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非恋愛もの
200207【逢魔が時】明日も生きる
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黒髪でぱっと見真面目な彼女と、茶髪でぱっと見不真面目なあたしは
どっか似ていて、いつも一緒にいた。
そんなあたし達は、よく高校の屋上で夕陽を見るのが習慣だった。
《明日も生きる》
「ねえ、知ってる?」
夕陽を見ながら、亜沙子はあたしに尋ねた。
「こういう時間を、オウマガトキって言うんだって」
「オウマガトキ……? どういう字?」
「魔物に逢う時間」
聞いたことない言葉だった。
突然どうしたんだろうと亜沙子を見ると、どこか遠くの景色を見ていて。
何だか、どっかに行っちゃいそうだった。
「どう? 魔物に会えそう?」
そう聞いたあたしに、ふっと亜沙子が笑う。
「そうだね、会ってみたいね」
そしてそのまま連れてってほしいと呟く亜沙子に、胸がギュッとなる。
「ここから飛び込んだら会えないかな」
立ち上がった亜沙子。
あたしも隣に並ぶ。
目の前の金網は足をかければ登れそうで
それをゆっくりと見上げる亜沙子も、そう考えている気がした。
そして、そのままひとりで行っちゃいそうだった。
気づいてほしくて亜沙子の手に自分の手を絡ませると、亜沙子がこっちを見る。
「由祐子も来る?」
「亜沙子が行くなら」
あたしの言葉を聞いて、亜沙子は微笑んだ。
金網の向こうの足元は暗くて、吸い込まれそうなほど闇に沈んでいて。
「ねえ、このまま死んだらさ、ここ立ち入り禁止になるのかな」
「死んだ後のこと考えてるの?」
亜沙子は不思議そうな顔をする。
「うん、だって、どうせ死ぬなら何か変えたいじゃん」
亜沙子もあたしも、本当は死にたいんじゃなくて世界を変えたいだけなんだ。
この世界を、壊したいだけなんだ。
なのにあたし達は何もできない。
子供は無力だ。
何の権利も持ってない。
「ねえ、あたし、亜沙子と色々したいことあるんだ」
「何?」
「学校帰りにクレープ食べたりとかさ」
「あはは、いいねそれ」
やってみたいって亜沙子は笑う。
できるわけないのは知ってる。
そんな自由は、あたし達にはない。
「死んじゃったらさ、新しい世界見れなくなっちゃうよ」
ギュッと手を握って亜沙子に向き合う。
亜沙子も握り返してこっちを見てくれた。
「新しい世界、一緒に見ようよ」
「……うん」
亜沙子は、泣きそうな顔をしてた。
あたしもきっと泣きそうな顔だったと思う。
だってあたし達には、新しい世界があるかなんてわからないんだ。
どこかで、あるわけないって思ってるんだ。
でも死んだらそんなチャンスは本当になくなっちゃう。
それは少しだけ、もったいない気がするんだ。
あたしは亜沙子と新しい世界が見たい。
一緒に、変わった世界で『普通』を過ごしたい。
それまで亜沙子に、あたしができるだけの、たくさんの楽しいをあげるから。
「でももし、それでも本当に死にたくなったらさ」
その世界に亜沙子がいなければ意味はないから。
「そのときは、一緒に死のう」
亜沙子は
笑いながら、泣いた。
「うん」
あたしも、涙が溢れた。
「必ずだよ。一人で行っちゃダメなんだから」
「うん」
繋いだ手に手を重ねて
祈るように、また明日も会おうねって約束した。
もしも亜沙子が連れてかれたら
あたしはきっと、全部壊して追いかけるから。
END
どっか似ていて、いつも一緒にいた。
そんなあたし達は、よく高校の屋上で夕陽を見るのが習慣だった。
《明日も生きる》
「ねえ、知ってる?」
夕陽を見ながら、亜沙子はあたしに尋ねた。
「こういう時間を、オウマガトキって言うんだって」
「オウマガトキ……? どういう字?」
「魔物に逢う時間」
聞いたことない言葉だった。
突然どうしたんだろうと亜沙子を見ると、どこか遠くの景色を見ていて。
何だか、どっかに行っちゃいそうだった。
「どう? 魔物に会えそう?」
そう聞いたあたしに、ふっと亜沙子が笑う。
「そうだね、会ってみたいね」
そしてそのまま連れてってほしいと呟く亜沙子に、胸がギュッとなる。
「ここから飛び込んだら会えないかな」
立ち上がった亜沙子。
あたしも隣に並ぶ。
目の前の金網は足をかければ登れそうで
それをゆっくりと見上げる亜沙子も、そう考えている気がした。
そして、そのままひとりで行っちゃいそうだった。
気づいてほしくて亜沙子の手に自分の手を絡ませると、亜沙子がこっちを見る。
「由祐子も来る?」
「亜沙子が行くなら」
あたしの言葉を聞いて、亜沙子は微笑んだ。
金網の向こうの足元は暗くて、吸い込まれそうなほど闇に沈んでいて。
「ねえ、このまま死んだらさ、ここ立ち入り禁止になるのかな」
「死んだ後のこと考えてるの?」
亜沙子は不思議そうな顔をする。
「うん、だって、どうせ死ぬなら何か変えたいじゃん」
亜沙子もあたしも、本当は死にたいんじゃなくて世界を変えたいだけなんだ。
この世界を、壊したいだけなんだ。
なのにあたし達は何もできない。
子供は無力だ。
何の権利も持ってない。
「ねえ、あたし、亜沙子と色々したいことあるんだ」
「何?」
「学校帰りにクレープ食べたりとかさ」
「あはは、いいねそれ」
やってみたいって亜沙子は笑う。
できるわけないのは知ってる。
そんな自由は、あたし達にはない。
「死んじゃったらさ、新しい世界見れなくなっちゃうよ」
ギュッと手を握って亜沙子に向き合う。
亜沙子も握り返してこっちを見てくれた。
「新しい世界、一緒に見ようよ」
「……うん」
亜沙子は、泣きそうな顔をしてた。
あたしもきっと泣きそうな顔だったと思う。
だってあたし達には、新しい世界があるかなんてわからないんだ。
どこかで、あるわけないって思ってるんだ。
でも死んだらそんなチャンスは本当になくなっちゃう。
それは少しだけ、もったいない気がするんだ。
あたしは亜沙子と新しい世界が見たい。
一緒に、変わった世界で『普通』を過ごしたい。
それまで亜沙子に、あたしができるだけの、たくさんの楽しいをあげるから。
「でももし、それでも本当に死にたくなったらさ」
その世界に亜沙子がいなければ意味はないから。
「そのときは、一緒に死のう」
亜沙子は
笑いながら、泣いた。
「うん」
あたしも、涙が溢れた。
「必ずだよ。一人で行っちゃダメなんだから」
「うん」
繋いだ手に手を重ねて
祈るように、また明日も会おうねって約束した。
もしも亜沙子が連れてかれたら
あたしはきっと、全部壊して追いかけるから。
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