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027不思議な笛
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翌朝はかなり早かった。
日の出から一気にまぶしくなって勝手に目が覚めたのだ。
旅に出ると早寝早起きになるね。
「おはよー」
着替えたアルメリーが上から覗き込んでくる。
髪が湿っているので水浴びでもしたのだろうか。
「で、こいつは……まだ寝てるし」
白雪を指で掴み上げる。
手のひらより小さいボールサイズだ。
黒いゴマ粒の瞳がくりっと動いた。一応、起きたらしい。
「……スキルをオフにすると消えるかな?」
正直なところ、持ち運びに困る。
落としたら転がっていきそうだし。
《白い箱》スキルを切れば、消えると思うのだが――
「せっかく出てきてお魚食べられたのに、かわいそう……」
アルメリーが朝食の木の実を食べながら、しゅんとした顔をしている。
そんな顔をされたら躊躇するじゃないか。
しかも、白雪の目もうるうるしている――気がする。
まるで生き物……
いや、こいつはスキル。スキルなんだ。騙されるな。
「勝手に体にくっついてくれたらいいのに」
白雪の力は俺の《強感力》にとって大きい。できれば常にスキルをオンにしておきたい。
と、白雪が急にぶるぶると体を震わせ始めた。
左にくいっと捻り、右に、にょーんと伸びる。
何度か繰り返した白雪は細長くなり、俺の手首に巻きついた。
「ブレスレットみたい!」
アルメリーが喜ぶ中、俺は目を点にした。
こいつ、自力で変形したぞ。
箱要素がますます無くなった。
手首がひんやり冷たい。少し太い白い腕輪の完成だ。
黒い目がこっちを見ている。
わかってる。聞こえてるよ。
――アンシン。
「確かに安心だ……持ち運びの心配が無くなったもんな」
白雪の口がにんまり曲がった。
◆◆◆
俺たち二人は移動を開始した。
昨日より体が軽い。
二日目で旅に慣れたのだろうか?
それとも朝食の木の実パワーかな?
アルメリーが用意してくれた木の実とは別に、早速《強感力》を活かして金色のオーラを放つ木の実をいくつかゲットしたのだ。
食べ比べてみると、明らかに味が違った。
結論は、金色は数が少ない分、とても旨い。
香りが芳醇でほのかな甘みまである。
味付けがなくても十分食べられるレベルで、思わず追加の木の実を探しにいったほどだ。
昨日の魚もそうだった。
あれは食べ比べてないけれど、美味しかった。
せめて塩くらいは欲しいが……
「それでも《強感力》が便利すぎる」
人の感情が色で見えるだけの外れスキルと思ったけど、こと採集に関してはこれ以上ないくらい便利だ。
白雪の効果も合わさって、採集ハンターとして生きていけそうだ。
ただ――
「さあ、登ろう!」
俺の視線の先で大きなリュックを背負ったアルメリーが振り返る。
はつらつとした表情と、全身にみなぎる生気。素晴らしい体力だ。
そして、目の前にそびえ立つ山はあり得ないほど嶮しい。
「これ登れるかなぁ……」
思わず弱気が口に出る。
元の世界の山道を想像してはいけない。
どう見ても獣道だ。
だと言うのに、アルメリーは器用に木々の間を縫って山に入り始めた。
あなたはマタギか何かでしょうか。
うかうかしていると置いていかれそうだ。
今日中に山越えする予定らしいので、遅れるわけにはいかない。
「スキルが便利でも体力がね……」
独り言を漏らしつつも意を決してアルメリーの後に続く。
行きがけに「抱っこする?」という彼女の親切を丁重にお断りした以上、何としても頑張らなくては。
「ふぅっ……ふぅっ」
斜面は想像以上に急だ。
アルメリーは俺が登りやすいように飛び出た枝を伐採しながらどんどん先に登っていく。
時折、ちゃんと着いて来られてるかな、と言わんばかりの彼女の振り返る視線を感じつつ、息を切らせて何とかついていく。
途中、さすがに一度足を止めた。
アルメリーは斜面の上の方にいる。
ふと、手を置いた大木の幹に目が止まった。
「金色?」
全体が光っている大木は一度見た。
けれど、これは、幹の一部だけがぼうっと光っているのだ。
「変わった木だな」
その表面に触れた瞬間だった。
常時使用している《強感力》が何かに反応した。
指先から脊髄を走り抜ける電気信号のような不思議な感覚だった。
すると、木の幹が――裂けた。
音も無く、切れ目が縦に開くように静かに。
驚きで声が出ない。
しかも、中に何かがあった。
木彫りの縦笛だ。
手を伸ばして引っ張り出す。
「本当に笛だ……光ってる」
笛の中心だけがぼんやりと金色のオーラを放っている。今にも消えそうな弱い光。
「ナギっ! 大丈夫!?」
「あっ、大丈夫! すぐ行くから!」
斜面の上の方に立つアルメリーの声に大声で返事をしつつ、笛に口をつけた。
ピィっ――という微かな音が漏れた。
何かが中心に詰まっているような無理やり出したような音だった。
「……何も起こらない?」
首を傾げつつ、ズボンに挿して歩き出す。
しばらく歩くとアルメリーが少し開けた場所で待っていてくれた。
「大丈夫?」
「かなりしんどいけど何とか……えっ?」
「どうしたの?」
「なんか上にいます……」
アルメリーが俺に釣られて頭上を見上げた。
そこにはたくさんの丸い塊が浮いていた。
どれもこれも白い物体に透き通った羽が四枚生えている。
ふわりふわりと浮かぶそれはどれもが金色のオーラを放っている。
「なに、これ?」
アルメリーが絶句している。
彼女が知らないということはモンスターじゃないのか。
と、腕がぐんと引っ張られた。
ブレスレット形状だった白雪が急に動き出したのだ。
俺の腕からするりと離れた白雪が突如、元の形態に戻った。
と思ったら、ぶわっと音を立てて薄布のように広がり、空に浮かぶ謎の物体をすべて包み込んだ。
一網打尽だ。
「……ど、どうなってるの?」
その網の中に物体を呑み込んだ白雪が再び小さくなった。
もしゃもしゃと咀嚼するかのように体全体が動いている。
「げぷっ」
小さな音を鳴らすと、また俺の腕に巻きついた。
本当に一瞬の出来事だった。
日の出から一気にまぶしくなって勝手に目が覚めたのだ。
旅に出ると早寝早起きになるね。
「おはよー」
着替えたアルメリーが上から覗き込んでくる。
髪が湿っているので水浴びでもしたのだろうか。
「で、こいつは……まだ寝てるし」
白雪を指で掴み上げる。
手のひらより小さいボールサイズだ。
黒いゴマ粒の瞳がくりっと動いた。一応、起きたらしい。
「……スキルをオフにすると消えるかな?」
正直なところ、持ち運びに困る。
落としたら転がっていきそうだし。
《白い箱》スキルを切れば、消えると思うのだが――
「せっかく出てきてお魚食べられたのに、かわいそう……」
アルメリーが朝食の木の実を食べながら、しゅんとした顔をしている。
そんな顔をされたら躊躇するじゃないか。
しかも、白雪の目もうるうるしている――気がする。
まるで生き物……
いや、こいつはスキル。スキルなんだ。騙されるな。
「勝手に体にくっついてくれたらいいのに」
白雪の力は俺の《強感力》にとって大きい。できれば常にスキルをオンにしておきたい。
と、白雪が急にぶるぶると体を震わせ始めた。
左にくいっと捻り、右に、にょーんと伸びる。
何度か繰り返した白雪は細長くなり、俺の手首に巻きついた。
「ブレスレットみたい!」
アルメリーが喜ぶ中、俺は目を点にした。
こいつ、自力で変形したぞ。
箱要素がますます無くなった。
手首がひんやり冷たい。少し太い白い腕輪の完成だ。
黒い目がこっちを見ている。
わかってる。聞こえてるよ。
――アンシン。
「確かに安心だ……持ち運びの心配が無くなったもんな」
白雪の口がにんまり曲がった。
◆◆◆
俺たち二人は移動を開始した。
昨日より体が軽い。
二日目で旅に慣れたのだろうか?
それとも朝食の木の実パワーかな?
アルメリーが用意してくれた木の実とは別に、早速《強感力》を活かして金色のオーラを放つ木の実をいくつかゲットしたのだ。
食べ比べてみると、明らかに味が違った。
結論は、金色は数が少ない分、とても旨い。
香りが芳醇でほのかな甘みまである。
味付けがなくても十分食べられるレベルで、思わず追加の木の実を探しにいったほどだ。
昨日の魚もそうだった。
あれは食べ比べてないけれど、美味しかった。
せめて塩くらいは欲しいが……
「それでも《強感力》が便利すぎる」
人の感情が色で見えるだけの外れスキルと思ったけど、こと採集に関してはこれ以上ないくらい便利だ。
白雪の効果も合わさって、採集ハンターとして生きていけそうだ。
ただ――
「さあ、登ろう!」
俺の視線の先で大きなリュックを背負ったアルメリーが振り返る。
はつらつとした表情と、全身にみなぎる生気。素晴らしい体力だ。
そして、目の前にそびえ立つ山はあり得ないほど嶮しい。
「これ登れるかなぁ……」
思わず弱気が口に出る。
元の世界の山道を想像してはいけない。
どう見ても獣道だ。
だと言うのに、アルメリーは器用に木々の間を縫って山に入り始めた。
あなたはマタギか何かでしょうか。
うかうかしていると置いていかれそうだ。
今日中に山越えする予定らしいので、遅れるわけにはいかない。
「スキルが便利でも体力がね……」
独り言を漏らしつつも意を決してアルメリーの後に続く。
行きがけに「抱っこする?」という彼女の親切を丁重にお断りした以上、何としても頑張らなくては。
「ふぅっ……ふぅっ」
斜面は想像以上に急だ。
アルメリーは俺が登りやすいように飛び出た枝を伐採しながらどんどん先に登っていく。
時折、ちゃんと着いて来られてるかな、と言わんばかりの彼女の振り返る視線を感じつつ、息を切らせて何とかついていく。
途中、さすがに一度足を止めた。
アルメリーは斜面の上の方にいる。
ふと、手を置いた大木の幹に目が止まった。
「金色?」
全体が光っている大木は一度見た。
けれど、これは、幹の一部だけがぼうっと光っているのだ。
「変わった木だな」
その表面に触れた瞬間だった。
常時使用している《強感力》が何かに反応した。
指先から脊髄を走り抜ける電気信号のような不思議な感覚だった。
すると、木の幹が――裂けた。
音も無く、切れ目が縦に開くように静かに。
驚きで声が出ない。
しかも、中に何かがあった。
木彫りの縦笛だ。
手を伸ばして引っ張り出す。
「本当に笛だ……光ってる」
笛の中心だけがぼんやりと金色のオーラを放っている。今にも消えそうな弱い光。
「ナギっ! 大丈夫!?」
「あっ、大丈夫! すぐ行くから!」
斜面の上の方に立つアルメリーの声に大声で返事をしつつ、笛に口をつけた。
ピィっ――という微かな音が漏れた。
何かが中心に詰まっているような無理やり出したような音だった。
「……何も起こらない?」
首を傾げつつ、ズボンに挿して歩き出す。
しばらく歩くとアルメリーが少し開けた場所で待っていてくれた。
「大丈夫?」
「かなりしんどいけど何とか……えっ?」
「どうしたの?」
「なんか上にいます……」
アルメリーが俺に釣られて頭上を見上げた。
そこにはたくさんの丸い塊が浮いていた。
どれもこれも白い物体に透き通った羽が四枚生えている。
ふわりふわりと浮かぶそれはどれもが金色のオーラを放っている。
「なに、これ?」
アルメリーが絶句している。
彼女が知らないということはモンスターじゃないのか。
と、腕がぐんと引っ張られた。
ブレスレット形状だった白雪が急に動き出したのだ。
俺の腕からするりと離れた白雪が突如、元の形態に戻った。
と思ったら、ぶわっと音を立てて薄布のように広がり、空に浮かぶ謎の物体をすべて包み込んだ。
一網打尽だ。
「……ど、どうなってるの?」
その網の中に物体を呑み込んだ白雪が再び小さくなった。
もしゃもしゃと咀嚼するかのように体全体が動いている。
「げぷっ」
小さな音を鳴らすと、また俺の腕に巻きついた。
本当に一瞬の出来事だった。
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