上 下
15 / 29
茶会

喧嘩

しおりを挟む
「王妃様のお茶会に呼ばれたのは私なのに、あなたから断るなんてそんな失礼なことないわ」
「じゃあ、君から断りの手紙を送ればいい」
「嫌よ。もう行くって決めたもの」

シエラは、自分の主張が間違っているとは思えなかった。逆に今まで、公爵夫人として公の場に滅多に姿を見せない方が問題だったのだ。自分の人見知りと、表情の乏しさがあまりにひどいために社交界での評判が下がることを危惧していたが、今回は王妃様に断りを入れる方が失礼にあたり、評判が落ちる可能性が高い。社交界での評判というものは、あながち馬鹿に出来たものではないのだ。極端な例だが、社交界での評判が著しく落ちれば、国王の信頼をも失い、最悪の場合は地位を失うことだってある。グレイは国王夫妻ととても仲睦まじくしているから、よほどのことが無い限り地位を失うことはないが、シエラの評判が著しく下がれば、周囲の貴族達は国王夫妻の信頼を勝ち得ているグレイの評判を意図的に落としてやろうと画策するかもしれない。悲しきかな。社交界とは一見華やかそうに見えてそのような場なのだ。

「私が行くなと言っているのに?」

グレイはぞっとするほど冷たい声を放った。本気で怒っているのだと、シエラには分かった。それでも、シエラは頷かない。

「ちゃんとした理由を話してくれないと嫌よ」
「……」

押し黙るグレイに対して、シエラは溜息を吐く。

「行くことが公爵家のためにならないのなら、行かない。でも今回は違うもの」

きっぱりと言ってのけたシエラをグレイは苦々しそうに見つめた。しばし睨み合いのような時間が続く。それでもシエラは意見を変えなかった。

「……はあ、分かったよ。好きにすればいい」

折れたのはグレイだった。彼は立ち上がり、不機嫌に食堂を去っていく。

(なによ。私は間違ったことなんて1つも言っていないわ)

寂しい気持ちになる。少し強く言い過ぎてしまったかもしれない。王妃様の茶会に参加していいかと聞いたのは自分だ。グレイがきちんと理由を言って、それに納得できたら、どれだけ王妃様に失礼でも、断りをいれることだって視野に入れていたのに。

(私の愛想がないから?だから……公の場に出したくないのかしら)

グレイは優しいから、それを口に出したくないだけだろうか。けれど、優しいというには今日の態度は変だった。それについてはとても気になったが、グレイが「好きにすればいい」と言った以上、シエラは自分の意思に従って準備することにした。

(返事を書かなくちゃ……)

シエラはさっそく手紙をしたためる。

茶会にはアマリアもいる。だから何も心配はいらない。祖父が礼儀についてはうるさかったため、乏しい表情を補って余りある知識と教養は身に着けてきた。それをいよいよ発揮する時がきたのだ。何の気負いをする必要はない。

シエラは萎れてしまいそうな心を叱咤して、手紙を綴るペンに力を込めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

女性治療師と距離が近いのは気のせいなんかじゃない

MOMO-tank
恋愛
薬師の腕を上げるために1年間留学していたアリソンは帰国後、次期辺境伯の婚約者ルークの元を訪ねた。 「アリソン!会いたかった!」 強く抱きしめ、とびっきりの笑顔で再会を喜ぶルーク。 でも、彼の側にはひとりの女性、治療師であるマリアが居た。  「毒矢でやられたのをマリアに救われたんだ」 回復魔法を受けると気分が悪くなるルークだが、マリアの魔法は平気だったらしい。 それに、普段は決して自分以外の女性と距離が近いことも笑いかけることも無かったのに、今の彼はどこかが違った。 気のせい? じゃないみたい。 ※設定はゆるいです。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。

Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。 休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。 てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。 互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。 仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。 しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった─── ※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』 の、主人公達の前世の物語となります。 こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。 ❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。 結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。 ソフィアは彼を愛しているのに…。 夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。 だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?! 不器用夫婦のすれ違いストーリーです。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

処理中です...