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031アルメリーは知っている
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数秒の空白の時間。
ゲインと戦っていたリーダーの男が鋭い舌打ちを鳴らした。
その音を合図に、アルメリーと戦っていたものたちが軽いバックステップを踏んで距離をとっていく。
「あいつ……」
怨嗟じみた低いうなり声。
リーダーの男はナイヤをひと睨みし、諦めた様子ですばやく踵を返した。
戦いが互角である以上、魔術師の少年がいなければ共倒れになると考えただろう。
賊がとんっと一気に距離を取る。
ゲインは厳しい顔をしたままそれを見送った。
「追わないの?」
「お嬢様が無事なら問題ない」
アルメリーの質問にそう答えたゲインは、それに、と続ける。
「こっちの護衛も犠牲者が出た。先に街に入るのが優先だ。本当に助かった。お嬢様に代わって礼を。ありがとう」
ゲインが深々と頭を下げた。
そのまま俺の方にも近づいてきて、同じように頭を下げる。
「君にも礼を言いたい。お嬢様が助かったのは君のおかげだ」
「あ、ありがとう!」
ナイヤも急いで隣に並び、革袋を担いだまま綺麗な姿勢でお礼を言う。
あまり感謝されることに慣れていない俺は二人の温かい視線にむず痒さを感じつつ、「とんでもない」と短く言った。
「それより、ここから早く移動した方がいいですよね?」
「ああ、できるだけ街に急ぎたい。それと、良ければ力を貸してほしい」
ゲインがアルメリーを見つめて言う。
「もちろん。私たちも街に向かう途中だし」
「助かる。俺はゲイン。そしてそちらの方が――」
「ナイヤよ」
茶髪の少女がにこりと微笑んだ。
アルメリーも微笑み返す。
「私はアルメリー。そっちがナギ」
「よろしく頼む」
ゲインの表情が緩み、ふと気づいたように俺に視線が向いた。
「ナギ……顔色が悪いが……大丈夫か?」
「ええ……何とか」
「お嬢様のお体はどうですか?」
「私は大丈夫。ゲインのケガは?」
「この程度、問題ありません。急ぐとしましょう。この山の東から下りるルートが最短ですが、念の為、南から行きます。さあ、お嬢様。馬車もないので私の背に」
「うん」
ゲインがナイヤに手を差し伸べた。
その手を掴むと、彼女はゲインに引っ張られて軽々と背負われる。
「揺れますがご容赦を」
そう告げたゲインは颯爽と高い段差を軽快に飛び降り始めた。
まるで高山地帯を飛び回る鹿のように身軽だ。
改めて、この世界の人間はすごいなぁと感心していると、隣にアルメリーがやってきた。
彼女は俺の前にしゃがみ、背中を差し出した。
「……何してるんですか?」
「乗って。しんどいでしょ?」
「大丈夫です」
「ガダンの技、使ったのに?」
アルメリーが首を回す。
切れ長の青い瞳が探るようにジトっと細まった。
どうもバレバレらしい。
「……気づいてたんですか?」
「ナギ、前はあの技使ったあと寝込んだじゃない」
「まあ、今回は前よりなぜかマシなんですけどね……」
「はい、乗って。ゲイン早いから」
「……よろしくお願いします」
お言葉に甘えてアルメリーの背中に体を預けるようにして乗りかかる。
細い体とは裏腹に、背中には力強さを感じた。
リュックは体の前に移動している。
「アルメリーはケガはないんですか?」
「全然。ほんとはもっと押せたけど、あいつら何か隠してそうだったから手加減して様子見てたの」
「俺を一人残した理由がそれですか?」
「うん、私の思った通りになった。ナギが活躍して嬉しかった」
「……見事に一回捕まりましたけどね」
「ちゃんとナイヤも助けたから大丈夫! さ、行くよっ!」
アルメリーがくすりと笑みを零して、一際高くジャンプした。
ゲインの倍くらい飛んだ気がする。
強烈な浮遊感を味わいながら、俺はとても楽しかった。
ゲインと戦っていたリーダーの男が鋭い舌打ちを鳴らした。
その音を合図に、アルメリーと戦っていたものたちが軽いバックステップを踏んで距離をとっていく。
「あいつ……」
怨嗟じみた低いうなり声。
リーダーの男はナイヤをひと睨みし、諦めた様子ですばやく踵を返した。
戦いが互角である以上、魔術師の少年がいなければ共倒れになると考えただろう。
賊がとんっと一気に距離を取る。
ゲインは厳しい顔をしたままそれを見送った。
「追わないの?」
「お嬢様が無事なら問題ない」
アルメリーの質問にそう答えたゲインは、それに、と続ける。
「こっちの護衛も犠牲者が出た。先に街に入るのが優先だ。本当に助かった。お嬢様に代わって礼を。ありがとう」
ゲインが深々と頭を下げた。
そのまま俺の方にも近づいてきて、同じように頭を下げる。
「君にも礼を言いたい。お嬢様が助かったのは君のおかげだ」
「あ、ありがとう!」
ナイヤも急いで隣に並び、革袋を担いだまま綺麗な姿勢でお礼を言う。
あまり感謝されることに慣れていない俺は二人の温かい視線にむず痒さを感じつつ、「とんでもない」と短く言った。
「それより、ここから早く移動した方がいいですよね?」
「ああ、できるだけ街に急ぎたい。それと、良ければ力を貸してほしい」
ゲインがアルメリーを見つめて言う。
「もちろん。私たちも街に向かう途中だし」
「助かる。俺はゲイン。そしてそちらの方が――」
「ナイヤよ」
茶髪の少女がにこりと微笑んだ。
アルメリーも微笑み返す。
「私はアルメリー。そっちがナギ」
「よろしく頼む」
ゲインの表情が緩み、ふと気づいたように俺に視線が向いた。
「ナギ……顔色が悪いが……大丈夫か?」
「ええ……何とか」
「お嬢様のお体はどうですか?」
「私は大丈夫。ゲインのケガは?」
「この程度、問題ありません。急ぐとしましょう。この山の東から下りるルートが最短ですが、念の為、南から行きます。さあ、お嬢様。馬車もないので私の背に」
「うん」
ゲインがナイヤに手を差し伸べた。
その手を掴むと、彼女はゲインに引っ張られて軽々と背負われる。
「揺れますがご容赦を」
そう告げたゲインは颯爽と高い段差を軽快に飛び降り始めた。
まるで高山地帯を飛び回る鹿のように身軽だ。
改めて、この世界の人間はすごいなぁと感心していると、隣にアルメリーがやってきた。
彼女は俺の前にしゃがみ、背中を差し出した。
「……何してるんですか?」
「乗って。しんどいでしょ?」
「大丈夫です」
「ガダンの技、使ったのに?」
アルメリーが首を回す。
切れ長の青い瞳が探るようにジトっと細まった。
どうもバレバレらしい。
「……気づいてたんですか?」
「ナギ、前はあの技使ったあと寝込んだじゃない」
「まあ、今回は前よりなぜかマシなんですけどね……」
「はい、乗って。ゲイン早いから」
「……よろしくお願いします」
お言葉に甘えてアルメリーの背中に体を預けるようにして乗りかかる。
細い体とは裏腹に、背中には力強さを感じた。
リュックは体の前に移動している。
「アルメリーはケガはないんですか?」
「全然。ほんとはもっと押せたけど、あいつら何か隠してそうだったから手加減して様子見てたの」
「俺を一人残した理由がそれですか?」
「うん、私の思った通りになった。ナギが活躍して嬉しかった」
「……見事に一回捕まりましたけどね」
「ちゃんとナイヤも助けたから大丈夫! さ、行くよっ!」
アルメリーがくすりと笑みを零して、一際高くジャンプした。
ゲインの倍くらい飛んだ気がする。
強烈な浮遊感を味わいながら、俺はとても楽しかった。
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