上 下
26 / 43

026神は大事なことを説明しない

しおりを挟む
 待て。落ち着け。
 よく見ると、白いオーラを放っている。
 俺が見てきた中で、白いオーラを放っていたのは創造神セレリールのみ。
 普通の生物では見たことがない。
 まさか――

「《強感力》」

 すべて丸裸にするつもりで、謎の物体に対して至近距離で全力のスキルを使う。

 やっぱりだ。
 俺と何かが繋がっている。
 というか、俺のスキルにいつの間にか、《白い箱(ホワイトキューブ)》という文字が増えている。

 箱じゃなくて大福だけど
 しかも魚食べてますけど。

「ナギ、ナギ! この子、目がある!」
「へ?」

 前に回って、大福と高さを合わせるように地面に頭をつけて覗き込む。

「ほ、本当だ」

 ゴマ粒のような黒い瞳が二つ。
 正面には、横に大きく開く口まであるじゃないか。魚の尻尾がその中に消えている。

「なんか、ちょっとカワイイ」
「え? そう? どう見てもキモイ大福にしか……」

 俺の話をよそに、アルメリーが食べてる謎物体の背中?をさっそく指で押している。

「ぷにぷにする!」
「いや、そこ驚くところじゃなくて……危険な生物だったらまずいってところを気にすべきで……俺のスキルだから大丈夫なのか?」

 《強感力》の力をさらに上げる。
 いつもは広範囲に使うものを一点集中させる。
 じっと見つめていると名前が見えてきた。
 新しい発見だ。

 ――見続けると名前が見える!

「《白い箱(ホワイトキューブ)》か……そのままだけど……なんで魚を食べられる? 生きてるのか?」

 二人が見つめる先で――《白い箱》は、げふっ、小さなゲップを吐き出した。
 まるで人間がするものと同じだ。

「カワイイ……」
「え、キモイけど……」

 くりっとした二つの目が俺の方に向いた。
 言葉では無く、何かを語りかけている?

 きょー、んり?
 きょーかんり?
 《強感力》か!

「あっ――」

 その瞬間、背筋が震えた。
 俺は今、《強感力》を切れ目無くずっと使用している。
 しかも、広範囲の薬草を調査するときのような集中力を維持したまま。
 慌てて周囲を見回した。
 目の痛みも頭痛も起こらない。

「まさか、この《白い箱》の効果って……」

 セレリールの言葉が頭に響く。

 ――あなたの力になるわ。

 謎の物体に視線を下ろす。
 それは食べ終えて満足したのか、ころんと横向きに転がり、アルメリーに白い腹をぽすぽすとつつかれていた。


 ◆◆◆


 魚の串焼きも食べたことも、野外で寝たのも初めてだった。
 コテージはあってもテントは未経験。
 異世界なので、てっきり見張りがいると思っていたけど、アルメリーは「いらないよ」とあっさり。

「ここら辺、強いモンスターいないし、ゴーストくらいだもん」

 ゴーストって黒い靄みたいな、前にアルメリーが倒していたやつだ。

「たき火してたら出ないから安心」
「ほんとに?」
「うん。それでゴーストに襲われたことないし」

 アルメリーはさらっと言ってさっさと荷物を枕にして横になった。
 俺が心配しすぎか?

「明日は街まで行けるといいね」
「そうですね」

 何とかしてアルメリーについていけるだけの体力が欲しい。

 ちなみに――
 《白い箱(ホワイトキューブ)》はゴマ粒のような瞳を細い線のようにして、ひっくり返っている。
 呼びにくいので名前も決めた。

 《白雪》――無駄にカッコイイ名前だ。雪見だいふくでは捻りがないのでがんばった。
 ちなみに、白雪は魚を食べてからうんともすんとも言わないので、完全に放置している。

「……これのことは明日考えるか」

 異世界の日没は早い。
 電気がないので、日が落ちると一瞬で真っ暗になってしまう。
 ガダンさんとミコトさんのアンダン亭が早くも懐かしい。
 俺もアルメリーと並んで横になる。
 彼女は寝つきもすごい。
 可愛らしい寝顔とともに、もう寝息をたてている。

「ほんとすごいよな……」

 アルメリーは小さな頃から旅をしてたのだろうか。
 これくらいタフじゃないと一人旅なんてできないだろう。
 見つめているうちに、妙な安心感が広がってきて、俺は眠りに落ちた。
しおりを挟む

処理中です...