上 下
201 / 331
第四章 帰郷編

第17話 心眼発動

しおりを挟む
 俺は後方警戒を交代するまでは、メルローズに算術の基礎を教えていた。一桁の加法と減法までは覚える事ができたので、次からは用紙に書きながら計算する筆算を教えようと思った。

 そう思ったタイミングで、御者から今日の野営ポイントに到着したと報告が入った。

『ガラッ』
「今日の野営ポイントに着きました」
「では、今日の授業はここまでにしましょう。よく頑張りましたね、お疲れ様です」
「ありがとうございました。食後も少しだけ教えてもらっても良いですか?家庭教師よりも判り易いので面白くて」
「構いませんよ」

 メルローズと接していて思うんだけど、どこがワガママ令嬢なのか理解できない。思った事をハッキリと言う性格だとは思うけど、無理難題を押し付ける事は全く無いからだ。本当にワガママなら俺に対しても命令口調で話すはずだからね。

 普段のメルローズについて、専属メイドのキシリアに少し訪ねてみる。

「キシリアさん、少しメルローズ様の事をお聞きしても良いですか?」
「はい、構いませんが?」

 少し首を傾げながらも答えてくれるようなので、思っている事を質問する。

「メルローズ様は、噂で聞くようなワガママ令嬢ではないように思うのですが、キシリアさんはどう思われてるんですか?」
「えっと、ウォード様の前だから猫を被ってるのだと思います。普段は無理難題を押し付けてきますので……」

 キシリアが俺の質問に答えると、右眼に『ズキッ』と痛みが走った事に驚いたが、ゴミでも入ったのかと思い会話を続ける。

「そうですか。勉強も貴族なら家庭教師を付けてると思うのですが、コスター家では家庭教師を付けてないのですか?」
「いいえ、お嬢様が単純にワガママなので教師の言う事を聞かないだけです」

 今回の質問も、キシリアが答えると右眼に痛みが走ったので、ゴミではない原因で痛みが出てると思った瞬間、〚心眼〛の存在を思い出した。キシリアは嘘をついて俺を欺くつもりだったのか。

「何かしらの働きかけで、メルローズ様をワガママ令嬢に仕立ててるのかと思えたのですが、僕の思い違いだったのかな?」
「そんな働きかけはございません。私達はお嬢様の事をお慕いしておりますから」

 働きかけの時は痛みが走り、慕っていると言った時は何も起こらなかった事から、ワガママ令嬢に仕立てる必要があるのだと思った。これ以上は踏み込んだ質問は難しいと思ったけど、メルローズの容姿を考えると、思い当たる節があるのでその事を最後に聞いてみた。

「メルローズ様はとても美しい方ですから、上位貴族からの婚姻が申し込まれると、コスター家は跡継ぎを失うんですか?」
「っ、他家からの婚姻の申込みは来ません。女主に成れると思われる貴族は居ないと思います」

 最後の質問の答えは痛みが走った……コスター男爵家はメルローズを跡継ぎにする為に、わざとワガママ令嬢のレッテルを貼り、ガレリア学園でも成績劣等者にして婚姻の申込みが来ないように仕向けるわけか……

(貴族の世界は本当に難しいんだね……)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

私を侮辱するだけの婚約者はもういりません!

杉本凪咲
恋愛
聖女に選ばれた男爵令嬢の私。 しかし一向に力は目覚めず、婚約者の王子にも侮辱される日々を送っていた。 やがて王子は私の素性を疑いはじめ……

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

処理中です...