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025 女騎士は救われる
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「この度は命を助けていただき感謝致します!」
女性は馬から飛び降り、膝をついた。軽鎧を身に着け、腰には立派な剣を下げている。
馬の扱いといい、身なりや対応といい、明らかに身分が隠しきれていないが、あえて指摘することもないだろう。
彼女はユウと名乗った。
簡単な状況説明によると、彼女は主人と共に用事を済ませて国に帰る途中でさっきの化け物に襲われたらしい。
森の中から突然現れた見たこともない化け物に護衛の一人が吹き飛ばされ、瞬く間に20人いた護衛のほとんどが殺されたらしい。護衛隊長は歩けない主人を何とか森に隠し、国に助けを求める為にユウを伝令に出したらしい。
ユウはまくしたてるように言うと、息を切らせつつ深々と腰を折った。
「この瞬間も主人に命の危険が迫っているに違いありません。突然で不躾だとは重々わかっておりますが、どうか主人を助けていただけないでしょうか? お二人の力さえ借りられれば、主人の保護は確実です。何卒……もちろん見合った礼は約束致します」
ユウは心痛を滲ませながら懇願した。
「お兄ちゃん……」
ユーリアが同情したように見つめながらそっとロアに視線を向けた。
もちろんロアとしても助けることはやぶさかではない。相手が相手であるし、自分たちも旅を始めて早々にカヤコとエイミーの二人に助けてもらった。
「……ご協力します」
「ほんとですか!?」
ユウが大きく目を見張った。しかし、すぐに表情を引き締め、
「ありがとうございます!」
「急ぎましょう。主人の方はどちらに?」
「こちらです。馬にどうぞ。案内致します!」
ユウは言い終わるが速いか馬に飛び乗った。馬乗で手綱を引き、ロアとユーリアに向けた手を伸ばしている。
ロアは「大丈夫です」と伝えてからユーリアの手を引いて馬の背に乗った。
その身のこなしに驚いたユウだが、先程の化け物との戦いを見ていたために、当然ですね、納得した。
「三人も乗って馬は大丈夫ですか?」
「お二人とも軽いのでご安心を。これくらいなら」
ユウはそう言いながら馬を駆らせた。
初めての乗馬を経験したユーリアは、一人きゃあきゃあ叫びながらロアの腰に必死にしがみついてた。
化け物と戦う方がよっぽど怖いのにな、とロアは苦笑いを浮かべた。
◆
馬を止めて下馬した三人は、森の中に入った。
先行するユウが声を潜めて言う。
「我々が化け物に襲われたのは、このちょうど反対側にある街道でした。最初は護衛が一気に数を減らしたせいで化け物の力ばかりに目を引かれてしまったのですが、あとから考えると奴らは少ない人数でありながら、我々を囲んで崖のある方へ追い込むようにして襲っていたのです」
ユウは苦渋を滲ませながら続ける。
「奴らは集団戦を理解していました。けれど、気づいたときには護衛は数えるほどしか残っておらず、主人を逃がすだけで精一杯でした……だから隠し――」
「静かに」
ユウの言葉に被せるように、ロアが静止した。素早く振り返ったユウに向けて、ロアは唇の前で指を立てて沈黙を促す。そして身振りでユウとユーリアをしゃがませる。
ユウがやや困惑しながら顔を寄せた。
「主人の居場所はもう少し先ですが……」
「前方に一体います。動かないので分かりづらいですが、さっきの化け物と同じ気配だ」
ロアは視線をピタリと固定する。
その先を目で追ったユウが「あっ」と小さな悲鳴を上げた。それは樹上にいたのだ。
そして、その隣にまるで洗濯物を干すように一人の人間がぶら下げられている。
化け物はグルリグルリと首を回して周囲を窺っている。探し物はおそらくユウの主人だ。
「あんな……ひどい……」
「ですが、これでユウさんの主人は生きている可能性が高くなりました。もし見つけているなら化け物は今も探していないはず。……敵が何体いたか覚えていますか?」
「た、確か……私を追ってきたものも含めて7体です」
「なるほど、では残り4体か」
ロアは納得したように頷くと、静かに立ち上がった。
ユウが慌ててその腕を掴む。
「まさか一人で行かれるんですか!? この森ですよ? 化け物がどこから出てくるかわかりません! 危険です!」
「居場所は全て捕捉しています。全員近い位置にいます。好都合です」
「……え?」
「さっきの戦いで相手の力量も把握しましたので大丈夫です。では行ってきます」
「ちょっ、ロア様!? 私でも陽動くらいなら――」
「大丈夫だよ、お兄ちゃんに任せて」
すがるように止めたユウを背後からユーリアが引っ張った。その表情は小さな子供ながら、まったく心配していないのが見て取れる。
「し、しかし……」
「お兄ちゃん、怒ってるし一人で戦わせてあげて」
「ロア様が怒っている?」
「たぶんだけど……」
ユーリアは曖昧に笑ってから、急に気配が薄くなったロアの背中を見つめる。
ロアは森の中を散歩するように歩いて化け物に近づいていく。しかし目と鼻の先に来ても化け物に目立った動きは見られない。気配どころか足音もない移動術だ。
同じ墓園の英霊たちに鍛えてもらったユーリアだが、ロアの仙気術のレベルは彼女の比ではない。
(お兄ちゃん……無理しないで……)
ユーリアは祈るような気持ちで見つめた。
女性は馬から飛び降り、膝をついた。軽鎧を身に着け、腰には立派な剣を下げている。
馬の扱いといい、身なりや対応といい、明らかに身分が隠しきれていないが、あえて指摘することもないだろう。
彼女はユウと名乗った。
簡単な状況説明によると、彼女は主人と共に用事を済ませて国に帰る途中でさっきの化け物に襲われたらしい。
森の中から突然現れた見たこともない化け物に護衛の一人が吹き飛ばされ、瞬く間に20人いた護衛のほとんどが殺されたらしい。護衛隊長は歩けない主人を何とか森に隠し、国に助けを求める為にユウを伝令に出したらしい。
ユウはまくしたてるように言うと、息を切らせつつ深々と腰を折った。
「この瞬間も主人に命の危険が迫っているに違いありません。突然で不躾だとは重々わかっておりますが、どうか主人を助けていただけないでしょうか? お二人の力さえ借りられれば、主人の保護は確実です。何卒……もちろん見合った礼は約束致します」
ユウは心痛を滲ませながら懇願した。
「お兄ちゃん……」
ユーリアが同情したように見つめながらそっとロアに視線を向けた。
もちろんロアとしても助けることはやぶさかではない。相手が相手であるし、自分たちも旅を始めて早々にカヤコとエイミーの二人に助けてもらった。
「……ご協力します」
「ほんとですか!?」
ユウが大きく目を見張った。しかし、すぐに表情を引き締め、
「ありがとうございます!」
「急ぎましょう。主人の方はどちらに?」
「こちらです。馬にどうぞ。案内致します!」
ユウは言い終わるが速いか馬に飛び乗った。馬乗で手綱を引き、ロアとユーリアに向けた手を伸ばしている。
ロアは「大丈夫です」と伝えてからユーリアの手を引いて馬の背に乗った。
その身のこなしに驚いたユウだが、先程の化け物との戦いを見ていたために、当然ですね、納得した。
「三人も乗って馬は大丈夫ですか?」
「お二人とも軽いのでご安心を。これくらいなら」
ユウはそう言いながら馬を駆らせた。
初めての乗馬を経験したユーリアは、一人きゃあきゃあ叫びながらロアの腰に必死にしがみついてた。
化け物と戦う方がよっぽど怖いのにな、とロアは苦笑いを浮かべた。
◆
馬を止めて下馬した三人は、森の中に入った。
先行するユウが声を潜めて言う。
「我々が化け物に襲われたのは、このちょうど反対側にある街道でした。最初は護衛が一気に数を減らしたせいで化け物の力ばかりに目を引かれてしまったのですが、あとから考えると奴らは少ない人数でありながら、我々を囲んで崖のある方へ追い込むようにして襲っていたのです」
ユウは苦渋を滲ませながら続ける。
「奴らは集団戦を理解していました。けれど、気づいたときには護衛は数えるほどしか残っておらず、主人を逃がすだけで精一杯でした……だから隠し――」
「静かに」
ユウの言葉に被せるように、ロアが静止した。素早く振り返ったユウに向けて、ロアは唇の前で指を立てて沈黙を促す。そして身振りでユウとユーリアをしゃがませる。
ユウがやや困惑しながら顔を寄せた。
「主人の居場所はもう少し先ですが……」
「前方に一体います。動かないので分かりづらいですが、さっきの化け物と同じ気配だ」
ロアは視線をピタリと固定する。
その先を目で追ったユウが「あっ」と小さな悲鳴を上げた。それは樹上にいたのだ。
そして、その隣にまるで洗濯物を干すように一人の人間がぶら下げられている。
化け物はグルリグルリと首を回して周囲を窺っている。探し物はおそらくユウの主人だ。
「あんな……ひどい……」
「ですが、これでユウさんの主人は生きている可能性が高くなりました。もし見つけているなら化け物は今も探していないはず。……敵が何体いたか覚えていますか?」
「た、確か……私を追ってきたものも含めて7体です」
「なるほど、では残り4体か」
ロアは納得したように頷くと、静かに立ち上がった。
ユウが慌ててその腕を掴む。
「まさか一人で行かれるんですか!? この森ですよ? 化け物がどこから出てくるかわかりません! 危険です!」
「居場所は全て捕捉しています。全員近い位置にいます。好都合です」
「……え?」
「さっきの戦いで相手の力量も把握しましたので大丈夫です。では行ってきます」
「ちょっ、ロア様!? 私でも陽動くらいなら――」
「大丈夫だよ、お兄ちゃんに任せて」
すがるように止めたユウを背後からユーリアが引っ張った。その表情は小さな子供ながら、まったく心配していないのが見て取れる。
「し、しかし……」
「お兄ちゃん、怒ってるし一人で戦わせてあげて」
「ロア様が怒っている?」
「たぶんだけど……」
ユーリアは曖昧に笑ってから、急に気配が薄くなったロアの背中を見つめる。
ロアは森の中を散歩するように歩いて化け物に近づいていく。しかし目と鼻の先に来ても化け物に目立った動きは見られない。気配どころか足音もない移動術だ。
同じ墓園の英霊たちに鍛えてもらったユーリアだが、ロアの仙気術のレベルは彼女の比ではない。
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