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真実
寂しさ
しおりを挟む脳裏に、薔薇の垣根から覗いた2人の姿が浮かんだ。
(……ああ、どこかで見覚えがあると思ったら……あれはディアナ様だったのね)
美しいどこかの貴族令息と、グレイが親し気な様子で話していた。よく思い出してみれば、その美しい令息の声音は少女のように高く小鳥が囀るような声音だったような気がする。そして彼女が男装していた理由もカーティスの言葉を前提とするならば、想像するに難くない。
2人が恋仲であるならば、人目を忍ぶ必要がある。それ故、ディアナは王女であるとばれぬように男装していたのではあるまいか。
しかしそれでは用心が足りていないと考えたのだろう。2人がこっそり会える場所は限られている。頻繁に会いたいと考えるのならば、王宮であることが大前提。そう考えると、人目のない──……つまり、シエラが2人を見たあの庭園こそが逢瀬を重ねるのに最も相応しい場所だったのだ。
絶望の黒が、シエラの心を染めていく。考えたくないのに、やけに冷静な脳がカーティスの言動とあの2人の行動の辻褄を合わせてしまう。
「……シエラ殿」
呼びかけられて、シエラは顔を上げ口を開く。しかしシエラが何か言う前にカーティスが素早く言葉を重ねた。
「まさか、それは本当のことなのかと野暮なことは聞きますまい」
「……」
王子がこれほどまでに強く言うのだから、本当のことなのだろう。
シエラには、この場で一度それを事実として受け入れる選択肢しか残されていないようだ。しかしだからといって、グレイを嫌いになるなんてことはない。グレイとディアナが互いに想い合っているとして、カーティスの言ったように、その事実によってシエラがグレイを嫌いになることは絶対にない。強い確信がシエラの心を貫いていた。
「例え……グレイとディアナ様が想い合っているのだとしても、私がグレイを嫌いになるようなことはありません」
きっぱりと言ってのけたシエラに、カーティスは僅かに目を見開く。
「では、離縁はなさらないと?」
「いいえ。グレイが望むのならば、私は離縁致します。……彼を苦しめたいわけではありませんもの」
「あなたは、彼を軽蔑しないのか?想い合う相手がいながら、あなたを利用するために結婚したあいつのことを」
「……寂しいとは思います。ですが、軽蔑など決して致しません。貴族同士の結婚は利用し利用されるためのもの。それに当時の婚約はグレイと私の意思で決められたものではありませんでしたから、彼を責める謂われはありません」
「……」
理路整然と言いたいことを述べたシエラだったが、その言動の重さは全て「寂しいとは思います」にのしかかっていた。
寂しい。とても寂しい。寂しくて、寂しくて仕方がない。
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