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011見間違いだと言ってほしかった

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「部屋まで借りちゃっていいんですか?」
「もちろん。自分の家だと思ってくつろいで」

 ミコトさんは当然とばかりに俺とアルメリーさんを部屋に案内してくれた。
 2階のテラス席からさらに上階は個室が並んでいた。
 そのうちの一室を個別に使って良いらしい。ホテルかここは。

「余り者同士、これからも仲良くしましょう」

 にっこり笑うミコトさんは当然のように言う。
 余り者――それはたぶん城から一文無しで放り出された者ってことだろう。
 この人も経験者なんだろうな。
本当にありがたい。

「今日はゆっくり休みなさい。あっ、部屋は離れてるけど、二人で盛り上がりすぎて大きな声を出さないようにね」
「出しませんよ。だいたい部屋が別です」
「あら……アルメリーちゃんのパワーなら、壁くらい無いようなものよ?」

 蠱惑的な笑顔。
 何度もこういう冗談を交えてくるのは彼女流の打ち解け方なのかもしれない。

「じゃあ、アルメリーちゃんもまた明日ね」
「は、はい!」

 アルメリーさんと別れて部屋に入る。
 質素だけど清潔感のある部屋だった。
ビジネスホテルをイメージして作っているような雰囲気で、この建物がどれだけの苦労のうえに建っているかわからない。
 ギルドから借りた冒険者装備を外し、楽な格好になる。
 白いシーツが敷かれたベッドにダイブすると、途端に全身に疲労感が押し寄せた。
 足は棒のようで、体の中心は重い。
 何より――目の奥と頭がずきずきと痛い。体も得体の知れない浮遊感に苛まれている。

「……なんでこんなことになったんだろ」

 転移前の生活はよく思い出せない。転移した理由も覚えていない。
 まあ思い出したとしても戻れるとは限らない。
 ごろりと仰向けに体勢を変えて、ふと壁際の棚に顔を向けた。

「え……?」

 拳大のごつごつした宝石のような石があった。
 窓からさしこむ月明かりをにぶく反射するそれは、ちょっと高価な宝石のような雰囲気だった。
 けれど――そのうえに、何かが座っている。
 シックな白のドレスを着た長い紫髪の人形?
 いや、待て待て。
 人形が足をパタパタと動かしながら、こちらを見下ろしている。
 しかも、純白のオーラをまとっている。

「何これ?」

 意識が一気に覚醒した。
 体を起こし、石に近づこうとした。だが、その時にはもういない。
 部屋の中をぐるりと探索する。

 ――やっぱり、いない。

 その後、十分ほど置物や本棚の中を探し回ったが見つけられなかった。

「見間違い……か?」

 その一言で疲れがどっと押し寄せると、俺は睡魔に襲われ、泥のように眠った。
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