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7-1 彼らは自然に最も近い脅威である事を忘れてはいけない。

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間断なく続くエンジン音と、ガコガコと騒がしくキャタピラが地を這う音に耳を叩かれながら、激しく揺れる操縦席で必死にレバーを操作する。

アームを伸ばし、先端を土に食い込ませていく。
硬い手応え。
車体が微かに持ち上がる。

しかしそれでは止めず更に深く突き刺していき、根を引っ掛けたであろうと確信を得て、アームを引き寄せる。

白く眩しい断面を見せていた切り株が傾き、持ち上がっていく。


……よし、上手くいった。

少しずつ上達している実感と共に、掘り起こした切り株を置いてアームをどける。


小さな魍魎が切り株へ向かうのが見える。

軽くタッチするように触れると、見る内に切り株の中へと溶けてしまい、次の瞬間にはひとりでに切り株が動き始めた。

相変わらずの怪奇現象である。もう慣れたけど。


「涼介! もう五時だぞー!」
エンジン音に負けないよう、やや叫ぶような匠の声が耳に入りエンジンを一度切る。

「今日はこれぐらいにして帰ろうぜ!」
「おう」

康平が持ってきたユンボ……ショベルカーを使い始めてから二週間。だいぶ操作にも慣れてコツも掴めてきていた。
切り株の撤去も進み、既に敷地の大半は引き抜けている。
だが整地をしていないのでそこら中ボコボコで穴だらけだ。

「土は後でウチにある残土持ってくるんで」とは康平が言ってくれた事だ。
整地に関しては正式にお願いした方が良いだろう。
自分でやろうとしたが全く勘が掴めず、悪戯に土を崩すだけだったからだ。

取りあえずユンボをいつもの置き場所に持って行き停車させる。

「そんじゃ根裂(ねさく)達、いつもの頼む」
目の前の小人にお願いすると彼は頷き、何やら指示を出すような仕草を見せる。

すると脇に置いてあった丸太が動き出し、次々に積み上がっていく。

盗まれない為のシャッター代わりだ。
万が一でもこれが盗まれる事態は許されない。何せ善意の借り物なのだから。
毎回魍魎達には手間を掛けさせるが、これが俺達なりの盗難防止策だった。


「今日もお疲れさん。だいぶ進んだな」
「お疲れ。あと三日ぐらいで俺が出来る部分は終わりかな。そんで康平が一日やってくれれば撤去は終わるだろ」
「あんな木だらけ草だけだったのに、よくここまで出来たよなあ」
「十割他力本願だけど。俺ら二人じゃどうにもならなかったろうな」
苦笑いが零れ、自嘲する気分になってしまう。

木を切り始めたのが四月の終わり頃。それから一カ月半程でここまで切り拓けてしまったのだ。

正直、俺達二人だけだったとしたらここまで片付けるのに年単位の時間を要してしまうだろうと思う。

「人脈も運も実力の内さ。縁は皆、お前が作ってきたもんだからよ」
珍しく匠が俺を褒めるような事を言っている。今夜は雪でも降るかもしれないな。

夏至に近づいていく季節であり、この時間でも太陽の位置は高い。
しかし山間の村である為、暗くなり始めるとアッという間。
なので日が落ちる前に撤収するのが決まりだった。


……何せ、街灯も何も無いからなあ。

真っ暗闇の状態で下る山道は恐怖以外の何物でもない。
加えてあいつらが面白がって音を立てたり怖がらせようとしてくるのだ。
正体が分かっていると言え、不気味なので勘弁して欲しい。

「段々湿気が出てくるようになってきたな」
「そうだなあ。六月だし、梅雨の季節が近いか」

ここ最近は雨天も多くなってきた。四月と五月は夜の内に降る程度だったのだが、ここ最近は日中も降り続く事がある。

そんな日はさすがに作業は行わず、家事やキャンプ場に必要な物を調べる事に勤しんだ。
匠は自分の仕事を気兼ねなく進められるので、雨季の訪れを歓迎している節がある。

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