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茶会
馬車にて
しおりを挟む「ごめんなさいね、シエラ。断りきれなくて……」
「別にいいのよ、おば様。王妃様からの茶会の誘いなんて断れるわけがないわ」
王宮へ向かう馬車の中で、申し訳なさそうにするアマリアに対して、シエラは「大丈夫よ」「別にいいのよ」と何度も言葉を掛けた。それでもまだ表情に憂いを帯びるアマリアの手をシエラは握る。幼い頃、アマリア自身がシエラにしたように。
「ずっとこのままではいられないと思っていたの。公爵夫人として屋敷の管理をすることは当然の義務だけど……本当はそれだけじゃなかった。公爵夫人として屋敷で茶会を開かなければならなかったし、社交場にももっと積極的に出るべきだったのに……自分の表情の乏しさを言い訳にしていたのよ」
「あなたにはあなたなりの考えがあったのに、そんな風に言ってはいけないわ」
諭してくれるアマリアに、シエラは頷く。
「……それでも。自分なりの考えがあったとしても、自分で誰かに話さないと伝わらないわ」
「……そうね。その通りだわね」
アマリアはようやく、その表情から憂いを無くした。女傑と評されるアマリアも、実の娘同然に可愛がってきたシエラにはどうしても甘くなる。無理をさせてしまうことは本意ではない。しかし彼女も分かっていた。シエラをこのまま籠の鳥にして、良い事は何もないだろう、と。
「じゃあ、もう何も言わないわ」
「ええ、そうして頂戴」
「ああ、待って。あなたが王妃様の茶会に出席することに対しては何も言わないだけよ。私はまだあなたに言わなくちゃいけないことがあるわね」
「?」
「今日のあなたはとても綺麗よ。今までも大人らしいドレスもとても似合ってはいたけれど、今日のドレスの方があなたによく似合っているわ」
「……」
シエラは照れたように頬を染めた。今日選んだドレスは、エナが勧めてくれたドレスなのである。春のように淡いピンク色のドレスが、カーネーションの花びらのように折り重なった繊細なデザインのもの。細い首を飾るのは銀とガーネットのチョーカー。真っ直ぐ伸びた銀髪は緩くうねり癖をつけ、頭部に撒かれた金色のチェーンから額にかけてて降りる雫型のガーネットは、シエラの甘く幼い顔立ちに一層の輝くを伴わせる。
妖精と名乗っても、誰も馬鹿にしたりはしないだろう。とアマリアは心からの賛美を送る。
「ありがとう、おば様」
「きっと今日茶会に参加する誰よりもあなたが美しいはずよ。いえ、元々あなたは社交界で一番の美貌だったけれどね。グレイ様も見惚れていたのではない?今日のあなたの愛らしさには目を見張るものがあるものね」
「何も言ってくれなかったわよ。自分でも似合っていないとは思わないけど……グレイの趣味とは違ったみたいね」
「違わよ、きっと。あなたがあんまりにも素敵だから。茶会に行って欲しくなかったのではないかしら?」
そうだろうか。そうだとしたら嬉しいけれど。いつも手放しに誉めてくれていたグレイが、今日褒めてくれないのにはもっと別の理由があるはずだ。シエラが茶会へ赴くことをあんなに反対していたのだから。
(って、駄目駄目!暗くなっていたら、またおば様に心配をかけてしまうわ!)
シエラは自らの考えを振り払うように頭を振って、とりあえず今日の茶会で何か大きな失敗をしないようにすることだけを考えることにした。
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