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2章 冒険者ギルド
鑑定
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エリシアが鑑定をすると言って連れてきたのは冒険者ギルドの中でもかなり端のほうにある通路だった。
長く続く通路の一番向こうには一室だけ扉が開かれた部屋があり、その部屋以外にこの通路から入れる部屋は存在しない。
この通路は、というよりこの区画自体があの部屋のためだけに存在しているようだった。
通路の手前には二人の衛兵が直立不動で立っている。
「鑑定か?」
衛兵の一人がエリシアに話しかけた。
「はい。新人冒険者の鑑定をお願いします」
「では銀貨1枚払え」
衛兵が最低限の言葉だけ返すと、エリシアは懐から銀貨1枚を支払って俺に振り向いた。
「高いと思うでしょ?私もそう思う。銀貨1枚あれば10杯は果実酒が飲める。でもね、それもここで得られる情報に比べたら決して高くないの」
「あー…、うん」
たぶん良いことを言っているのは分かるけど、肝心の銀貨一枚の価値がどれくらいか分からないのでいまいち反応に困るな。シードルで例えられてもな。
昨日から思っていたがこの女、ところどころズレている。
エリシアに鑑定料とやらを払って貰い、そのまま通路の先に進もうとする。
するとまたエリシアに裾を引っ張られた。
「待って。私はここから先には一緒に行けないから、今ここで説明するね」
「? どういうことだ?」
「鑑定結果は本人以外には決して知られてはいけない情報なの。鑑定者以外はたとえ親族だってこの線の先には進めないから、自分で鑑定してね」
そう言いながら、エリシアは通路の向こうを指差した。
「貴方の眼ならそこからでも見えると思うけど、部屋の中心に石板があるでしょ?」
エリシアが指差した先を見れば、通路の先の部屋の中に巨大な石版だけがぽつんと置いてあるのが分かる。
「あれは《鑑定石》と言って、触れた人の潜在能力を読み取って”数値”と”文字”という形で能力を羊皮紙に書き込んでくれるの」
潜在能力?能力?また知らない用語が出てきたな。
俺がいまいち理解しきれていないのを悟ったらしく、エリシアはごほんと咳払いして言い直した。
「つまり、あの石版が貴方のレベルを含めた能力値と使用可能な魔法、技能に至るまで全て教えてくれるってこと」
「…………マジか」
自分の能力や使える魔法が分かるのか。これは凄いぞ。
元の世界で自分の能力を見ることができればどれだけ便利だったことか。
魔法はたぶんエリシアが使う【凍結】みたいな術のことだと思うけど、技能って何だろう。
【影槍】のような特能由来の力も分かるってことなのだろうか。
「ここまで厳重にしないといけない理由が分かった?」
俺は黙って頷いた。
おそらくこの世界においてこの鑑定石によって示されるステータスというものは最重要情報だ。
どの魔法が使え、どの魔法が使えないのか。どれだけ強力な技を持っているのか。
それらの情報が敵対する相手に流れてしまったとき、戦いになったときにどれだけ不利になることか想像に難くはない。
「それでね、中に入ったら羊皮紙を一枚あの鑑定石の上に載せたあとに手を置いて。そうしたら羊皮紙に鑑定結果が書き込まれていくから」
「羊皮紙に書かれている内容は誰にも言っちゃ駄目。ましてや魔法や技能ならなおさら。読んで頭の中に入れたらさっさと燃やしてね」
エリシアは俺の目を見ながら念押しをした。
「《鑑定石》のおかげで無謀な依頼に行って命を落とす冒険者の数は大きく減ったけど、それと同じ数だけ誘拐や殺人と言った悲劇も起きたの。強力だったり希少だったりする魔法、技能、能力って言うのは必ずそれを悪用したい人間が出てくるから」
確かにその通りだと思う。"強力な能力を悪用したい人間が出てくる"、というのはきっと、俺達《来訪者》に向けても言っているように聞こえた。
エリシアに頷くと衛兵の脇を通り抜けて通路の先へと歩き始める。
扉の開かれた部屋の中に入ると、部屋の真ん中には厳かな石板が置いてあった。石板の手前には腰の高さほどの台が置いてあり、その上には羊皮紙の束と火のついた蝋燭が置いてあった。
(この紙を石板の上におけばいいってことか……)
台座の上から羊皮紙を一枚取って石板の上に置き、石板にそっと触れた。
すると羊皮紙の上に文字の羅列が浮かび上がってきた。
――――――――――――――――――――
【ユーリ=アマヤ(雨夜悠里)】
性別=女/年齢=17歳
種族=リーパー
レベル=4
ステータス:
体力 280/280(B⁺)
魔力 140/200(C)
筋力 B⁻
俊敏 B⁺
器用 F
精神 D
魔法:
無し
技能:
魂の収穫(使用回数:無制限)
影槍(使用回数:4回)
SP:540
――――――――――――――――――――
分からん。
よくよく考えたら基準が分からないからこの鑑定結果だけ見ても高いのか低いのか全然分からん。
とりあえず現状使える魔法が無いことと、技能の中に【魂の収穫】と【影槍】があることは分かった。
ステータスは意味が分からないし、エリシアには見たら燃やせと言われてるけど、こんなの一瞬で覚えきれないぞ。
「……………………」
少し考えたあと、俺は羊皮紙を燃やして部屋を後にした。
「どうだった?」
「全く意味が分からなかった。……ので、ついて来てくれ」
「えっ、ちょっと……」
エリシアの手を引いてギルドの外に連れ出すと、路地の端で俺の鑑定結果の書かれた羊皮紙をエリシアに手渡した。
「俺が見ても意味が分からないからエリシアが見てくれ」
鑑定結果の書かれた羊皮紙を渡すとエリシアが仰天した。
「え゛なんで持ってきて……!?ていうかあれ!?さっき燃やしてなかった?」
「何も書かれてない方の羊皮紙とすり替えてそっちを燃やした。あの長い通路からだと何を燃やしてるのかまでは分からなかっただろ?」
さっき蝋燭の前で燃やして見せたのは台の上にあった何も書かれてない羊皮紙の方だ。
二人の衛兵が監視をしている以上、鑑定結果の書かれた羊皮紙を燃やさずに出てくると呼び止められる可能性が高い。
一瞬ですり替えたからおそらく誰にも気づかれてないだろう。現に後ろで見ていたはずのエリシアは気がつかなかった。
「あのね……」
「俺が見るより見方が分かる奴に見てもらった方が早いだろ。……見方も知らずにこんなの見ても意味が分からないし」
「うっ……いやまあ、それはごめん」
エリシアは言葉に詰まったあと、ため息を吐いて説明をしてくれた。
「いい?ステータス欄の文字は対応する冒険者のランクに等しい能力を表してるの。例えばほら、筋力がBならBランクの冒険者に等しい筋力を持っているということで――」
説明している途中で、エリシアが俺の鑑定結果を見ながらぽつりと呟いた。
「――転移二日目で、もうこのステータスにまで……」
「どうした?」
「え、ああ!いや、なんでもない!」
エリシアに尋ねると、ぱっと顔を挙げて説明を続けた。
「はっきり言ってこのステータスなら直ぐにでもD~Cランクの冒険者にまでは駆け上がれると思う」
「それはいいんだけど、なんか俺のステータス、極端というかピーキーすぎないか?筋力と俊敏に比べて器用と精神がやけに低いというか……」
「まあそんなもんでしょ。筋力と俊敏は肉体に由来するステータスだけど、器用や精神はその人の経験に由来するステータスだから。その身体は特能によるものだけど中身はまるっきり初心者なんだからこんなもの――」
エリシアはそんなこと言いながらしばらく俺の鑑定結果を見ていた後、一か所を見つめたまま動きを止めた。
「――――魔力が、ある……?」
ああ、そう言えば魔力とかいう欄があったな。
その割に使える魔法も無いから現状、完全な死にステのように思えるがどうなんだろうか。
「魔力があるとどうなんだ?」
「本来、来訪者には魔力がないの」
俺の鑑定結果の書かれた羊皮紙から顔を上げると、エリシアが真剣な表情で言った。
「この世界の食べ物には魔力が含まれていて、私たちはそれを食べて少しずつ魔力を体に馴染ませていってるの」
「……てことは、魔力が体に馴染んでいない来訪者はこの世界の食べ物を食べたらとんでもないことになるんじゃ……」
顔を青ざめさせながら聞くと、エリシアはふっと笑った。
「ユスティニアの森を出発する前にあなた達三人の来訪者だって、私たちと同じものを食べたけど何ともなかったじゃない。許容量を超える魔力はそのまま排泄されて、人体に悪影響を及ぼすことは無いから安心して」
エリシアの言葉を聞いて安堵のため息をついた。
「この世界の食べ物を食べ続ければ少しずつ魔力は身体に蓄積されていくけど、元々の容量がゼロだから魔法が使えるほどの魔力は溜まらない。だから来訪者は魔法が使えないとされている」
「でも、俺の鑑定結果には魔力があると」
「そう……ここを見て」
エリシアが指さしたのは鑑定結果の三行目。そこには『種族=リーパー』と記されていた。
「リーパーって何?」
顔を上げてエリシアに尋ねると、エリシアは羊皮紙を見ながら答えた。
「今はもう絶滅したとされている古の魔族の一種。"夜の一族"とも。命を刈り取る鎌を片手に魔物を狩る姿はまるで《死神》と呼ばれていたそうよ」
ああ……やっぱり人間じゃ無くなっていた。
この身体能力といい、特能の方向性といい、薄々そうなんじゃないかって気はしていたけど、とうとうはっきりと突き付けられてしまった。
いつの間にか女になっていたのも衝撃だったけど、知らない間に人間まで辞めていたのもかなりショックだな。
「……ああ、そう……人間の身体じゃないから魔力もあるってことね。てことは魔力があるなら魔法も使えるのか?」
エリシアに尋ねると、コクリと頷いた。
「もしかしたら、将来的に使える可能性は……ある」
つまり、特能由来の技能に加えて魔法まで使えるようになるかもしれないということか。
これは大きいな。技能の使用回数が尽きたら魔法を、魔力が尽きたら技能をと切り替えて戦えるようになれば、今までの技能一本と比べて継戦能力が飛躍的に伸びることになる。
「まあ、魔法を扱えるようになるには魔力だけじゃなくてかなりの学習と習練が必要だから、すぐにとはいかないと思うけど」
最期にエリシアが訂正した。
それでも将来の可能性として魔法を使える道が残ったのは、他の来訪者達と比べて大きなアドバンテージになりそうだ。
死神、万歳。
長く続く通路の一番向こうには一室だけ扉が開かれた部屋があり、その部屋以外にこの通路から入れる部屋は存在しない。
この通路は、というよりこの区画自体があの部屋のためだけに存在しているようだった。
通路の手前には二人の衛兵が直立不動で立っている。
「鑑定か?」
衛兵の一人がエリシアに話しかけた。
「はい。新人冒険者の鑑定をお願いします」
「では銀貨1枚払え」
衛兵が最低限の言葉だけ返すと、エリシアは懐から銀貨1枚を支払って俺に振り向いた。
「高いと思うでしょ?私もそう思う。銀貨1枚あれば10杯は果実酒が飲める。でもね、それもここで得られる情報に比べたら決して高くないの」
「あー…、うん」
たぶん良いことを言っているのは分かるけど、肝心の銀貨一枚の価値がどれくらいか分からないのでいまいち反応に困るな。シードルで例えられてもな。
昨日から思っていたがこの女、ところどころズレている。
エリシアに鑑定料とやらを払って貰い、そのまま通路の先に進もうとする。
するとまたエリシアに裾を引っ張られた。
「待って。私はここから先には一緒に行けないから、今ここで説明するね」
「? どういうことだ?」
「鑑定結果は本人以外には決して知られてはいけない情報なの。鑑定者以外はたとえ親族だってこの線の先には進めないから、自分で鑑定してね」
そう言いながら、エリシアは通路の向こうを指差した。
「貴方の眼ならそこからでも見えると思うけど、部屋の中心に石板があるでしょ?」
エリシアが指差した先を見れば、通路の先の部屋の中に巨大な石版だけがぽつんと置いてあるのが分かる。
「あれは《鑑定石》と言って、触れた人の潜在能力を読み取って”数値”と”文字”という形で能力を羊皮紙に書き込んでくれるの」
潜在能力?能力?また知らない用語が出てきたな。
俺がいまいち理解しきれていないのを悟ったらしく、エリシアはごほんと咳払いして言い直した。
「つまり、あの石版が貴方のレベルを含めた能力値と使用可能な魔法、技能に至るまで全て教えてくれるってこと」
「…………マジか」
自分の能力や使える魔法が分かるのか。これは凄いぞ。
元の世界で自分の能力を見ることができればどれだけ便利だったことか。
魔法はたぶんエリシアが使う【凍結】みたいな術のことだと思うけど、技能って何だろう。
【影槍】のような特能由来の力も分かるってことなのだろうか。
「ここまで厳重にしないといけない理由が分かった?」
俺は黙って頷いた。
おそらくこの世界においてこの鑑定石によって示されるステータスというものは最重要情報だ。
どの魔法が使え、どの魔法が使えないのか。どれだけ強力な技を持っているのか。
それらの情報が敵対する相手に流れてしまったとき、戦いになったときにどれだけ不利になることか想像に難くはない。
「それでね、中に入ったら羊皮紙を一枚あの鑑定石の上に載せたあとに手を置いて。そうしたら羊皮紙に鑑定結果が書き込まれていくから」
「羊皮紙に書かれている内容は誰にも言っちゃ駄目。ましてや魔法や技能ならなおさら。読んで頭の中に入れたらさっさと燃やしてね」
エリシアは俺の目を見ながら念押しをした。
「《鑑定石》のおかげで無謀な依頼に行って命を落とす冒険者の数は大きく減ったけど、それと同じ数だけ誘拐や殺人と言った悲劇も起きたの。強力だったり希少だったりする魔法、技能、能力って言うのは必ずそれを悪用したい人間が出てくるから」
確かにその通りだと思う。"強力な能力を悪用したい人間が出てくる"、というのはきっと、俺達《来訪者》に向けても言っているように聞こえた。
エリシアに頷くと衛兵の脇を通り抜けて通路の先へと歩き始める。
扉の開かれた部屋の中に入ると、部屋の真ん中には厳かな石板が置いてあった。石板の手前には腰の高さほどの台が置いてあり、その上には羊皮紙の束と火のついた蝋燭が置いてあった。
(この紙を石板の上におけばいいってことか……)
台座の上から羊皮紙を一枚取って石板の上に置き、石板にそっと触れた。
すると羊皮紙の上に文字の羅列が浮かび上がってきた。
――――――――――――――――――――
【ユーリ=アマヤ(雨夜悠里)】
性別=女/年齢=17歳
種族=リーパー
レベル=4
ステータス:
体力 280/280(B⁺)
魔力 140/200(C)
筋力 B⁻
俊敏 B⁺
器用 F
精神 D
魔法:
無し
技能:
魂の収穫(使用回数:無制限)
影槍(使用回数:4回)
SP:540
――――――――――――――――――――
分からん。
よくよく考えたら基準が分からないからこの鑑定結果だけ見ても高いのか低いのか全然分からん。
とりあえず現状使える魔法が無いことと、技能の中に【魂の収穫】と【影槍】があることは分かった。
ステータスは意味が分からないし、エリシアには見たら燃やせと言われてるけど、こんなの一瞬で覚えきれないぞ。
「……………………」
少し考えたあと、俺は羊皮紙を燃やして部屋を後にした。
「どうだった?」
「全く意味が分からなかった。……ので、ついて来てくれ」
「えっ、ちょっと……」
エリシアの手を引いてギルドの外に連れ出すと、路地の端で俺の鑑定結果の書かれた羊皮紙をエリシアに手渡した。
「俺が見ても意味が分からないからエリシアが見てくれ」
鑑定結果の書かれた羊皮紙を渡すとエリシアが仰天した。
「え゛なんで持ってきて……!?ていうかあれ!?さっき燃やしてなかった?」
「何も書かれてない方の羊皮紙とすり替えてそっちを燃やした。あの長い通路からだと何を燃やしてるのかまでは分からなかっただろ?」
さっき蝋燭の前で燃やして見せたのは台の上にあった何も書かれてない羊皮紙の方だ。
二人の衛兵が監視をしている以上、鑑定結果の書かれた羊皮紙を燃やさずに出てくると呼び止められる可能性が高い。
一瞬ですり替えたからおそらく誰にも気づかれてないだろう。現に後ろで見ていたはずのエリシアは気がつかなかった。
「あのね……」
「俺が見るより見方が分かる奴に見てもらった方が早いだろ。……見方も知らずにこんなの見ても意味が分からないし」
「うっ……いやまあ、それはごめん」
エリシアは言葉に詰まったあと、ため息を吐いて説明をしてくれた。
「いい?ステータス欄の文字は対応する冒険者のランクに等しい能力を表してるの。例えばほら、筋力がBならBランクの冒険者に等しい筋力を持っているということで――」
説明している途中で、エリシアが俺の鑑定結果を見ながらぽつりと呟いた。
「――転移二日目で、もうこのステータスにまで……」
「どうした?」
「え、ああ!いや、なんでもない!」
エリシアに尋ねると、ぱっと顔を挙げて説明を続けた。
「はっきり言ってこのステータスなら直ぐにでもD~Cランクの冒険者にまでは駆け上がれると思う」
「それはいいんだけど、なんか俺のステータス、極端というかピーキーすぎないか?筋力と俊敏に比べて器用と精神がやけに低いというか……」
「まあそんなもんでしょ。筋力と俊敏は肉体に由来するステータスだけど、器用や精神はその人の経験に由来するステータスだから。その身体は特能によるものだけど中身はまるっきり初心者なんだからこんなもの――」
エリシアはそんなこと言いながらしばらく俺の鑑定結果を見ていた後、一か所を見つめたまま動きを止めた。
「――――魔力が、ある……?」
ああ、そう言えば魔力とかいう欄があったな。
その割に使える魔法も無いから現状、完全な死にステのように思えるがどうなんだろうか。
「魔力があるとどうなんだ?」
「本来、来訪者には魔力がないの」
俺の鑑定結果の書かれた羊皮紙から顔を上げると、エリシアが真剣な表情で言った。
「この世界の食べ物には魔力が含まれていて、私たちはそれを食べて少しずつ魔力を体に馴染ませていってるの」
「……てことは、魔力が体に馴染んでいない来訪者はこの世界の食べ物を食べたらとんでもないことになるんじゃ……」
顔を青ざめさせながら聞くと、エリシアはふっと笑った。
「ユスティニアの森を出発する前にあなた達三人の来訪者だって、私たちと同じものを食べたけど何ともなかったじゃない。許容量を超える魔力はそのまま排泄されて、人体に悪影響を及ぼすことは無いから安心して」
エリシアの言葉を聞いて安堵のため息をついた。
「この世界の食べ物を食べ続ければ少しずつ魔力は身体に蓄積されていくけど、元々の容量がゼロだから魔法が使えるほどの魔力は溜まらない。だから来訪者は魔法が使えないとされている」
「でも、俺の鑑定結果には魔力があると」
「そう……ここを見て」
エリシアが指さしたのは鑑定結果の三行目。そこには『種族=リーパー』と記されていた。
「リーパーって何?」
顔を上げてエリシアに尋ねると、エリシアは羊皮紙を見ながら答えた。
「今はもう絶滅したとされている古の魔族の一種。"夜の一族"とも。命を刈り取る鎌を片手に魔物を狩る姿はまるで《死神》と呼ばれていたそうよ」
ああ……やっぱり人間じゃ無くなっていた。
この身体能力といい、特能の方向性といい、薄々そうなんじゃないかって気はしていたけど、とうとうはっきりと突き付けられてしまった。
いつの間にか女になっていたのも衝撃だったけど、知らない間に人間まで辞めていたのもかなりショックだな。
「……ああ、そう……人間の身体じゃないから魔力もあるってことね。てことは魔力があるなら魔法も使えるのか?」
エリシアに尋ねると、コクリと頷いた。
「もしかしたら、将来的に使える可能性は……ある」
つまり、特能由来の技能に加えて魔法まで使えるようになるかもしれないということか。
これは大きいな。技能の使用回数が尽きたら魔法を、魔力が尽きたら技能をと切り替えて戦えるようになれば、今までの技能一本と比べて継戦能力が飛躍的に伸びることになる。
「まあ、魔法を扱えるようになるには魔力だけじゃなくてかなりの学習と習練が必要だから、すぐにとはいかないと思うけど」
最期にエリシアが訂正した。
それでも将来の可能性として魔法を使える道が残ったのは、他の来訪者達と比べて大きなアドバンテージになりそうだ。
死神、万歳。
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