11 / 80
11 めっちゃ元気でた!ありがとう!
しおりを挟む
微妙な街並みだった。
西洋中世と思いきや、建物は木造だったり石造りだったりとバラバラだ。しかも軒先に八百屋や果物屋、中には剣術を教える道場なんかもあって、つかみどころがない。
広い石畳の通路は人力車も馬車も走っている。
まあ、一言で言って、ごった煮みたいな状態だ。
「アテル、カステラはどの辺?」
「あの城の近くです」
アテルが指さしたのは奥にそびえる茶色の城だった。確かプルルスの言いなりになっている人間の王様のお城だ。
だいぶ奥だ。
とことこと歩いていくと、隣でウィミュが目を輝かせていた。
「リリ、あれ見て、あれ見て! 杖! 綺麗な宝石がついてる」
「ほんと。でっかい宝石」
サッカーボールほどの緑色の宝石がついた杖があった。
柄の部分がとても長く、ウィミュの身長より高くなるだろう。
高そうな店舗のガラス張りのショールームに、マネキン代わりの木人が杖を持ってポーズを決めている。
目が飛び出るような価格だ。
ゲーム内で一周目をクリアすると、ステータス上昇のアイテムも買えるようになるけれど、それと同じくらいとはびっくりだ。
「あれ、買いたいなあ」
「ウィミュって魔法使いだっけ?」
と、聞いたときにはウィミュはその店の斜め前に駆け寄っていた。
今度は魔法武器ではなく、槍や剣といった刃物専門の店だ。
同じくガラス張りの店内には、別のRPGゲームで見たような柄に飾り羽がついた武器や、金色の刃の剣が見えた。
「槍、好き」
ウィミュがうっとりしたような表情をしている。武器マニアの一面があるらしい。
アテルは逆に、食べ物を目を皿にして眺めている。
果物を手にとり、裏側まで確認したかと思えば「ちょっと高くなってる?」と眉間にしわを寄せている。
主婦みたいだ。
「そろそろいくよー」
私が声をかけなければ迷子になりそうな二人だ。
かくいう私は、銀色のドレスにフルフェイスの鉄兜なので怪しいことこの上ない。
すれ違う人、獣人、どう見ても悪魔の姿をしたモンスターたちに、じろじろと見られている。
視界の悪さにうんざりするし、居心地がひどく悪い。
それを感じたのだろう。
アテルが「いいものがあります」とそっと耳打ちして、手を引いてくれた。
入ったのは衣装のお店だった。
出てきた店員さんがぎょっとした顔をするが、アテルは動じることなく何かを探して戻ってきた。
「これはどうでしょう」
アテルが持っているのは黒い布だった。中央に白地で十字架が描かれている。
「その兜と交換しましょう」
「え? 見えなくなるけど?」
「大丈夫です。試してください」
こそこそと話すアテルが自分の背中で私を隠した。
さっと兜を脱がし黒い布を目だけを覆うように巻きつけた。
すると――
「すごい。見える」
「そうなんです。本当はヴァンパイアの力に対抗するために協会がシスターにつけさせる遮魔布と呼ばれるものですが、それほど珍しいものではありません」
「ヴァンパイアの力を抑えるってこと? 私がつけて大丈夫?」
「高位のヴァンパイアにはほとんど効果がありません」
「そうなんだ……」
アテルがじっと見つめる。
私は拳を握り、肩を回したあと、全身をワカメのように、にょろにょろさせてみる。
「な、なにを?」
「え? 凝り固まってる感じが少ししたから、全身運動?」
「多少動きづらいとは思いますが……へ、変な動きをしないでください。店員に怪しまれます」
「そう?」
アテルの隣からひょこっと店員を見た。
愛想の良さそうな女性が「まぁっ」と両手を合わせた。
「ドレスに黒い布がとてもお似合いですよ!」
「ありがとう」
私はにっこり微笑んでアテルにも「ありがとう」と伝えた。
「笑顔が天使……」
「え?」
「ごほん……鎧よりずっといいです。これをもらいましょう」
「お金、私が出すよ」
「リリ様、お金持ってるんですか?」
「もちろん。実は大金持ちなの。ほら」
アイテムボックスからお金を引き出した。
ゲーム内で実体は見れないけれど、現実世界では簡単だ。
「あの……これは、どこのお金でしょうか?」
店員が困惑していた。何かの紋章が描かれた金貨をしげしげと眺め、店の奥に持っていって戻ってきた。
「これが、この国の金貨です……お客様の金貨は随分大きいのですが、当店ではちょっとこれでは……」
「あれ?」
そんな馬鹿な。
私のアイテムボックスのお金は降臨書にしか使えないダメなお金だったなんて。
かなりショックだ。
アテルが優しい瞳で「大丈夫です」と肩をぽんと叩いた。
「私が払います。これで――」
彼女が取り出したのは銀色の板だった。
店員が恐れおののいたように顔を強張らせた。
「一回払で」
「か、かしこまりました」
アテルは鼻高々に支払いを終え、私の手を引いて店を出た。
ずっと隣で見ていたウィミュが疑問を口にする。
「今の、なに? お金?」
「朱天城に仕える者に与えられるカードで、まあ、お金みたいなものです。逃げるときにこれだけは持ってきました。この国では支払いに困りませんし、もめごとのときに役に立ちます。使えない店もありますが。私の切り札です」
「すごーい! じゃあ、アテルって大金持ちなんだ!」
「そんなに優遇されてるのね。意外と……朱天城って悪くない待遇だったり」
「リリ様……まさか、よからぬことを考えていませんか? 言っておきますが、あそこはモンスターの巣窟ですよ」
「ま、まさか! お金の心配をしなくていいのはうらやましいってだけ」
こんなに近くにブラックカードを持っている者がいるとは。
どうにかして私も手にいれたい。
ただ、もしクレジットカードのようなものならば、気になることがある。
「ねえ、それって使って大丈夫なの?」
「もちろんです。私がもらったのですから」
「いえ、そうじゃなくて、使ったら……アテルの居場所がばれない?」
「は?」
アテルが目を点にする。
嫌な予感がした。
「アテル、ちょっとカード貸して」
何も疑問を抱いていないアテルからさっとカードを受け取って裏を見た。
番号111。見事なぞろ目だ。
でも番号があるということは――
「アテル、これ返すけど、たぶん、朱天城に使った店の履歴が知られてるよ」
「え? そ、そうなんですか?」
「うん。アテルとこの111番は紐づいてるはずだから。今日、さっきの店でアテルが使ったってことはバレたと思っていい」
「それはまずいです! 私が戻ってきたことが筒抜けに!?」
「プルルスがもうあなたに興味を抱いていないことを祈りましょう。とりあえず――さっさとカステラに向かいましょう」
「それでも行くんですか? カステラに? ばれたってことですよね?」
「隠し事はいずればれるの。とりあえず離れましょう。さあ!」
***
この胸の鼓動はなんだろう。
どくん、どくんと一際強く高鳴っている。ヴァンパイアにもこんな感情があったことを喜びたい。
「リリ、顔が変」
「よーく見といて。ウィミュもすぐ同じ顔になるから」
「ええー、私そんなにだらしのない顔しないよ」
ウィミュが嫌そうな顔をして距離を取った。でも、絶対に彼女も同じ顔をする。
もう我慢できない。
近づくたびに漂ってくる甘い香りが数日ぶりの脳をダメにする。
黄色いスポンジのようにふわふわで、焼き色のザラメがついた両面。
あまーくほろりと溶ける口当たり。
ビバ、カステラ!
「やった! やっぱりあった! JRPGばんざい!」
「JRPG? リリ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫。とりあえず、さっさと店に入りましょう。カステラが呼んでる」
「あの、リリ様、一つだけ、言わせてもらっても良いですか?」
アテルが突然かしこまった。
怪訝に思った私は「なに?」と振り向いた。
「大変、言いにくいのですが……」
「……悪かったわ。ちょっと壊れかけていたかも。言いたいことはわかる……もう少しおしとやかに振る舞わないとダメね」
「いえ……そういうことでないのです。もっと根本的な話で」
「どうしたの?」
「お金がありません」
「…………え? ブ、ブラックカードは?」
「ブラックカード? あのカードは食品や酒場で使えません」
「どうして!?」
「朱天城のモンスターは人間の食べ物など食べないからです。彼らはMPを喰らい、ヴァンパイアは血を吸うだけです」
「ええっ!? じゃあ、カステラは?」
目の前で恰幅の良いおじさんが液卵を何かの型に流し込んでいる。
ここもガラス張りで調理過程が見えるように工夫しているのだ。焼き上がったカステラが数本、白く輝く棚に大切に並べられている。
この光景を前にして――
「今は、持ち合わせがありません」
「ほ、ほんとに!?」
「残念ながら、カステラはとても高価なのです……リリ様があまりに嬉しそうだったので、言い出せませんでした」
「そんなぁ……ぅぅぅ」
「リリ、元気出して。これあげるから。アテルと買ったの。三本が限界だったけどねー」
ウィミュが袋から串に刺さった赤いベリーの棒をさし出した。
いつの間に買ってあったのか。それは砂糖でコーティングされたベリーのお菓子――タングルと呼ばれるものだった。
口に含むと、とても甘い。
カステラじゃないけど、おいしい。
「アテルの分も一本あるからどうぞ」
「ありがとう、ウィミュ。リリ様……今はこれで我慢してください。眷属として恥ずかしい限りですが」
「全然、そんなことない」
私は夢中で砂糖で輝くベリーを舐めた。
ゆっくりと身体に染み渡る甘味と、二人の優しさ。そして、わがままを言った私のために少ないお金を使ってくれたという申し訳なさ。
「ありがとう二人とも! めっちゃ元気出た。私も自分のお金を稼いで、二人にカステラをおごる」
「はい、がんばりましょう」
「私、杖がほしい!」
私たちは勢いよく立ち上がった。
恰幅の良いおじさんが、店内から微笑ましそうにこちらを見ていた。
西洋中世と思いきや、建物は木造だったり石造りだったりとバラバラだ。しかも軒先に八百屋や果物屋、中には剣術を教える道場なんかもあって、つかみどころがない。
広い石畳の通路は人力車も馬車も走っている。
まあ、一言で言って、ごった煮みたいな状態だ。
「アテル、カステラはどの辺?」
「あの城の近くです」
アテルが指さしたのは奥にそびえる茶色の城だった。確かプルルスの言いなりになっている人間の王様のお城だ。
だいぶ奥だ。
とことこと歩いていくと、隣でウィミュが目を輝かせていた。
「リリ、あれ見て、あれ見て! 杖! 綺麗な宝石がついてる」
「ほんと。でっかい宝石」
サッカーボールほどの緑色の宝石がついた杖があった。
柄の部分がとても長く、ウィミュの身長より高くなるだろう。
高そうな店舗のガラス張りのショールームに、マネキン代わりの木人が杖を持ってポーズを決めている。
目が飛び出るような価格だ。
ゲーム内で一周目をクリアすると、ステータス上昇のアイテムも買えるようになるけれど、それと同じくらいとはびっくりだ。
「あれ、買いたいなあ」
「ウィミュって魔法使いだっけ?」
と、聞いたときにはウィミュはその店の斜め前に駆け寄っていた。
今度は魔法武器ではなく、槍や剣といった刃物専門の店だ。
同じくガラス張りの店内には、別のRPGゲームで見たような柄に飾り羽がついた武器や、金色の刃の剣が見えた。
「槍、好き」
ウィミュがうっとりしたような表情をしている。武器マニアの一面があるらしい。
アテルは逆に、食べ物を目を皿にして眺めている。
果物を手にとり、裏側まで確認したかと思えば「ちょっと高くなってる?」と眉間にしわを寄せている。
主婦みたいだ。
「そろそろいくよー」
私が声をかけなければ迷子になりそうな二人だ。
かくいう私は、銀色のドレスにフルフェイスの鉄兜なので怪しいことこの上ない。
すれ違う人、獣人、どう見ても悪魔の姿をしたモンスターたちに、じろじろと見られている。
視界の悪さにうんざりするし、居心地がひどく悪い。
それを感じたのだろう。
アテルが「いいものがあります」とそっと耳打ちして、手を引いてくれた。
入ったのは衣装のお店だった。
出てきた店員さんがぎょっとした顔をするが、アテルは動じることなく何かを探して戻ってきた。
「これはどうでしょう」
アテルが持っているのは黒い布だった。中央に白地で十字架が描かれている。
「その兜と交換しましょう」
「え? 見えなくなるけど?」
「大丈夫です。試してください」
こそこそと話すアテルが自分の背中で私を隠した。
さっと兜を脱がし黒い布を目だけを覆うように巻きつけた。
すると――
「すごい。見える」
「そうなんです。本当はヴァンパイアの力に対抗するために協会がシスターにつけさせる遮魔布と呼ばれるものですが、それほど珍しいものではありません」
「ヴァンパイアの力を抑えるってこと? 私がつけて大丈夫?」
「高位のヴァンパイアにはほとんど効果がありません」
「そうなんだ……」
アテルがじっと見つめる。
私は拳を握り、肩を回したあと、全身をワカメのように、にょろにょろさせてみる。
「な、なにを?」
「え? 凝り固まってる感じが少ししたから、全身運動?」
「多少動きづらいとは思いますが……へ、変な動きをしないでください。店員に怪しまれます」
「そう?」
アテルの隣からひょこっと店員を見た。
愛想の良さそうな女性が「まぁっ」と両手を合わせた。
「ドレスに黒い布がとてもお似合いですよ!」
「ありがとう」
私はにっこり微笑んでアテルにも「ありがとう」と伝えた。
「笑顔が天使……」
「え?」
「ごほん……鎧よりずっといいです。これをもらいましょう」
「お金、私が出すよ」
「リリ様、お金持ってるんですか?」
「もちろん。実は大金持ちなの。ほら」
アイテムボックスからお金を引き出した。
ゲーム内で実体は見れないけれど、現実世界では簡単だ。
「あの……これは、どこのお金でしょうか?」
店員が困惑していた。何かの紋章が描かれた金貨をしげしげと眺め、店の奥に持っていって戻ってきた。
「これが、この国の金貨です……お客様の金貨は随分大きいのですが、当店ではちょっとこれでは……」
「あれ?」
そんな馬鹿な。
私のアイテムボックスのお金は降臨書にしか使えないダメなお金だったなんて。
かなりショックだ。
アテルが優しい瞳で「大丈夫です」と肩をぽんと叩いた。
「私が払います。これで――」
彼女が取り出したのは銀色の板だった。
店員が恐れおののいたように顔を強張らせた。
「一回払で」
「か、かしこまりました」
アテルは鼻高々に支払いを終え、私の手を引いて店を出た。
ずっと隣で見ていたウィミュが疑問を口にする。
「今の、なに? お金?」
「朱天城に仕える者に与えられるカードで、まあ、お金みたいなものです。逃げるときにこれだけは持ってきました。この国では支払いに困りませんし、もめごとのときに役に立ちます。使えない店もありますが。私の切り札です」
「すごーい! じゃあ、アテルって大金持ちなんだ!」
「そんなに優遇されてるのね。意外と……朱天城って悪くない待遇だったり」
「リリ様……まさか、よからぬことを考えていませんか? 言っておきますが、あそこはモンスターの巣窟ですよ」
「ま、まさか! お金の心配をしなくていいのはうらやましいってだけ」
こんなに近くにブラックカードを持っている者がいるとは。
どうにかして私も手にいれたい。
ただ、もしクレジットカードのようなものならば、気になることがある。
「ねえ、それって使って大丈夫なの?」
「もちろんです。私がもらったのですから」
「いえ、そうじゃなくて、使ったら……アテルの居場所がばれない?」
「は?」
アテルが目を点にする。
嫌な予感がした。
「アテル、ちょっとカード貸して」
何も疑問を抱いていないアテルからさっとカードを受け取って裏を見た。
番号111。見事なぞろ目だ。
でも番号があるということは――
「アテル、これ返すけど、たぶん、朱天城に使った店の履歴が知られてるよ」
「え? そ、そうなんですか?」
「うん。アテルとこの111番は紐づいてるはずだから。今日、さっきの店でアテルが使ったってことはバレたと思っていい」
「それはまずいです! 私が戻ってきたことが筒抜けに!?」
「プルルスがもうあなたに興味を抱いていないことを祈りましょう。とりあえず――さっさとカステラに向かいましょう」
「それでも行くんですか? カステラに? ばれたってことですよね?」
「隠し事はいずればれるの。とりあえず離れましょう。さあ!」
***
この胸の鼓動はなんだろう。
どくん、どくんと一際強く高鳴っている。ヴァンパイアにもこんな感情があったことを喜びたい。
「リリ、顔が変」
「よーく見といて。ウィミュもすぐ同じ顔になるから」
「ええー、私そんなにだらしのない顔しないよ」
ウィミュが嫌そうな顔をして距離を取った。でも、絶対に彼女も同じ顔をする。
もう我慢できない。
近づくたびに漂ってくる甘い香りが数日ぶりの脳をダメにする。
黄色いスポンジのようにふわふわで、焼き色のザラメがついた両面。
あまーくほろりと溶ける口当たり。
ビバ、カステラ!
「やった! やっぱりあった! JRPGばんざい!」
「JRPG? リリ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫。とりあえず、さっさと店に入りましょう。カステラが呼んでる」
「あの、リリ様、一つだけ、言わせてもらっても良いですか?」
アテルが突然かしこまった。
怪訝に思った私は「なに?」と振り向いた。
「大変、言いにくいのですが……」
「……悪かったわ。ちょっと壊れかけていたかも。言いたいことはわかる……もう少しおしとやかに振る舞わないとダメね」
「いえ……そういうことでないのです。もっと根本的な話で」
「どうしたの?」
「お金がありません」
「…………え? ブ、ブラックカードは?」
「ブラックカード? あのカードは食品や酒場で使えません」
「どうして!?」
「朱天城のモンスターは人間の食べ物など食べないからです。彼らはMPを喰らい、ヴァンパイアは血を吸うだけです」
「ええっ!? じゃあ、カステラは?」
目の前で恰幅の良いおじさんが液卵を何かの型に流し込んでいる。
ここもガラス張りで調理過程が見えるように工夫しているのだ。焼き上がったカステラが数本、白く輝く棚に大切に並べられている。
この光景を前にして――
「今は、持ち合わせがありません」
「ほ、ほんとに!?」
「残念ながら、カステラはとても高価なのです……リリ様があまりに嬉しそうだったので、言い出せませんでした」
「そんなぁ……ぅぅぅ」
「リリ、元気出して。これあげるから。アテルと買ったの。三本が限界だったけどねー」
ウィミュが袋から串に刺さった赤いベリーの棒をさし出した。
いつの間に買ってあったのか。それは砂糖でコーティングされたベリーのお菓子――タングルと呼ばれるものだった。
口に含むと、とても甘い。
カステラじゃないけど、おいしい。
「アテルの分も一本あるからどうぞ」
「ありがとう、ウィミュ。リリ様……今はこれで我慢してください。眷属として恥ずかしい限りですが」
「全然、そんなことない」
私は夢中で砂糖で輝くベリーを舐めた。
ゆっくりと身体に染み渡る甘味と、二人の優しさ。そして、わがままを言った私のために少ないお金を使ってくれたという申し訳なさ。
「ありがとう二人とも! めっちゃ元気出た。私も自分のお金を稼いで、二人にカステラをおごる」
「はい、がんばりましょう」
「私、杖がほしい!」
私たちは勢いよく立ち上がった。
恰幅の良いおじさんが、店内から微笑ましそうにこちらを見ていた。
1
お気に入りに追加
463
あなたにおすすめの小説


ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる