転生蒸気機関技師-二部-

津名吉影

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第二部 1章 青年期 魔術学校編

4「いも虫組」

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 僕の名前はアクセル・ダルク・ハンドマン。
 
 白衣を着たケモ耳ヤンデレ美少女と青空を彷彿とさせる髪色をしたポンコツホムンクルス美少女、ひと回り歳が離れた悩殺ボディの女性軍人を含めた三人の女性と交際している16歳の青少年だ。
 今は『いも虫組』のお友達であるジェイソン君とパートナーを組み、魔術学校の敷地内に存在する回遊式庭園で霊術の授業を受けている真っ最中。

「ではアクセル。余の霊術詠唱を繰り返してみよ」

 般若の面を被った『余っ子』ではない。
 霊術の授業を担当するユズハ・クラシキ先生がそう言ったので、僕は霊力が込められた練習用の杖を構えながら霊術の詠唱を唱える。

「大丈夫。アクセル義兄さんなら上手く発動できるさ!」

 ユズハ先生が付き添うなか、ジェイソン君が僕の尻を景気付けに叩く。周囲に居たモブや珍獣と呼ばれる集団たちは、僕が一向に下級霊術が発動できない事を嘲笑っていた。

 僕は深く息を吸い込み、ユズハ先生が唱えたように、『我は神を信じる信徒なり。煩悩に苛まれし哀れな童なり。ナバリの霊操術・【隠れ蓑】』と唱えて、杖の先端を新しくできた友人である『プロテイン君』へと向けた。
 
 ユズハ先生が教えてくれた下級霊術『ナバリの霊操術・【隠れ蓑】』とは、霊力を物質として杖の先端から撃ち出す術式だ。
 下級霊術【隠れ蓑】は対象に微弱な霊力を注ぎ込む術式である。攻撃系統の術式でなければ、防御系統の術式でもない。

 いわゆる状態異常系統の術式である。
 しかしユズハ先生は「霊術師にとっては、【隠れ蓑】は攻撃霊術じゃ。今の現代においてはな」と言っている。
 
 霊術とは基本的に万能な術式であるらしい。
 霊力核という見えない力の根源さえ持っていれば、自由に霊術を発動できるし怪我もあっという間に治せるとのこと。
 
 しかし霊術という術式は、霊力の込められた物質や霊力を宿した者、いわゆる霊術師という存在にしか効果が無いらしい。
 そのためユズハ先生の様な『霊術師』という存在は、霊力を持たない存在に攻撃を与えるには【隠れ蓑】の様な霊術で『攻撃対象を一時的に霊的存在に昇華させる必要がある』そうだ。

 つまりユズハ先生が言いたいのは、相手を如何に自分の得意分野に引き摺り下ろせるか、であるようだ。

 杖の先端から放たれた霊力の稲妻は、白いタンクトップを着た『プロテイン君』に到着するや否や、彼の体の表面に赤い膜の様な物質を漂わせ始めた。

「パワー!」

 彼の体の表面に赤い膜が漂い始めた瞬間、プロテイン君は僕に駆け寄りながらそう叫んだ。
 どうやら僕が発動した【隠れ蓑】は無事に成功したようだ。

 ジェイソン君は僕の体を持ち上げて、ひと月前に初めて出会った時の様に肩車をしてくれた。
 プロテイン君もジェイソン君の周囲を駆け回りながら、「パワー」「ヤー」と叫んでくれている。

 近くに居たユズハ先生は、「アクセルは神や仏に好かれておるな。霊術はそう簡単に発動できる術式ではない」と言って、他の学生の様子を見に行ってしまった。
  
 ユズハ先生はそう言っていたが、僕は神を信じていない。
 いや、今は信じていないと言った方が正しいのかも知れない。
 
 壱番街から五番街まで存在するアンクルシティには、多くの宗教が存在する。
 それこそ、ベーコンを信仰の対象とする『ベーコン教』や亜人族が軍神と崇める『破壊神アレス』という存在から、一部の狂信者によって崇め奉られた『キノコ神とタケノコ神』まで、シティには多くの神が崇められている。

 シティにある壱番街においては、他人の人種や性別、年齢や宗教といったモノに口を出すのはタブーと化している。
 僕が居る『いも虫組』にも変わった珍獣たちが存在していた。

 まずは、うっかり者のチャック君。
 彼は壱番街に住む聖人族だが禁じられた呪術を使用して、自身の魂をラブドールに定着してしまったうっかり者だ。
 チャックが魔術学校に通っているのは、自身に掛けられた呪いを解くためであるそうだ。

 次は、ガンギ君というドワーフ族の青年。
 目がガンギまっているから、僕は彼の事をガンギ君と呼んでいる。

 口の回りに白い粉が着いているのが特徴だ。
 彼は常に口を呆然と開けていて目の焦点が定まってない。

 最後に仲良くなったのは、霊感があると豪語するデンパ君だ。
 彼は授業中、バイク用のヘルメットを被っている。
 デンパ君は僕にさえハッキリと見えない『電波』や『電磁波』が鮮明に見えていると言っている。
 
 ジェイソン君の話によると、デンパ君が被っているヘルメットには『電磁波を遮断する効果』や『電波による精神汚染を除去する効果』があるらしい。

 僕は地面に降りた後、駆け寄ってきたデンパ君に手のひらを向ける。

「今から電磁波を流すけど、本当にこれが見えてるのか?」
「見えてるが、無駄だぞアクセル。俺には電波妨害用の究極ヘルメットがあるからな」

「僕の電磁波を甘く見てると後悔するぞ」
「そんなに自信があるなら、やってみろよ。このヘルメットはダスト軍の技術開発部門が発明した軍用のヘルメットだぜ?」

 デンパ君がそう言うので、僕は強めに電磁波を照射する。
 強めと言っても手心を加えるつもりは一切ない。災厄の魔術師が動けなくなる程の照射量をデンパ君のヘルメットに向けて放つつもりだ。

 それから少しした後、ヘルメットのバイザーに亀裂が入ってデンパ君が雄叫びをあげた。
 彼は砕け散ったサンバイザーの隙間から目を輝かせて、「テメエ。本気でヤりやがったな?」と叫び、僕の顎に向けて拳を放った。

 ジャブの一種だったと思う。
 僕はその一つのジャブでノックアウトして回遊式庭園の草むらに背中から倒れた。

 本気になった僕が悪い。大人げなかった。
 ここは壱番街にある魔術学校だ。どんな学生が居ても仕方がない。そうだ、この学園は修羅の国なんだ。

 僕が多様性を受け入れるべきなんだ。
 音を上げちゃダメだぞ、アクセル。

 いも虫組には、他にも紹介しきれない珍獣がたくさん生息している。 
 教室の脇に置いてあるスロットを打ち始める者や麻雀をする者、授業をそっちのけにして遊んでばかりいる集団もいた。
 
 僕の前にある異世界学園ライフには、個性的で頭のネジがブッ飛んだ人が溢れ返っていた。
 珍獣や変人、変態や化け物しか居ない『いも虫組』だけど、皆ホバーバイクが好きなせいなのか妙に話が合って虐めに遭う事は無かった。

「アクセル義兄さん。大丈夫か?」
「ああ、弟よ。これぐらいのパンチなんて屁でもないさ」

 ジェイソン君が手を差し伸べてきたので、僕は彼の手を掴んで立ち上がる。

 デンパ君のパンチは見事なモノだった。
 彼のパンチに合わせて『幸運を祈れグッドラック』と呟いたのだが、パンチを受けた衝撃で脳にダメージが行ってアドレナリンの制御が上手くできなくなり、立ち上がるのに時間が掛かった。
 
 流石は退役軍人のパンチだ。恐ろしく早くて何をされたのかも、後からでしか理解できなかった。
 自分の弱点が知れて良かったまである。

 それからというもの、僕はもう一度デンパ君に向けて「おい、アルミホイル。逃げるのか?」と呟く。
 するとデンパ君は再び割れたバイザーの隙間から目を覗かせて、「今からテメエの春をぶっ壊してやる」と叫び、先程よりも軽やかなステップを刻んで、距離を縮めてきた。

 喧嘩を売るつもりはない。別に彼に嫌われたくもなかった。
 だけど、退役軍人と手合わせできる機会なんて、そうそう巡ってくるものではない。

 等と考えながら再び幸運を祈れグッドラックと呟いて後悔しろバッドラックと叫ぶと、遠くの方から甲冑を身に付けた巨大な腕が迫ってきた。
 巨大な腕は手のひらを広げるや否や僕とデンパ君を鷲掴みにしたまま、空中を漂い続けている。

「『いも虫組』は本当に馬鹿しか居らんのか?」

 どうやら甲冑の腕を出現させたのは、ユズハ先生であるようだ。
 彼女は僕とデンパ君が霊術の授業をそっちのけで遊び回っているのに気付き、ジャックオー師匠やサンジェロマン伯爵が用いた『臨界操術』の一種を発動したとのこと。
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