生と死の間で

四色美美

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生と死の間の中で

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 俺は表舞台には立たずに乗っ取りを成功させた。そして株主総会で新体制が発表される運びとなった。
その前の説明会で新経営者として妻が紹介された。元旦那の弟は、その姿を見て愕然とせざるを得なかった。自分が追い出した元社長の連れ合いが逞しくなって登場したからだった。
妻は相変わらず身体を鍛えていたのだ。その姿は一昔前の美魔女を彷彿させた。
【元経営者の妻、反撃の狼煙をあげる】
マスコミは一斉に取りあげた。でもそれだけではなかった。

「社長は私の夫になってもらいます。私は会長職に就かせていただきます」
妻は会長になることを宣言したのだ。元社長の弟はその言葉で困惑したようだ。

(義姉の夫?)
元社長の弟はその意味を知らず、震えていた。
そして俺が新社長として登場することになった。元旦那の弟は俺の顔を見た途端に仰け反った。それは俺が元社長にそっくりだったからだ。

「生きていたのか?」
元旦那の弟は震え出した。

「確か、土の中に埋めたはずだ」
それは元社長殺しを認める発言だった。やはり妻の連れ合いは殺されていたのだ。

 逮捕された元旦那の弟はストーカー事件の関与も告白した。妻の娘に殺された男性は本当はストーカーではなかった。
脅しのために雇われただけだったのだ。その男性に兄嫁の殺害も依頼したとのことだった。
自分の手を汚さずに邪魔者を消す手段だったのだ。ストーカーだと印象付けることで自分は無関係だと言えるからだ。
その雇った男性が殺されて、その娘が自供した。それだけでも勝ったと思ったのだ。
俺はこの元旦那の弟が許せなくなっていた。
お袋を愛した男性と引き離した祖父にあたる当時の社長よりも汚いと感じたのだ。

 元旦那の弟の立ち会いの下、実況見聞が始まった。
そして土の中から妻の連れ合いの遺体が白骨化した状態で発見された。
その状況から、行方不明になった直後に殺されたことが確認された。
妻は泣き崩れた。
傍に寄り添うこと以外俺にはどうすることも出来ない。
そんな場面を戸籍上では娘となった妹は冷めた目で見ていた。
それでいて俺には物欲しそうな目を向けてくれた。
俺はドキンとした。親父の娘なのだから、俺達は本当の兄と妹なのだ。
何の血の繋がりもない彼女の母親だから結婚出来た。でも妹とは……
本当に俺を好きだとしても何も出来ないのだ。
何故『おじさん』と呼んだのか? 俺には解らない。
人伝に聞いた話だと、子供の頃行方不明になった父親は写真で知るしかなかったらしい。
スーパーを幾つか経営している父親と遊んだ経験がないのだ。だからあの日、突然目の前に現れた俺を見て驚いたようだ。
何て声を掛けたら良いのか模索していて『おじさん』と言ってしまったらしい。
でもそのお陰で、仇を打つことが出来たのだ。俺はこの出逢いに運命を感じていた。俺に『おじさん』と呼んでくれなかったら俺は生と死の間を彷徨い続けるしかなかった。
俺は妻同様、妹にも深い愛情を感じていた。

 ただ一つ気がかりなことがある。俺と妻の間に妹が割り込んで来ないか心配になのだ。俺は生と死の間ではなく妻と妹の間で揺れ動くことになるやも知れないからだ。
でもそれは俺の妄想だと信じたい。

完。
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