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やりすぎファーマーは働き手を募集する
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「ダンジョンができてスペースが広くなったのは良かったが、明らかに手が足りていないな」
恒例となった小さなテーブルでの会議で、主様がため息をついた。
主様の前には、疲労で突っ伏しているゼカ、やつれ気味のミジュ。顔色が土気色のツティと満身創痍のメンバーが勢揃いだ。
うちだけはまだ元気なのだけど……
ちょっと咳き込んでおこうかな……ゴホンっ。
ちなみに主様はまだぴんぴんしている。どの妖精より仕事をしているはずなのに。
変態的にタフだ。
「仕事が多すぎるか……」
「牧草は何とか足りるようになったッスけど、あいつら食べる量が多いのなんの……油断してたらすぐ空になっちゃうッス」
「加えて、肥料づくりのための糞の掃除もあります。トイレの場所はかなり覚えてくれていますけど……広すぎて一日中処理に追われています」
えぇ……ガレスヌーとクックってしつけられるんだ。
ミジュはすごいなぁ……どうやってあんな動物に教え込んだんだろ?
うちなんて近付かれただけで、びびりまくってたのに。
「さらにダンジョンは広がっていると言っていたな?」
「はい……牧草部屋から伸びて二つに分かれています。これもどちらもあり得ないほど広い部屋です」
「そうか……次こそ肥料を活かした畑にしたかったのだが……」
主様がつぶやいた台詞に、三姉妹が「ありえない」とばかりに首を振った。
これ以上のオーバーワークは本当にきついのだろう。
振り回されているけど、主様の側を飛んでいるうちは幸せなのかもしれない。
「お前たちが倒れるようなことは避けたい。…………新しい働き手を勧誘するしかないな」
「いぃっやっほーッス! 名案ッス! これで仕事が減るッス」
「待ちなさいゼカっ! そんな軽はずみに喜ぶことじゃないわ!」
「なんでッス?」
「…………それは……」
ミジュが目を泳がせて言いよどむ。
予想はだいたいつくけど、この場にいる誰かさんに聞かれてはまずいことなんだろう。
迷いに迷って、結局言うのはやめたらしい。
「と、とにかく……働き手は欲しいですけど、主様には慎重になっていただかないと……」
「みんなの仕事が楽になるのにか?」
首を傾げる主様に、ミジュは口をぱくぱくと開けたが言葉は続かない。
でも、少しの間を空けて、恐る恐る尋ねた。
「ちなみに……働き手のあてはあるのですか?」
「もちろんだ」
「お聞きしても?」
「『誘いのカタコーム』だ」
「ぎゃぁぁぁぁっ!」「ひぃぃぃ!」「…………やだ」
お……おぉ……それはないわ。
その場所は年中悲鳴が聞こえてくるという地下墓所だ。人間もモンスターもなぜか近付くと幻に誘われるという。
ある人は死んだはずの愛しい妻だったり、最愛の息子だったり……とにかく大切な相手が手招きをするように現れるらしい。
しかも色とりどりのお花畑の中に。
だけど、誘われたが最後、二度と帰ることはないと言われている。
――アルマー・ウェリントン著。『あなたの知らない世界のふしぎ』より。
うちは近くの本棚にあった薄い本を数ページめくった。
おどろおどろしい廃城に、奇抜な姿のアンデッドたちが闊歩している挿絵だ。妖精の村と真逆のような描写。
絶対に近付きたくない場所。
こんな所に働き手がいるはずがない。
いたとしても、きっとそれは……
「ぬ、主様……まさか、一日働いても疲れない方々……ですか?」
ミジュが声を震わせて問いかけた。
返事はすぐに返ってきた。
「そうだ」
「ぎゃぁぁぁぁっ! 嫌です、嫌です! そんなのと一緒に仕事したくないですっ!」
「そうッス、そうッス! あいつらは死臭がするッス」
「…………死んでるから当然」
「なんだ? みんな反対か?」
「断固反対です!(ッス)(コクン)」
「だが、もう決めたことだ。彼らは力になるはずだ。磨けば骨に染みついた死臭は消える。しかも骨粉は肥料になる」
「えぇぇぇっ!?」
「朽ちたとしてもこれ以上無い戦力と言えるだろう」
「ちょ、ちょっと待って――」
「では行ってくる」
「主さまっ!」
すがる妹たち――特にミジュとゼカ――は、必死に主様の服を掴んで止める。
だけど頑丈な体はぐいぐいとみんなを引っ張っていく。
玄関を出る寸前になって、ようやくこちらに横顔を見せた。
「誰か一緒に行くか? 何事も経験だぞ」
全員がぱっと両手を離した。何食わぬ顔で片手を振っている。
誰もついて行きたくないらしい。
「フラムはどうする?」
「うちも……疲れてるし遠慮しようかなぁ……」
やんわりと断ったうちに、背後から殲滅攻撃が浴びせられた。
「姉さんは一番元気そうよね? ね? ゼカ」
「そうッス、そうッス。私らの代わりに生きのいい骨見つけて来て欲しいッス」
「部屋の管理人は任せる……」
「おっ、それはツティ名案ッスよ!」
「大役だわ……フラム姉さんにしか務まらないに違いない。私じゃ手に余るわね」
「あんた達ね……言ってること変わったじゃん」
白けた目で妹たちを眺めたが、一向に茶番は終わる様子はない。
どうあってもうちに押し付けたいらしい。
アンデッドは火に弱いから、何かあった時には一番適任だって分かるんだけど……納得はいかない。
これは久々に姉妹会議を開催しないといけないようだ。
お題は…………公正なくじ引きのやり方について、かな。
「じゃあ、結局誰も行かないんだな?」
あっ、主様のこと忘れてた。
もう目の前には<テレポート>の準備を完了させて、踏み出す寸前だ。
「…………主様……最近あそこに行ったことあるの?」
「『強壮花』を採りにしょっちゅう行ってるぞ。夜中だがな」
「『強壮花』? 眠気とばしの? あれってお茶に入れたりして飲む花だよね? そんなのあったっけ?」
主様が、あきれたように肩をすくめた。
まっすぐ伸ばされた指が部屋の隅にある鉢に向けられた。
全員が釣られて目をやる。
「そこにずっと置いているだろ。カタコームの『強壮花』はなぜか青でなく真っ赤だが、生で食べると一日中仕事ができる。まずいが便利だ」
「……あれ、『強壮花』だったんスか? どっかで見た花だなぁとは思ってたッスけど……なんで赤いんス?」
「…………聞いちゃダメ」
「やめてぇぇっ!! 私、あれにいつも水遣りしてたのよっ! あんな場所のだと分かってたらぜったい――」
「…………ばっちり呪われた」
「fgのあうあうぇっ!」
「お前たち……なにをやっているんだ? 時間も無いし行くからな」
「行ってらっしゃーい……気をつけてね」
部屋の隅で頭を抱えて震えるミジュを尻目に、うちは主様にひらひらと手を振った。
一番怖がりなのは意外とミジュなんだね。
恒例となった小さなテーブルでの会議で、主様がため息をついた。
主様の前には、疲労で突っ伏しているゼカ、やつれ気味のミジュ。顔色が土気色のツティと満身創痍のメンバーが勢揃いだ。
うちだけはまだ元気なのだけど……
ちょっと咳き込んでおこうかな……ゴホンっ。
ちなみに主様はまだぴんぴんしている。どの妖精より仕事をしているはずなのに。
変態的にタフだ。
「仕事が多すぎるか……」
「牧草は何とか足りるようになったッスけど、あいつら食べる量が多いのなんの……油断してたらすぐ空になっちゃうッス」
「加えて、肥料づくりのための糞の掃除もあります。トイレの場所はかなり覚えてくれていますけど……広すぎて一日中処理に追われています」
えぇ……ガレスヌーとクックってしつけられるんだ。
ミジュはすごいなぁ……どうやってあんな動物に教え込んだんだろ?
うちなんて近付かれただけで、びびりまくってたのに。
「さらにダンジョンは広がっていると言っていたな?」
「はい……牧草部屋から伸びて二つに分かれています。これもどちらもあり得ないほど広い部屋です」
「そうか……次こそ肥料を活かした畑にしたかったのだが……」
主様がつぶやいた台詞に、三姉妹が「ありえない」とばかりに首を振った。
これ以上のオーバーワークは本当にきついのだろう。
振り回されているけど、主様の側を飛んでいるうちは幸せなのかもしれない。
「お前たちが倒れるようなことは避けたい。…………新しい働き手を勧誘するしかないな」
「いぃっやっほーッス! 名案ッス! これで仕事が減るッス」
「待ちなさいゼカっ! そんな軽はずみに喜ぶことじゃないわ!」
「なんでッス?」
「…………それは……」
ミジュが目を泳がせて言いよどむ。
予想はだいたいつくけど、この場にいる誰かさんに聞かれてはまずいことなんだろう。
迷いに迷って、結局言うのはやめたらしい。
「と、とにかく……働き手は欲しいですけど、主様には慎重になっていただかないと……」
「みんなの仕事が楽になるのにか?」
首を傾げる主様に、ミジュは口をぱくぱくと開けたが言葉は続かない。
でも、少しの間を空けて、恐る恐る尋ねた。
「ちなみに……働き手のあてはあるのですか?」
「もちろんだ」
「お聞きしても?」
「『誘いのカタコーム』だ」
「ぎゃぁぁぁぁっ!」「ひぃぃぃ!」「…………やだ」
お……おぉ……それはないわ。
その場所は年中悲鳴が聞こえてくるという地下墓所だ。人間もモンスターもなぜか近付くと幻に誘われるという。
ある人は死んだはずの愛しい妻だったり、最愛の息子だったり……とにかく大切な相手が手招きをするように現れるらしい。
しかも色とりどりのお花畑の中に。
だけど、誘われたが最後、二度と帰ることはないと言われている。
――アルマー・ウェリントン著。『あなたの知らない世界のふしぎ』より。
うちは近くの本棚にあった薄い本を数ページめくった。
おどろおどろしい廃城に、奇抜な姿のアンデッドたちが闊歩している挿絵だ。妖精の村と真逆のような描写。
絶対に近付きたくない場所。
こんな所に働き手がいるはずがない。
いたとしても、きっとそれは……
「ぬ、主様……まさか、一日働いても疲れない方々……ですか?」
ミジュが声を震わせて問いかけた。
返事はすぐに返ってきた。
「そうだ」
「ぎゃぁぁぁぁっ! 嫌です、嫌です! そんなのと一緒に仕事したくないですっ!」
「そうッス、そうッス! あいつらは死臭がするッス」
「…………死んでるから当然」
「なんだ? みんな反対か?」
「断固反対です!(ッス)(コクン)」
「だが、もう決めたことだ。彼らは力になるはずだ。磨けば骨に染みついた死臭は消える。しかも骨粉は肥料になる」
「えぇぇぇっ!?」
「朽ちたとしてもこれ以上無い戦力と言えるだろう」
「ちょ、ちょっと待って――」
「では行ってくる」
「主さまっ!」
すがる妹たち――特にミジュとゼカ――は、必死に主様の服を掴んで止める。
だけど頑丈な体はぐいぐいとみんなを引っ張っていく。
玄関を出る寸前になって、ようやくこちらに横顔を見せた。
「誰か一緒に行くか? 何事も経験だぞ」
全員がぱっと両手を離した。何食わぬ顔で片手を振っている。
誰もついて行きたくないらしい。
「フラムはどうする?」
「うちも……疲れてるし遠慮しようかなぁ……」
やんわりと断ったうちに、背後から殲滅攻撃が浴びせられた。
「姉さんは一番元気そうよね? ね? ゼカ」
「そうッス、そうッス。私らの代わりに生きのいい骨見つけて来て欲しいッス」
「部屋の管理人は任せる……」
「おっ、それはツティ名案ッスよ!」
「大役だわ……フラム姉さんにしか務まらないに違いない。私じゃ手に余るわね」
「あんた達ね……言ってること変わったじゃん」
白けた目で妹たちを眺めたが、一向に茶番は終わる様子はない。
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アンデッドは火に弱いから、何かあった時には一番適任だって分かるんだけど……納得はいかない。
これは久々に姉妹会議を開催しないといけないようだ。
お題は…………公正なくじ引きのやり方について、かな。
「じゃあ、結局誰も行かないんだな?」
あっ、主様のこと忘れてた。
もう目の前には<テレポート>の準備を完了させて、踏み出す寸前だ。
「…………主様……最近あそこに行ったことあるの?」
「『強壮花』を採りにしょっちゅう行ってるぞ。夜中だがな」
「『強壮花』? 眠気とばしの? あれってお茶に入れたりして飲む花だよね? そんなのあったっけ?」
主様が、あきれたように肩をすくめた。
まっすぐ伸ばされた指が部屋の隅にある鉢に向けられた。
全員が釣られて目をやる。
「そこにずっと置いているだろ。カタコームの『強壮花』はなぜか青でなく真っ赤だが、生で食べると一日中仕事ができる。まずいが便利だ」
「……あれ、『強壮花』だったんスか? どっかで見た花だなぁとは思ってたッスけど……なんで赤いんス?」
「…………聞いちゃダメ」
「やめてぇぇっ!! 私、あれにいつも水遣りしてたのよっ! あんな場所のだと分かってたらぜったい――」
「…………ばっちり呪われた」
「fgのあうあうぇっ!」
「お前たち……なにをやっているんだ? 時間も無いし行くからな」
「行ってらっしゃーい……気をつけてね」
部屋の隅で頭を抱えて震えるミジュを尻目に、うちは主様にひらひらと手を振った。
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