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第5章 青年期 小休憩編

50「見えない何か」

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 僕が指示を送った十数匹の機甲手首ハンズマンは、傲慢の大罪執行官とやらの体に飛び込み、奴の注意を引いてくれた。

 
 数分前、僕はアームウォーマーを操作してハンズマンに指示を送った。指示の内容は『集合せよ』といった端的なものだ。


 災厄の魔術師とやらが人語を理解できる生物で助かった。彼女が無駄話に付き合ってくれなければ、僕は化け物の攻撃によって死んでいたかもしれない。ただの直感でしかないが、目の前の化け物からはそれほどの敵意と殺気を感じ取れた。


 アームウォーマーを介して、「高周波の電波を流し続けろ。何があっても腕の機械に触れさせるな」と指示を送ると、化け物の周囲に居たハンズマンは手のひらを魔術師に向けて電波を放った。


 僕が魔術師に「後手に回るつもりは無い。僕はいつだって数手先の戦術を用意している」と言うと、彼女は「この程度の電磁波で私が動けないとでも?」と言ってきた。


 脳と副腎から際限なくアドレナリンを放出した直後、彼女の周囲に居たハンズマンがペシャンコになった。とても重い何かを背負ったかのように、彼らは見えない何かで押し潰されている。


 咄嗟にホログラムの地図に目を向けたが、何も異変はなかった。衝撃波じゃあない。だとすると、重力に関係する魔術なのか?


 その後も魔術師は、騎士や戦士を彷彿とさせる姿をしているのに、素手のままこちらに向かってくる。

 
 

「重力を操る魔術なんてチートじゃあねえか。ちょっとは手加減して剣とか使わねえのか?」
「弱者を相手に剣など抜きません」




 そう言って魔術師は腕の機械を弄りだした。他のハンズマンが電磁波を浴びせ続けるが、効果は見られない。


 後手に回るつもりは無い。直感的に脳の前頭葉が彼女の行動を拒絶していた。腕の機械を操作し始めたという事は、攻撃に転じて来たのだと思ったからだ。魔術師が何かを起こす前に無力化しなければならない。


 等と思考を加速させながら、しゃがみ込んでブーツに手を添える。


 準備は全て整った。今居る場所は魔物と戦ったような不利な足場じゃあない。多少の水は流れているが、それは微々たるものだ。音速の速さで蹴りを入れてやる。


 その後、僕は魔術師の背後に音速の速さで回り込み、鎧の弱点である膝裏の関節に回し蹴りを入れた。狭い下水道内を跳ね回り、振り向いてきた魔術師の視覚外から攻撃を続ける。腕を振り回す魔術師の攻撃を掻い潜りながら蹴りを入れた。


 圧倒的な手数の『トリプルA』とハンズマンによる電磁波照射を繰り返していたが、何か違和感を感じた。

 


「この衝撃と鎧への打撃音……お前、中身が入っていないだろ」
「よく見抜けましたね。貴方が戦っているのは私が操作する機械人形です」

「だと思ったよ。立ち上がれない程の蹴りと拳を入れているのに、何の反応も無いからな」
「アクセル様、貴方の『後天性個性』は魅力的ですが、使い方を間違っているようです。この程度の強さでは、魔導王を倒せませんね」




 そう言って魔術師は僕の音速の早さに追い付いてきた。彼女は僕が音速の早さで放ったバタフライキックを腕で受け止めた。


 蹴りを完全に見切られている。ナックルガードによる『トリプルA』も僅かしか効いていない。どうやらここで終わりであるらしい。




「何だよ、後天性個性って。何の事を言ってるんだ。もしかして個性って僕の『アドレナリンを操る能力の事』を言っているのか?」
「個性の存在すら知らないのですね。お喋りが過ぎました――」




 地下水道内を跳ね回って距離を取った直後、何かが僕の体を貫いた。後ろを振り向くと、前にいたはずの魔術師が僕の背後に立っていた。


 あれだけの巨体で僕より早く動ける訳がない。もしかすると、何らかの魔術で瞬間移動したのだろう。


 等と考えながら振り向き様に回し蹴りを入れようとした瞬間、魔術師の腕にあった機械から刃物が飛び出して、僕の体を貫いた。




「何だよ……結局、刃物を持ってやがったのか……」
「言いましたよね。今の貴方に魔術を使うはずがないと」

「いいや。キミが言ったのは、『弱者を相手に剣を抜かない』だ。刃物を使ったって事は、キミは本能的に僕を強者だと認めたんだよ」
「そうでしたね。意外と楽しめました。貴方の事は忘れませんよ――」




 魔術師は刃物を引き抜こうとしている。腕に装備した機械から突き出た刃物だ。


 魔術師が刃物を引き抜こうとした後、僕はその刃物を両手で握り締めて最後の悪あがきをする。相手が機械の体だと分からなければ、思いつかなかった悪あがきだ。


 体内に蓄積された全ての電気を操作して手のひらに込める。すると、体に刺さった刃物と手のひらを通じて高圧電流が放たれた。
 
 
 ジャックオー師匠が僕に言った「キミには才能がある。死を目前にしても恐怖に逆らう才能だ。普通なら死を前にした生物は、本能的に逃走フライトを選ぶ。でもキミはそうじゃない」という言葉が脳裏を過った。


 魔術師が「こんな能力も持っていたんですね。他にも持っているんですか?」と言ったが、僕は「期待させて悪かったな。僕は不器用な男なんだよ」と嫌味ったらしく返事をした。


 彼女は刃物を引き抜いて、僕の体を水道内の壁に放り投げた。


 あとは死ぬだけなんだな、と思っていたが、「ここに居たんですね、アクセル先輩」という声が近くから聞こえてきた。


 視線の先に居たのは、右腕を巨大で機械的な変形機構銃に変化させたエイダさんの姿だった。彼女は僕に向けて「ほんの少しでも動けるのなら、頭を数センチ右にずらして下さい」と言ってきた。


 僕はエイダさんに「ぶっ放せ」と呟き、無理矢理体を動かして射線から離れる。すると彼女は『これが本当のアルティメット・アームストロング・アームキャノンです』と叫んで、古代兵器とやらを魔術師に向けて放った。
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