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1章 ユスティニアの森
来訪者②
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「は―――――」
その報告を聞いて、俺は思わず声を失った。
この森の中に、俺達以外の来訪者が一人もいない?
(俺たち以外の生徒が一人も見つかっていない?……あれだけいたのに?いったいどこに消えた……?)
一瞬にして頭の中の埋め尽くした疑問を解消したのは、フラメアの一言だった。
「……来訪者の中に、【転移】の能力の特能を持った者がいたのでしょうね。まだ動ける来訪者達を集めて、別の場所に転移して逃げたのでしょう」
「魔力反応は!?転移先は特定できる!?」
エリシアが焦りながら調査員に向かって尋ねると、調査員は静かに答えた。
「転移を行ったと思われる場所には、既に僅かな魔力反応の残滓しか残っていませんでした。ここまで小さくなってしまうと痕跡から転移先を特定することはもう……」
「そんな……」
エリシアが呆然とした表情でへたり込んだ。
「……………………」
調査員の報告によってもたらされたこの僅かな猶予の間に、俺は考えていた。
こいつらに見つからずに、俺、日野、白鳥の三人を除いた全ての2-4の生徒達を集めてこの森から転移する。
そんな芸当ができ、しかも俺たちを置いていくという動機があるやつは一人しかいない。
(一ヶ瀬か……)
やりやがったな。やっぱりあの時に殺しておくべきだったか。
……いや、今更そんなことを考えても仕方ない。
今はそれよりも――
「……死体も、見つからないのか?」
「…………」
調査員の女は俺の言葉を無視した。
聞こえていない、というよりは意識的にシャットアウトしている感じだ。
(《来訪者》とは喋りたくありませんって訳か……)
しかしそのすぐ後に、エリシアが口を開いた。
「……どうなの?答えて、ルイビスク」
「はっ、エリシア様。生存者はおろか、一つの死体すら見つかりませんでした」
ルイビスクと呼ばれた調査員は、表情を変えることなく答えた。
……つまり、安達と名護も、生きている?
鹿頭の巨人に追われていったまま帰って来ることのなかった二人だが、死体が見つかっていないということは生きている可能性が高い。
それを聞いて初めに感じたのは、意外にも安堵の感情だった。
確かにいい奴らでは無かった。日野と白鳥を見捨てて逃げ出したし、元の世界じゃ一ヶ瀬の取り巻きだ。
それでも、死んでいて欲しいとは思わなかった。
いや、安達と名護だけではない。もしかすればまだこの森の中では誰一人も死んでいないかもしれない。
「――ははっ」
「何か、面白いことでもありましたか?」
「いや」
フラメアが訝しげな表情で尋ねてきたのを適当に誤魔化す。
ともあれ状況は分かった。
なら――後は俺たちが生き残るだけだな。
「さて、邪魔が入りましたが……人生最期の時間は楽しめましたか?」
フラメアは俺の方へ振り向くと、再び腰の剣に手を掛けた。もう十分に猶予は与えたということだろう。
「……………………」
ここが最後の正念場だ。
いま、この瞬間の一挙手一投足に、俺、日野、白鳥の三人の未来がかかっている。
「もし、俺が『この森から転移した27人を俺が探し出してやる』と言ったら?」
そう尋ねると、フラメアは剣を抜こうとした手を止めた。
「――へえ?」
フラメアは金色の双眸を輝かせ俺の続く言葉を待っていた。
どうやら俺の言葉を聞く気はあるらしい。
「……今の報告、俺と一緒にこの森の中に転移してきた奴らが消えたんだろ?しかもどこに転移したのかも分からない」
「それが何か?どのみち、貴方には関係のないことでしょう?」
フラメアはにべもなく答えた。しかしそれにひるむことなく答える。
「『かつて14人の来訪者によって二万人以上が殺された』って言ったな。俺と一緒に転移してきた《来訪者》の数は14人どころか、20人を超えているぞ」
「……………………」
フラメアが黙った。
どうやら把握していたのは俺たちがこの森に転移してきたことまでで、正確な数までは把握していなかったらしい。
「俺達を殺してどうやってこの森から消えた《来訪者》達を探すつもりだ?俺たちとお前達の間に、はっきりと分かるような外見の違いは無いよな?」
フラメアを正面から見据えて尋ねる。
もし、フラメア達だけに分かる来訪者の感知方法や、外見上の見分け方があったなら、全てが終わりだ。
だが今は、僅かな可能性に頼るほかにない。
フラメアにとって俺たち《来訪者》が処分するほかにない危険な獣だと言うのならば、生かしておく"理由"をくれてやればいい。
「……代わりに、自分たちを生き延びさせろということですか?」
「いいや、残りの生徒達――《来訪者》を全て見つけた暁には、俺たちを解放してもらう」
はっきりとそう告げると、フラメアは微かに――口の端を吊り上げた。
「つまり、他の来訪者を私たちに差し出す代わりに、あなた方三人を自由にさせろと?」
「それも違うな」
そう答えると、フラメアが訝しげな表情を浮かべた。
「この世界で罪を犯していない来訪者、その全員を解放しろ」
「なっ……!?」
俺の隣にいるエリシアが、振り向いて正気を疑うような目で見てきた。
「……そのような条件を、私が受け入れると思うのですか?」
「受け入れるさ」
言いながら、俺はフラメアがこの条件を受け入れるという"確信"があった。
なぜならフラメアは、おそらく初めから俺にこう言わせようとしていたのだから。
憎くて仕方がない筈の来訪者に言い負かされ、部下は自分の意見に従わない。にも関わらずフラメアの顔には焦りや怒りの感情さえ無く、余裕すらあった。
それに、もしフラメアが本当に俺たち《来訪者》を殺したいほど憎んでいると言うのなら、わざわざこんな回りくどいことをする必要は無い。
最初にフラメアが目的を明かした時からそうだ。
《来訪者》を処分することだけが目的なら、最初から――
『何も欲せず、何も求めず、何も語らず、何も思わず、決して逆らわず、従順に。ただひたすらに私達の言う通りに過ごすことだけです』
――あんなこと、言わなければ良かったんだ。
俺たちを騙して連れて行き、そこで監禁なり処分なり好きにできた筈だ。
大切な部下であるエリシアの目を気にしているというのなら尚更だ。
わざわざあんな露悪的なことを、エリシアの前で言う必要が無いし、フラメアの方が階級が高いのだから陰でいくらでも好きなようにできた。
ならば、なぜわざわざ俺とエリシアの二人に言い聞かせるように語る必要があったか?
それは――フラメアは最初から、こうして俺たち《来訪者》に自分から協力させるつもりだったからだ。
「なぜ私がそのような条件を受け入れると?」
表情を変えずに問いかけたフラメアに、笑って答える。
「『何の罪の無い人々が、理不尽にも全てを奪われる。その所業のどこに正義があるのか』と言ったよな?じゃあ何の罪も犯してない来訪者だって『自由』を奪われていい筈が無いよな」
そう答えると、フラメアは何かを思案するようにしばらく黙っていた。
そして少しの沈黙の後、やがて堪えきれなくなったように小さく笑い出した。
「ふ……ふふ、ふふふふ……」
「……?」
何かがツボに入ったらしい。顔を背けて手で口元を隠しながらフラメアは笑い続けた。その様子をエリシアが不安な表現で見つめている。
やがて、ひとしきり笑い終えた後、剣を鞘に仕舞ってフラメアが顔を上げた。
「いいでしょう。もし、この森から消えた残りの《来訪者》を全員見つけ出したとしたならば、この世界で何の罪も犯さなかった善良な来訪者には自由を与えると、約束しましょう」
「フラメア様……!」
フラメアの言葉に、エリシアがぱっと顔を上げた。
「貴方はこの森から消えた来訪者を探し、私たちは貴方たちにこの世界における貴方たちの生命と自由を保証します。――協力しましょう。互いの未来のために」
そう言うとフラメアは、初めて偽りではない本物の笑みを浮かべて手を差し出した。
俺は頷くと――差し出されたフラメアの手を取った。
「……ですが、そのような善良な《来訪者》は、果たして何人いるでしょうね」
手を取った俺に対し、フラメアは複雑なそうな顔を浮かべて呟いた。
「私に言わせてみれば、あなた方《来訪者》はどうしようもなく暴力の僕です。いったいどれだけの人数が、人にその力を向けることを我慢できるでしょう?」
「…………」
フラメアの問いかけに、俺は何も答えられなかった。
「……俺からも、一つだけ聞きたい」
「なんでしょうか」
フラメアの態度には数えきれないほど不審な点がある。
常に余裕そうな態度を取っているかと思えば、急に激高してみせたり、かと思えばエリシアと俺を諭すようなことを言って見せたり。
脅し、話を誘導し――
エリシアがその意志を示し、俺がこの選択をするように――
「俺たちを、試したのか?」
疑念を込めて尋ねると、フラメアがクスと笑った。
「――さあ?」
フラメアはそう言って、不敵に笑った。
「私は貴方とエリシアに《来訪者》の危険性を説き、エリシアは正しい正義のあり方を、貴方は私に《来訪者》の有用性を示しました。そして、結果として協力関係を結ぶことができました。私が何をどう思っていようと、そんなことはどうでもいいではありませんか」
「ああ、でも勘違いして欲しくはないのですが――」
フラメアはそこまで言うと、ゆっくりとこちらを振り向きながら言葉を続けた。
その表情は、今でも穏やかなままだった。
「私は態度や感情を"少々"偽りはしましたが、嘘は一つも言っていませんよ。そこだけはくれぐれも忘れないよう」
フラメアと互いの条件を受け入れ合うと、俺と共にこの森に転移してきた他の《来訪者》――2-4の生徒達のことをフラメアとエリシアの二人に話した。
「……時空の魔女ロザリアによってこの世界に飛ばされたのは俺含めて30人。全員がこの森に飛ばされている筈だ」
「つまり、ここにいるあなた達3人を除いて、27人もの《来訪者》が行方をくらませた……と」
俺の話を一通り聞いた後、フラメアは渋い顔をして言った。
「事態は最悪と言って過言ではありません。かつてたった14人の悪意ある来訪者によって大量の犠牲者が出ました」
「つまり……また同じことが繰り返されるかもしれないってことですか?」
フラメアの言葉に、エリシアが不安そうに尋ねた。
「それをさせない為に我々がいるのです」
そう言って俺に振り向くと、フラメアは静かに微笑んだ。
「――さて、これからの話をしましょうか。残る《来訪者》を見つけて下さるんでしょう?」
その報告を聞いて、俺は思わず声を失った。
この森の中に、俺達以外の来訪者が一人もいない?
(俺たち以外の生徒が一人も見つかっていない?……あれだけいたのに?いったいどこに消えた……?)
一瞬にして頭の中の埋め尽くした疑問を解消したのは、フラメアの一言だった。
「……来訪者の中に、【転移】の能力の特能を持った者がいたのでしょうね。まだ動ける来訪者達を集めて、別の場所に転移して逃げたのでしょう」
「魔力反応は!?転移先は特定できる!?」
エリシアが焦りながら調査員に向かって尋ねると、調査員は静かに答えた。
「転移を行ったと思われる場所には、既に僅かな魔力反応の残滓しか残っていませんでした。ここまで小さくなってしまうと痕跡から転移先を特定することはもう……」
「そんな……」
エリシアが呆然とした表情でへたり込んだ。
「……………………」
調査員の報告によってもたらされたこの僅かな猶予の間に、俺は考えていた。
こいつらに見つからずに、俺、日野、白鳥の三人を除いた全ての2-4の生徒達を集めてこの森から転移する。
そんな芸当ができ、しかも俺たちを置いていくという動機があるやつは一人しかいない。
(一ヶ瀬か……)
やりやがったな。やっぱりあの時に殺しておくべきだったか。
……いや、今更そんなことを考えても仕方ない。
今はそれよりも――
「……死体も、見つからないのか?」
「…………」
調査員の女は俺の言葉を無視した。
聞こえていない、というよりは意識的にシャットアウトしている感じだ。
(《来訪者》とは喋りたくありませんって訳か……)
しかしそのすぐ後に、エリシアが口を開いた。
「……どうなの?答えて、ルイビスク」
「はっ、エリシア様。生存者はおろか、一つの死体すら見つかりませんでした」
ルイビスクと呼ばれた調査員は、表情を変えることなく答えた。
……つまり、安達と名護も、生きている?
鹿頭の巨人に追われていったまま帰って来ることのなかった二人だが、死体が見つかっていないということは生きている可能性が高い。
それを聞いて初めに感じたのは、意外にも安堵の感情だった。
確かにいい奴らでは無かった。日野と白鳥を見捨てて逃げ出したし、元の世界じゃ一ヶ瀬の取り巻きだ。
それでも、死んでいて欲しいとは思わなかった。
いや、安達と名護だけではない。もしかすればまだこの森の中では誰一人も死んでいないかもしれない。
「――ははっ」
「何か、面白いことでもありましたか?」
「いや」
フラメアが訝しげな表情で尋ねてきたのを適当に誤魔化す。
ともあれ状況は分かった。
なら――後は俺たちが生き残るだけだな。
「さて、邪魔が入りましたが……人生最期の時間は楽しめましたか?」
フラメアは俺の方へ振り向くと、再び腰の剣に手を掛けた。もう十分に猶予は与えたということだろう。
「……………………」
ここが最後の正念場だ。
いま、この瞬間の一挙手一投足に、俺、日野、白鳥の三人の未来がかかっている。
「もし、俺が『この森から転移した27人を俺が探し出してやる』と言ったら?」
そう尋ねると、フラメアは剣を抜こうとした手を止めた。
「――へえ?」
フラメアは金色の双眸を輝かせ俺の続く言葉を待っていた。
どうやら俺の言葉を聞く気はあるらしい。
「……今の報告、俺と一緒にこの森の中に転移してきた奴らが消えたんだろ?しかもどこに転移したのかも分からない」
「それが何か?どのみち、貴方には関係のないことでしょう?」
フラメアはにべもなく答えた。しかしそれにひるむことなく答える。
「『かつて14人の来訪者によって二万人以上が殺された』って言ったな。俺と一緒に転移してきた《来訪者》の数は14人どころか、20人を超えているぞ」
「……………………」
フラメアが黙った。
どうやら把握していたのは俺たちがこの森に転移してきたことまでで、正確な数までは把握していなかったらしい。
「俺達を殺してどうやってこの森から消えた《来訪者》達を探すつもりだ?俺たちとお前達の間に、はっきりと分かるような外見の違いは無いよな?」
フラメアを正面から見据えて尋ねる。
もし、フラメア達だけに分かる来訪者の感知方法や、外見上の見分け方があったなら、全てが終わりだ。
だが今は、僅かな可能性に頼るほかにない。
フラメアにとって俺たち《来訪者》が処分するほかにない危険な獣だと言うのならば、生かしておく"理由"をくれてやればいい。
「……代わりに、自分たちを生き延びさせろということですか?」
「いいや、残りの生徒達――《来訪者》を全て見つけた暁には、俺たちを解放してもらう」
はっきりとそう告げると、フラメアは微かに――口の端を吊り上げた。
「つまり、他の来訪者を私たちに差し出す代わりに、あなた方三人を自由にさせろと?」
「それも違うな」
そう答えると、フラメアが訝しげな表情を浮かべた。
「この世界で罪を犯していない来訪者、その全員を解放しろ」
「なっ……!?」
俺の隣にいるエリシアが、振り向いて正気を疑うような目で見てきた。
「……そのような条件を、私が受け入れると思うのですか?」
「受け入れるさ」
言いながら、俺はフラメアがこの条件を受け入れるという"確信"があった。
なぜならフラメアは、おそらく初めから俺にこう言わせようとしていたのだから。
憎くて仕方がない筈の来訪者に言い負かされ、部下は自分の意見に従わない。にも関わらずフラメアの顔には焦りや怒りの感情さえ無く、余裕すらあった。
それに、もしフラメアが本当に俺たち《来訪者》を殺したいほど憎んでいると言うのなら、わざわざこんな回りくどいことをする必要は無い。
最初にフラメアが目的を明かした時からそうだ。
《来訪者》を処分することだけが目的なら、最初から――
『何も欲せず、何も求めず、何も語らず、何も思わず、決して逆らわず、従順に。ただひたすらに私達の言う通りに過ごすことだけです』
――あんなこと、言わなければ良かったんだ。
俺たちを騙して連れて行き、そこで監禁なり処分なり好きにできた筈だ。
大切な部下であるエリシアの目を気にしているというのなら尚更だ。
わざわざあんな露悪的なことを、エリシアの前で言う必要が無いし、フラメアの方が階級が高いのだから陰でいくらでも好きなようにできた。
ならば、なぜわざわざ俺とエリシアの二人に言い聞かせるように語る必要があったか?
それは――フラメアは最初から、こうして俺たち《来訪者》に自分から協力させるつもりだったからだ。
「なぜ私がそのような条件を受け入れると?」
表情を変えずに問いかけたフラメアに、笑って答える。
「『何の罪の無い人々が、理不尽にも全てを奪われる。その所業のどこに正義があるのか』と言ったよな?じゃあ何の罪も犯してない来訪者だって『自由』を奪われていい筈が無いよな」
そう答えると、フラメアは何かを思案するようにしばらく黙っていた。
そして少しの沈黙の後、やがて堪えきれなくなったように小さく笑い出した。
「ふ……ふふ、ふふふふ……」
「……?」
何かがツボに入ったらしい。顔を背けて手で口元を隠しながらフラメアは笑い続けた。その様子をエリシアが不安な表現で見つめている。
やがて、ひとしきり笑い終えた後、剣を鞘に仕舞ってフラメアが顔を上げた。
「いいでしょう。もし、この森から消えた残りの《来訪者》を全員見つけ出したとしたならば、この世界で何の罪も犯さなかった善良な来訪者には自由を与えると、約束しましょう」
「フラメア様……!」
フラメアの言葉に、エリシアがぱっと顔を上げた。
「貴方はこの森から消えた来訪者を探し、私たちは貴方たちにこの世界における貴方たちの生命と自由を保証します。――協力しましょう。互いの未来のために」
そう言うとフラメアは、初めて偽りではない本物の笑みを浮かべて手を差し出した。
俺は頷くと――差し出されたフラメアの手を取った。
「……ですが、そのような善良な《来訪者》は、果たして何人いるでしょうね」
手を取った俺に対し、フラメアは複雑なそうな顔を浮かべて呟いた。
「私に言わせてみれば、あなた方《来訪者》はどうしようもなく暴力の僕です。いったいどれだけの人数が、人にその力を向けることを我慢できるでしょう?」
「…………」
フラメアの問いかけに、俺は何も答えられなかった。
「……俺からも、一つだけ聞きたい」
「なんでしょうか」
フラメアの態度には数えきれないほど不審な点がある。
常に余裕そうな態度を取っているかと思えば、急に激高してみせたり、かと思えばエリシアと俺を諭すようなことを言って見せたり。
脅し、話を誘導し――
エリシアがその意志を示し、俺がこの選択をするように――
「俺たちを、試したのか?」
疑念を込めて尋ねると、フラメアがクスと笑った。
「――さあ?」
フラメアはそう言って、不敵に笑った。
「私は貴方とエリシアに《来訪者》の危険性を説き、エリシアは正しい正義のあり方を、貴方は私に《来訪者》の有用性を示しました。そして、結果として協力関係を結ぶことができました。私が何をどう思っていようと、そんなことはどうでもいいではありませんか」
「ああ、でも勘違いして欲しくはないのですが――」
フラメアはそこまで言うと、ゆっくりとこちらを振り向きながら言葉を続けた。
その表情は、今でも穏やかなままだった。
「私は態度や感情を"少々"偽りはしましたが、嘘は一つも言っていませんよ。そこだけはくれぐれも忘れないよう」
フラメアと互いの条件を受け入れ合うと、俺と共にこの森に転移してきた他の《来訪者》――2-4の生徒達のことをフラメアとエリシアの二人に話した。
「……時空の魔女ロザリアによってこの世界に飛ばされたのは俺含めて30人。全員がこの森に飛ばされている筈だ」
「つまり、ここにいるあなた達3人を除いて、27人もの《来訪者》が行方をくらませた……と」
俺の話を一通り聞いた後、フラメアは渋い顔をして言った。
「事態は最悪と言って過言ではありません。かつてたった14人の悪意ある来訪者によって大量の犠牲者が出ました」
「つまり……また同じことが繰り返されるかもしれないってことですか?」
フラメアの言葉に、エリシアが不安そうに尋ねた。
「それをさせない為に我々がいるのです」
そう言って俺に振り向くと、フラメアは静かに微笑んだ。
「――さて、これからの話をしましょうか。残る《来訪者》を見つけて下さるんでしょう?」
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