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壊れた愛情
第3話 魅了の魔法
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『君を愛してる。何があっても、君を愛し続けられる自信があるよ』
幼き日。愛を囁いてくれた婚約者が今、目の前で泣き崩れる義妹─ミラを抱きしめていた。
そんな光景を目の当たりにして、リリアは拳を握りしめる。
「ごめんなさい……お姉様。本当にごめんなさい。私……なんてことを」
(この状況で「大丈夫よ」なんて言える人間がいるなんて、まさか本当に思っているわけないわよね?)
愛する婚約者に「間違えて」魅了の魔法なんてものをかけたミラを、どうして許せると思うのか。
皆が「お前はまだ見習いの魔女なのだから、むやみやたらに魔法を使ってはいけない」と静止したのに。
『大丈夫よ!私、魔法実技の成績はもの凄く良いんだから!』
自信満々にそう言ってのけて彼女は、きっと習いたての魔法を、公爵邸に集められた父の知人達に自慢したかったのだろう。枯れた花をもう一度咲かせてみせるわ!と宣言して彼女は突然詠唱し始めた。初めは彼女の持つ杖の尖端が燐光を放ち始めた。
そこまでは良かった。
そこからは、どう言うわけか。
杖から溢れ出した光は、彼女の目の前にあった枯れた花にではなく、事の成り行きを見守っていた婚約者──ジルを包み込んでしまい──……。
そして、今に至る。
ちらと見えたミラの手の平には、魅了の魔法をかけた人間に刻まれるハート型の紋様が浮かび上がっていた。濃いピンク色の紋様はとても愛らしいように見えるが、実は「あなたの心臓を捕らえて離さない」という忌々しい意味が込められている。
そして、ジルの手の甲には青いハートの紋様。それは「空白の心臓」を意味する。
つまり「ジルの心はすでに彼自身の手を離れてミラの手の中にある」ということで、その紋様は魅了の魔法にかかっている何よりの証だった。
「あぁ、そんなに泣かないで、ミア。それより怪我はないかい」
「う……ぅぅ……ジル様……ごめん、なさい。私ったら……ドジで」
すべてを「ドジ」で片付けようとする義妹がリリアは心底許せなかった。
(泣きたいのは……私の方よ!)
憤慨するリリアだったが、周囲は「まあ、ミアだから」と何故か許すような雰囲気を醸し出し始める。そして彼らは伺うようにリリアを見つめた。
その視線に籠められた意味は大体こうだ。
許してやったらどうだ。
この子のドジはいつものことだろう。
こんなに泣いているのだから許してやれ。
魅了の魔法なんて数年で解けるのだから許してやれ。
だが、そんな雰囲気に流されるほど、リリアは気の弱い人間ではない。
許せないものは許せない、とはっきりと言う人間だった。
「……いつものように泣いて許されると思っているんでしょう?ミラ」
問いかけると、ミラは華奢な身体をビクリと震わせた。
リリアは、この義妹の性格を良く分かっていた。
幼き日。愛を囁いてくれた婚約者が今、目の前で泣き崩れる義妹─ミラを抱きしめていた。
そんな光景を目の当たりにして、リリアは拳を握りしめる。
「ごめんなさい……お姉様。本当にごめんなさい。私……なんてことを」
(この状況で「大丈夫よ」なんて言える人間がいるなんて、まさか本当に思っているわけないわよね?)
愛する婚約者に「間違えて」魅了の魔法なんてものをかけたミラを、どうして許せると思うのか。
皆が「お前はまだ見習いの魔女なのだから、むやみやたらに魔法を使ってはいけない」と静止したのに。
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そこまでは良かった。
そこからは、どう言うわけか。
杖から溢れ出した光は、彼女の目の前にあった枯れた花にではなく、事の成り行きを見守っていた婚約者──ジルを包み込んでしまい──……。
そして、今に至る。
ちらと見えたミラの手の平には、魅了の魔法をかけた人間に刻まれるハート型の紋様が浮かび上がっていた。濃いピンク色の紋様はとても愛らしいように見えるが、実は「あなたの心臓を捕らえて離さない」という忌々しい意味が込められている。
そして、ジルの手の甲には青いハートの紋様。それは「空白の心臓」を意味する。
つまり「ジルの心はすでに彼自身の手を離れてミラの手の中にある」ということで、その紋様は魅了の魔法にかかっている何よりの証だった。
「あぁ、そんなに泣かないで、ミア。それより怪我はないかい」
「う……ぅぅ……ジル様……ごめん、なさい。私ったら……ドジで」
すべてを「ドジ」で片付けようとする義妹がリリアは心底許せなかった。
(泣きたいのは……私の方よ!)
憤慨するリリアだったが、周囲は「まあ、ミアだから」と何故か許すような雰囲気を醸し出し始める。そして彼らは伺うようにリリアを見つめた。
その視線に籠められた意味は大体こうだ。
許してやったらどうだ。
この子のドジはいつものことだろう。
こんなに泣いているのだから許してやれ。
魅了の魔法なんて数年で解けるのだから許してやれ。
だが、そんな雰囲気に流されるほど、リリアは気の弱い人間ではない。
許せないものは許せない、とはっきりと言う人間だった。
「……いつものように泣いて許されると思っているんでしょう?ミラ」
問いかけると、ミラは華奢な身体をビクリと震わせた。
リリアは、この義妹の性格を良く分かっていた。
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