永遠に見続ける夢

交換日記

夏休みの終わり頃だったか、菫の家に遊びに行った時に菫が交換日記を持ちかけてきた。

「交換日記？」

「そう。いや？」

「嫌じゃないけど、なんか小学生みたいだね。」

菫は困ったような顔をして笑った。

「実はまた心臓の手術で会えなくなるの。それで交換日記できないかなと思って。交換日記嫌ならパソコンとかスマホでメールのやり取りででもいいよ。」

「ううん。ノートでいいよ。ここに持ってきて取りにくればいい？」

「いいの！ありがとう。実はもうノート用意してた。」

じゃーんとピンクのノートを取り出した。

「用意いいじゃん！」

「うん。まずは私から書くね。明日学校帰りに取りに来てくれる？」

「もちろん。私文章下手だし沢山書けないかもしれないけどいい？」

「いいよ。成美が読んで返事くれるだけで嬉しいよ。」

「オッケー！」

「そうだ！普通の日記じゃ面白くないからさ、短歌作らない？」

「短歌？」

「うん。私が上の句かいたら、成美が下の句を書くとかさ。成美が上の句書いたら私が下の句を書くとか。」

「いいね！面白そう！」


こうして二人の交換日記ははじまった。

◇  ◇  ◇

7月20日

今日から入院します。
子どものときから数えるともう五回目の手術だよ。今回の手術がうまくいけばもう手術しなくていいかもしれないんだって。
ドキドキだよ。

上の句

蝉の音と
自由の女神
ともに来て

と書いてあった。

(これは、たぶん夏休みに入って手術が成功して病院から自由になれるよって意味なのかなあ。

下の句、私が書かないとだよね。

なんて書こう。)

7月21日

手術頑張って！
私は今月中に夏休みの課題全部終わらせるつもりで鋭意格闘中よ！

下の句

待っていたときは
やっと現る。

(こんな感じでいいのかなあ。
いかんせん、短歌を誰かと作るの初めてだし。きっと求めてはないよね。完璧なものは。)

7月22日

待っていたときはやっと来るのかな。

実は最近胸が痛いときがある。

熱も頻繁にでるんだよね……。

お父さんとお母さんも妙に優しいし。

楽しい高校生活おくるためには今踏ん張るときだとは思うんだけどね。

ところで7月中に宿題終わらせるのすごいね。

私、最近数学が難しくなってきてて、わからないところあるんだ。

私が退院したら勉強教えてね。

上の句

ドキドキと
流れる鼓動
続くリズム

(手術前でナーバスになってるのかなあ。元気づけなきゃ！)

7月23日

そりゃ、入院してる子どもに優しくないほうが不自然だよ。

私が親でもそうなります。

下の句

いついつまでも
響かせるため

(響かせるために頑張ろうって意味でとってくれるといいけど。)

こんな感じで二人の交換日記ははじまった。