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013 鍛錬の理由

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 楽しい食事が終わって1時間ほど経過しただろうか。
 一通り片付けが終わったころを見計らったように、エイミーが立ち上がった。
 さっと上着を羽織り「お母さん、私、行ってくるから」とカヤコの返事を待たずに小屋の外に出かけてしまう。
 とっくに日が暮れて夜だというのにカヤコが心配した素振りは見えない。

「あの、エイミーは外に出て大丈夫なのですか? 夜ですけど……」

 心配したロアは扉の外に視線を向けた。

「ええ……あの子はああ見えて私なんかよりずっと強いから。二人で旅をできるのもあの子のおかげなのよ」

 カヤコは洗い終えた皿を拭きつつ、寂しそうに笑った。そして、ロアの隣で驚いているユーリアにも優しい瞳を向けて口を開いた。

「失礼かもしれないけれど、お二人のご両親は?」
「俺はほとんど親の記憶がありません。ユーリアは――」
「私も捨て子だから」

 ロアの言葉を引き継ぐようにユーリアが言った。もう親の思い出は無いものとしていくつもりらしい。もちろんロアはそれを尊重する。

「あら、二人はじゃあ……兄妹ってわけじゃないのね?」
「血は繋がっていません。でも、本当の妹のように思っています」

 はっきり口にしたロアの横顔を、ユーリアは申し訳無さそうに、でもとても幸せそうに見つめた。

「私も……お兄ちゃんと一緒。お兄ちゃんはほんとのお兄ちゃんみたいに思ってる」
「……そう。何だか羨ましい」
「羨ましい?」
「エイミーには兄弟がいないから。あなたたちみたいな兄妹がいたら、もう少し子供らしかったのかなって思うときがあるわ。あの子は、夫が亡くなってからずっと訓練ばかりだから」

 カヤコは昔を思い出すように視線を虚空に投げた。

「エイミーはね……夫の強い力を受け継いでいるの」
「お父様の?」
「若い頃、夫は国の魔法隊に所属していたんだけど怪我を負って引退せざるを得なくなってね。優秀だって言われてたから最初はすごく沈んでいたんだけど、エイミーが産まれてから人が変わったように喜んでね」

 やるせなさそうにため息を吐いたカヤコが「でも」と続けた。

「この子には俺と同じ才能がある――って信じてね……毎日エイミーにべったり張り付いて戦い方ばかり教えたの」
「そんなことが……」
「この小屋の近くに小さな滝があるの。夫はいつもエイミーをそこに連れていって訓練をしていたわ。俺と同じことができたらお前は一人前だって認めてやる、って何度も繰り返してね。エイミーはその約束を果たそうとがんばってる」
「……でも、お父上は亡くなったのでは?」
「だから終わりがないの。魔法隊に入れる夫と同じことを、いくら才能があっても10歳の娘ができるなんて思えない……でも、そもそも力のない私には止められない」

 カヤコは細くため息を吐いて、切り替えたように表情を緩めた。

「ごめんなさい。変な話をしちゃって。不思議と夫が死んだ時のことを思い出しちゃって。おばさんの愚痴だと思って聞き流してちょうだい」
「そんな……あっ、そうだ! 良かったら、俺も訓練の様子を見に行ってもいいですか?」
「え?」

 カヤコがきょとんと首を傾げた。しかし、すぐに嬉しそうに頷いた。

「是非、お願いしたいわ。あの子にはロアくんやユーリアちゃんみたいに歳の近い友達がいないから」
「ありがとうございます」
「でも……いいの? 近いとは言っても夜は危険よ」
「ご安心を。俺たちも少しは戦えますので」

 ロアはにこりと微笑んだ。
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