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45 休暇なのでBBQ!?
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敵をやっつけたあと、私たちは真祖教会に戻った。
心配しすぎで張りつめていたウェイリーンは、ウリエルと肩で眠っているナリアリの顔を見るなり膝から崩れた。仲間想いのシスターらしい。
「本当に私たちが不甲斐ないばかりに、真祖さまに危険を――」
「大丈夫さ。みんなこうして無事だったんだ」
切腹しそうな勢いのウェイリーンを、ウリエルが「まあまあ」と宥める。
そして、抱っこされていた私をそっと地面に下ろした。
ここまで恥ずかしくて死にそうだった。
ナリアリは肩に担ぎ、私は小さいので片腕で抱っこされていたのだ。
眠っているフリをしておいてください――と言われたときには、「なんで?」と思ったけれど、「真祖教会のトップが主様を助けるという結果は色々と都合が良いので」と言われて、よくわからないまま納得した。
が――これは相当恥ずかしい。
ヴィヨンの町を、超絶イケメンに抱っこされながら、たまに薄目を開けると、それに気づくウリエルが優しい笑みを向ける。
前世の体で、ぜひ味わってみたかった。
というか、なぜウリエルはこんなにニコニコしている? 芋づるで敵を見つけられなったのに、いいことでもあったんだろうか?
「今日は、意図せぬこととはいえ、申し訳ないことをしました」
ウリエルはナリアリをお姫様抱っこしたまま、軽く頭を下げた。
「このお詫びは真祖教会のトップの名にかけて必ず」
「ま、まあそこまでのことは」
「それと、真祖教会は、リリさまぁ……ん、ごほん……と、良い関係を進めたいと思います」
また言い間違えたぞ。がんばれ、ウリエル。
私が怖いから。
「あなたの真っ直ぐな気持ちを信用しています。できる限り、他のヴァンパイアとも、関係の改善を図りましょう」
「ありがとう」
「機会があれば、僕も、お店に顔を出します」
「え? まあ……どうぞ」
別にお客さんになってくれとは言ってなかったと思うけど、なぜかとてもウリエルが上機嫌に見えるので、頷いておいた。
「あっ、そういえば、あのカステラだけど……」
「もちろん、こちらで大切に取り扱っておきます!」
「え? そう?」
「お任せください」
「お、うん。じゃあそんな感じで」
「はい。またいらしてくださいね」
そして、私は手を振って真祖教会をあとにした。
何か色々とかみ合ってない気がする。
床にぐちゃっと落ちたカステラは、普通「処分する」とかだよね?
***
次の日。
私は白雪城に登城した。
ケーキの用意も目途がついたので、お店のオープンの日を伝えに来たのだ。
美女メイド集団に歓迎されながら、大広間に顔を出す。
そこにはプルルスとディアッチがいた。珍しくウーバがいない。
それと、壁が至るところで崩れている。
まるで激戦の跡だ。
「これは、主様。ちょうど誘いにいくところだったんだ」
「ちょっと、待って……これ、どうしたの?」
目を丸くした私に、プルルスは苦笑した。
「昨日、ネズミが二匹ちょろちょろ入ってきてね。真祖の居場所を嗅ぎまわっていたから退治したんだ。ただ、ちょっとばかし乱暴なネズミでね」
「そのネズミって黒いやつ?」
「うん、主様、知ってるのかい?」
「私も、昨日会った。真祖教会にいるときに、連れていかれて」
「それで?」
「ウリエルと一匹ずつやっつけた」
「……それはまた敵が災難だね。たぶん、ヴァンパイアの誰かの差し金だろうけど、もう来たのか。うちの門番も一度死んでるし。強硬派となると、『朽廃鬼』か『烈剣』あたりだけど、まだ判断はできないかな」
「門番さん、殺されたの?」
「ああ。ただ、彼は元々が霊体みたいなものだから、一週間もあれば復活できる」
「そっか、良かったね」
「まあ、こっちはこっちでレベルアップできる程度のネズミだったし、好都合だったとも言える。一応、迎え撃つ準備は厚くしておくかな。で――そんなことより、大事なのは元の話だ」
「誘いの件?」
「それそれ。白雪城もしばらく休みがなかったからさ。全員にまとまった休暇を出そうと思って」
「へぇ、そういえばそんな話、どこかで聞いたかも」
「で、休暇って言っても、僕らはどうやって休んだらいいかわからないから、それならバーベキューでもしようってことで、白魚の滝に行こうかなって話になっててね。あそこは湖が綺麗な場所らしい」
異世界でBBQの単語を聞くとは。さすがJRPGの世界感、何でもありだ。
白い法衣の黒髪ロングの優男が言うと違和感しかないけれど。
危ない教祖にはチャラさが足りない。
「その滝ってどこにあるの?」
ディアッチがずいっと身を乗り出した。
「不干渉地帯と呼ばれる、どの種族の領地でもないエリアです。マイノリティな種族や精霊が静かに暮らしておりますが、そこでの示威行動や武力衝突は禁止されております」
「へぇ、種族間の戦いがないってことでしょ? いいんじゃないかな」
「この白雪城の希望者と、主も宜しければ」
「うーん」
確かに、このところずっと働きづめだ。
ケーキ屋の件もあるし、クロスフォーのメンバーも色々と溜まっているかもしれない。
「行く方向で考えようかな。うちのメンバーにも声かけてみる。日帰り?」
「いえ、一泊の予定です。ウーバの強い希望もありまして」
「……え? ウーバの?」
「はい。彼女は『楽しいことはできるだけ長く』というのがモットーだそうで」
今考えたみたいな都合の良いモットーだ。
けど、ちょっと待って。そういえばウーバの件、忘れてた。
「ウーバはどこに?」
「水着の準備があると言って、一足早く休暇に入っております」
「そ、そっか……準備休暇か……」
何日前から休んでるんだろう。気合の入れ方が半端ない。
サキュバスの本気を感じる。
「三日後ですが、主は大丈夫でしょうか?」
ディアッチが事も無げに言う。このモンスターは、たぶん何も気づいてないだろう。
私はこくんと頷いた。
「それは良かった。ところで、プルルス様、我はバーベキューなる言葉は知っているものの、意味を知らぬのですが……」
「おや、そうなのかい? そんなに難しく考えることはないよ。湖のそばで、肉を焼いて酒を飲めばいいんだ」
「おおっ、それは知りませんでした!」
「ただ、それの何が楽しいのかはよくわからない」
「わははははは。では、我とそう変わりませんな」
「ふふふ、そうなんだ。まあ、何事も、やってみようじゃないか。ウーバが詳しいらしいしね」
「そうですな。任せましょう。ウーバは物知りですしな」
「…………」
やっぱり、この二人はポンコツだった。
***
クロスフォーのメンバーは全員が行くことになった。
バーベキューなんてやったことがない、というアテルとウィミュに対し、ミャンは、夏はよく家族で行っていましたわ、ということだった。
さすが元王族は違う。
とは言うものの、王族が水辺でバーベキューをしている姿は想像しにくい。
「湖ということは、水着が必要ですね」アテルが言った。
「水着ってなに?」
「ウィミュは知りませんか。水に浸かっても大丈夫な生地で作った服のことです。大変乾きやすく、水を吸って重くなることがありません」
「おぉっ! そんな服があるんだ! アテル、物知り!」
「ええ……ということで、クロスフォーメンバーの水着は、このアテルがきっちりと揃えて参ります!」
「…………ねえ、アテル」
私は冷たく尋ねた。
「当然、ふつーのやつを選んでくれるよね?」
「もちろんです! リリ様の体にぴたりと合った、これ以上ない水着を用意いたします!」
アテルの瞳が輝いている。
「ペッタン2人、グラマー1人」とリズミカルに口笛を吹いている。
失礼なメロディだ。
それが、私たちに聞こえていないと思っているあたり、だいぶネジが外れている。
ミャンが眉を寄せて不安そうに耳打ちしてきた。
「ペッタン2人って、リリさんと私のことかしら?」
「まあ……それしかないよね。ウィミュは……あの通りだし」
「心外すぎて、開いた口が塞がりませんわ。こっちで用意した方がよろしいのでは?」
「そうしよっか」
色々と心配ごとが多い休暇になりそうだ。
ちなみに、うちの店からはシャロンだけが参加することになった。ユミィとルリィの双子のヴァンパイアは、今のうちにルヴァンさんから調理技術を教わりたいらしい。
シャロンも渋っていたけれど、ずっと働きづめだったのを知って、双子から「是非とも」と送り出されたのだった。
心配しすぎで張りつめていたウェイリーンは、ウリエルと肩で眠っているナリアリの顔を見るなり膝から崩れた。仲間想いのシスターらしい。
「本当に私たちが不甲斐ないばかりに、真祖さまに危険を――」
「大丈夫さ。みんなこうして無事だったんだ」
切腹しそうな勢いのウェイリーンを、ウリエルが「まあまあ」と宥める。
そして、抱っこされていた私をそっと地面に下ろした。
ここまで恥ずかしくて死にそうだった。
ナリアリは肩に担ぎ、私は小さいので片腕で抱っこされていたのだ。
眠っているフリをしておいてください――と言われたときには、「なんで?」と思ったけれど、「真祖教会のトップが主様を助けるという結果は色々と都合が良いので」と言われて、よくわからないまま納得した。
が――これは相当恥ずかしい。
ヴィヨンの町を、超絶イケメンに抱っこされながら、たまに薄目を開けると、それに気づくウリエルが優しい笑みを向ける。
前世の体で、ぜひ味わってみたかった。
というか、なぜウリエルはこんなにニコニコしている? 芋づるで敵を見つけられなったのに、いいことでもあったんだろうか?
「今日は、意図せぬこととはいえ、申し訳ないことをしました」
ウリエルはナリアリをお姫様抱っこしたまま、軽く頭を下げた。
「このお詫びは真祖教会のトップの名にかけて必ず」
「ま、まあそこまでのことは」
「それと、真祖教会は、リリさまぁ……ん、ごほん……と、良い関係を進めたいと思います」
また言い間違えたぞ。がんばれ、ウリエル。
私が怖いから。
「あなたの真っ直ぐな気持ちを信用しています。できる限り、他のヴァンパイアとも、関係の改善を図りましょう」
「ありがとう」
「機会があれば、僕も、お店に顔を出します」
「え? まあ……どうぞ」
別にお客さんになってくれとは言ってなかったと思うけど、なぜかとてもウリエルが上機嫌に見えるので、頷いておいた。
「あっ、そういえば、あのカステラだけど……」
「もちろん、こちらで大切に取り扱っておきます!」
「え? そう?」
「お任せください」
「お、うん。じゃあそんな感じで」
「はい。またいらしてくださいね」
そして、私は手を振って真祖教会をあとにした。
何か色々とかみ合ってない気がする。
床にぐちゃっと落ちたカステラは、普通「処分する」とかだよね?
***
次の日。
私は白雪城に登城した。
ケーキの用意も目途がついたので、お店のオープンの日を伝えに来たのだ。
美女メイド集団に歓迎されながら、大広間に顔を出す。
そこにはプルルスとディアッチがいた。珍しくウーバがいない。
それと、壁が至るところで崩れている。
まるで激戦の跡だ。
「これは、主様。ちょうど誘いにいくところだったんだ」
「ちょっと、待って……これ、どうしたの?」
目を丸くした私に、プルルスは苦笑した。
「昨日、ネズミが二匹ちょろちょろ入ってきてね。真祖の居場所を嗅ぎまわっていたから退治したんだ。ただ、ちょっとばかし乱暴なネズミでね」
「そのネズミって黒いやつ?」
「うん、主様、知ってるのかい?」
「私も、昨日会った。真祖教会にいるときに、連れていかれて」
「それで?」
「ウリエルと一匹ずつやっつけた」
「……それはまた敵が災難だね。たぶん、ヴァンパイアの誰かの差し金だろうけど、もう来たのか。うちの門番も一度死んでるし。強硬派となると、『朽廃鬼』か『烈剣』あたりだけど、まだ判断はできないかな」
「門番さん、殺されたの?」
「ああ。ただ、彼は元々が霊体みたいなものだから、一週間もあれば復活できる」
「そっか、良かったね」
「まあ、こっちはこっちでレベルアップできる程度のネズミだったし、好都合だったとも言える。一応、迎え撃つ準備は厚くしておくかな。で――そんなことより、大事なのは元の話だ」
「誘いの件?」
「それそれ。白雪城もしばらく休みがなかったからさ。全員にまとまった休暇を出そうと思って」
「へぇ、そういえばそんな話、どこかで聞いたかも」
「で、休暇って言っても、僕らはどうやって休んだらいいかわからないから、それならバーベキューでもしようってことで、白魚の滝に行こうかなって話になっててね。あそこは湖が綺麗な場所らしい」
異世界でBBQの単語を聞くとは。さすがJRPGの世界感、何でもありだ。
白い法衣の黒髪ロングの優男が言うと違和感しかないけれど。
危ない教祖にはチャラさが足りない。
「その滝ってどこにあるの?」
ディアッチがずいっと身を乗り出した。
「不干渉地帯と呼ばれる、どの種族の領地でもないエリアです。マイノリティな種族や精霊が静かに暮らしておりますが、そこでの示威行動や武力衝突は禁止されております」
「へぇ、種族間の戦いがないってことでしょ? いいんじゃないかな」
「この白雪城の希望者と、主も宜しければ」
「うーん」
確かに、このところずっと働きづめだ。
ケーキ屋の件もあるし、クロスフォーのメンバーも色々と溜まっているかもしれない。
「行く方向で考えようかな。うちのメンバーにも声かけてみる。日帰り?」
「いえ、一泊の予定です。ウーバの強い希望もありまして」
「……え? ウーバの?」
「はい。彼女は『楽しいことはできるだけ長く』というのがモットーだそうで」
今考えたみたいな都合の良いモットーだ。
けど、ちょっと待って。そういえばウーバの件、忘れてた。
「ウーバはどこに?」
「水着の準備があると言って、一足早く休暇に入っております」
「そ、そっか……準備休暇か……」
何日前から休んでるんだろう。気合の入れ方が半端ない。
サキュバスの本気を感じる。
「三日後ですが、主は大丈夫でしょうか?」
ディアッチが事も無げに言う。このモンスターは、たぶん何も気づいてないだろう。
私はこくんと頷いた。
「それは良かった。ところで、プルルス様、我はバーベキューなる言葉は知っているものの、意味を知らぬのですが……」
「おや、そうなのかい? そんなに難しく考えることはないよ。湖のそばで、肉を焼いて酒を飲めばいいんだ」
「おおっ、それは知りませんでした!」
「ただ、それの何が楽しいのかはよくわからない」
「わははははは。では、我とそう変わりませんな」
「ふふふ、そうなんだ。まあ、何事も、やってみようじゃないか。ウーバが詳しいらしいしね」
「そうですな。任せましょう。ウーバは物知りですしな」
「…………」
やっぱり、この二人はポンコツだった。
***
クロスフォーのメンバーは全員が行くことになった。
バーベキューなんてやったことがない、というアテルとウィミュに対し、ミャンは、夏はよく家族で行っていましたわ、ということだった。
さすが元王族は違う。
とは言うものの、王族が水辺でバーベキューをしている姿は想像しにくい。
「湖ということは、水着が必要ですね」アテルが言った。
「水着ってなに?」
「ウィミュは知りませんか。水に浸かっても大丈夫な生地で作った服のことです。大変乾きやすく、水を吸って重くなることがありません」
「おぉっ! そんな服があるんだ! アテル、物知り!」
「ええ……ということで、クロスフォーメンバーの水着は、このアテルがきっちりと揃えて参ります!」
「…………ねえ、アテル」
私は冷たく尋ねた。
「当然、ふつーのやつを選んでくれるよね?」
「もちろんです! リリ様の体にぴたりと合った、これ以上ない水着を用意いたします!」
アテルの瞳が輝いている。
「ペッタン2人、グラマー1人」とリズミカルに口笛を吹いている。
失礼なメロディだ。
それが、私たちに聞こえていないと思っているあたり、だいぶネジが外れている。
ミャンが眉を寄せて不安そうに耳打ちしてきた。
「ペッタン2人って、リリさんと私のことかしら?」
「まあ……それしかないよね。ウィミュは……あの通りだし」
「心外すぎて、開いた口が塞がりませんわ。こっちで用意した方がよろしいのでは?」
「そうしよっか」
色々と心配ごとが多い休暇になりそうだ。
ちなみに、うちの店からはシャロンだけが参加することになった。ユミィとルリィの双子のヴァンパイアは、今のうちにルヴァンさんから調理技術を教わりたいらしい。
シャロンも渋っていたけれど、ずっと働きづめだったのを知って、双子から「是非とも」と送り出されたのだった。
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