
桃太郎は大きな石をつかむと、鬼に向かって投げました。
猿は素早く門に登り、鍵を開けます。
キジは鬼の目をつつきました。
「痛っ!痛っ!やめてくれ!うわー、大将ー!」
そういうと、鬼はお城の中に逃げていきました。
すると、お城から沢山の鬼が出てきて、ついに大きな鬼が現れました。
「このクソどもが!オレ様がぶっ殺してやるわ!」
大きな鬼は、金棒を振り回しながらそう言い放ちました。
「あんたが大将か?」
そう言うと同時に、桃太郎は素早く鬼の懐に入り込んで、
「村に来て、随分と悪さをしてくれたな!くらえ、おれの拳!」
と、渾身のパンチを繰り出しました。
しかし、鬼は微動だに動かず、全く反応をしません。
「あ? 今何かしたか?」
「え?」
鬼は左手で桃太郎をつかみ、右手を大きく振り上げました。
次の瞬間、ミシミシという鈍い音が体内で鳴り響き、それと同時に桃太郎は門の前まで吹っ飛ばされました。
「パンチってのはな、こうやるんだよ。小僧」
「……ガハっ」
桃太郎は蹲った体勢から、身動きが取れません。
鬼は構わず、桃太郎の近くに向かってきます。
「威勢がいい割には、随分と弱いんだな。ま、そういう命知らずなやつ嫌いじゃないけどよ」
「く……」
「そういえば、お前はここには一人で来たのかい?」
鬼は桃太郎の前で屈み、問いました。
「……は? 何バカなこと言ってやがる。仲間と一緒に来たにきまってるだろ!」
「仲間ぁ? どんなやつらだい?」
「犬、猿、キジだ。大切な仲間さ!」
「そうかい? そんなやつらは、ここにはいないけどねぇ?」
鬼は城の方を振り返りました。つられて、桃太郎も城の方を見ました
「ほらな?」
「なん……」
城の前には、犬も猿もキジの姿が見あたりませんでした。
しかし、そこには大量の血痕と臓物が撒き散らされています。
「あ、そっか。オレ達が食ったからいないのか!がっはっは!」
桃太郎は、目の前の光景を受け入れられることができません。
「いやー、オレ達腹ペコだからよ。何でも食っちまうんだよ」
唖然とする桃太郎をよそに、鬼は話を続けます。
「お、お前のその腰の袋。美味しそうな匂いがするな。よこせ!」
「やめろ!くっ……」
抵抗する桃太郎を難なく押さえつけ、鬼は袋を手にしました。
「ほう、美味しそうな団子じゃねえか。どれ、食ってやろう」
鬼は袋の中の団子を、全て頬張りました。
しかし、ほんの数秒も経たないうちに、
「う…うぇ!くそまず!くそまずいぞ!!」
鬼は口に入れた団子を全て吐き捨て、何度も何度もそう叫びました。
「誰だ? こんなクソまずい団子を作るのはよ? 今から殺しにいこう。行くぞ、野郎ども!」
「わかりやした!大将を怒らせた恨み、晴らしてみせやしょう!」
城の中の鬼達は興奮した様子で、武装をし始めています。
大将鬼もまた準備を整えようとしました。
「あれ? 金棒は? おい、お前ら。おれの金棒知らねえか?」
「いえ、見てませんね。誰か、大将の金棒知らねえか?」
大将鬼も、それ以外の鬼も金棒を探しますが、どこにも見当たりません。
『グオオオオオオン!』
突如として、除夜の鐘のような大きな金属音が鳴り響きました。
「何の音だ? 新手の敵襲か? 面白い、返り討ちにしてやろう。おい、手下ども!迎え撃つぞ!」
大将鬼は、血気盛んに声を荒げました。
しかし、手下の鬼達は微動だにしません。それどころか、青ざめた表情で大将鬼を見ています。
「お前ら、どうした? 戦いだぞ? もっと雄叫びを上げろよ!」
それでも手下の鬼達は、誰一人として動きませんでした。
「おい!お前ら!いい加減にしろよ!ぶん殴るぞ!!」
「……い、いえ。大将。ひ、膝が」
「ああ? 膝がなんだ? お前達、敵にビビって膝震えてんのか?」
「……そ、そうじゃなくて。その。大将の膝が……」
「オレ様の膝? それがどうしたっていうんだ……よ?」
大将鬼は、手下鬼の目線を辿りました。
すると、その先にあったのは、
「ぎゃあああああああああああ!オレの膝が!オレの膝が!」
骨が剥き出しになった、大将鬼の右膝でした。
「結構、軽いんだな。この金棒」
「お、おま……」
先ほどまで蹲っていた桃太郎が、鬼の金棒を手に、大将鬼の後方に立っています。
さらに、桃太郎は金棒をもう一度振りかぶって、
『グオオオオオオオオオオオン!』
鬼の左膝を粉々に砕きました。
両膝を粉々に叩き折られた大将鬼は、文字通り、膝から崩れ落ちました。
大将鬼は、あまりの痛みに声すら挙げられません。
「じゃ、次は」
『グオオオオオオオオオオオオオン!』
「はい、次」
『グオオオオオオオオオオオオオン!』
「こっちもだな」
『グオオオオオオオオオオオオオン!』
「あ、ここも」
『グオオオオオオオオオオオオオオン!』
「逆にここもか」
『グオオオオオオオオオオオオオオン!』
◆
どれだけの時間が経ったことでしょう。
とうとう大将鬼は、全ての関節を粉々に潰され、微動だに動くことすらできなくなりました。
「……た、たす……」
顎関節すら潰されてしまったため、大将鬼はまともに話すこともできません。
消え入りそうな呼吸の音だけが、彼の口元から漏れ出てきます。
「ま、別にいいんだけどさ。仲間が殺され、きび団子をバカにされたのもさ」
桃太郎は金棒をヒュンヒュンと振り回しながら、言葉を続けます。
「村のために鬼退治するとか、どうでも良かったんだよね。だって、元々ここを占拠するつもりだったんだから」
「……なん……で」
「いやー、あの村退屈だったんだよね。だからさ、鬼ヶ島をおれが占拠してさ、逆に村を襲う側にまわった方が楽しいじゃん」
笑いながら話を進める桃太郎の目には、もう光が灯っていません。
「というわけで、今日からおれがこの鬼ヶ島の大将ということで。今までご苦労様でした。さよなら」
振り下ろした金棒を最後に、大将鬼はもうぴくりとも動かなくなりました。
「手下鬼のお前らもさ、こういう風になりたい? なりたいやつはこっちに来てくれる?」
桃太郎の問いには、誰も答えません。
答えないことこそが、彼らの答えでした。
◆
大将鬼の返り血を浴びた桃太郎は、川で顔を洗うことにしました。
その水面に映る桃太郎の顔は、まるで鬼のような形相でした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる