週一お題SS集

雨鬥露芽

文字の大きさ
上 下
10 / 10
非恋愛もの

200207【逢魔が時】明日も生きる

しおりを挟む
黒髪でぱっと見真面目な彼女と、茶髪でぱっと見不真面目なあたしは
どっか似ていて、いつも一緒にいた。
そんなあたし達は、よく高校の屋上で夕陽を見るのが習慣だった。


 《明日も生きる》


「ねえ、知ってる?」

夕陽を見ながら、亜沙子はあたしに尋ねた。

「こういう時間を、オウマガトキって言うんだって」
「オウマガトキ……? どういう字?」
「魔物に逢う時間」

聞いたことない言葉だった。
突然どうしたんだろうと亜沙子を見ると、どこか遠くの景色を見ていて。
何だか、どっかに行っちゃいそうだった。

「どう? 魔物に会えそう?」

そう聞いたあたしに、ふっと亜沙子が笑う。

「そうだね、会ってみたいね」

そしてそのまま連れてってほしいと呟く亜沙子に、胸がギュッとなる。

「ここから飛び込んだら会えないかな」

立ち上がった亜沙子。
あたしも隣に並ぶ。

目の前の金網は足をかければ登れそうで
それをゆっくりと見上げる亜沙子も、そう考えている気がした。
そして、そのままひとりで行っちゃいそうだった。

気づいてほしくて亜沙子の手に自分の手を絡ませると、亜沙子がこっちを見る。

「由祐子も来る?」
「亜沙子が行くなら」

あたしの言葉を聞いて、亜沙子は微笑んだ。
金網の向こうの足元は暗くて、吸い込まれそうなほど闇に沈んでいて。

「ねえ、このまま死んだらさ、ここ立ち入り禁止になるのかな」
「死んだ後のこと考えてるの?」

亜沙子は不思議そうな顔をする。

「うん、だって、どうせ死ぬなら何か変えたいじゃん」

亜沙子もあたしも、本当は死にたいんじゃなくて世界を変えたいだけなんだ。
この世界を、壊したいだけなんだ。

なのにあたし達は何もできない。
子供は無力だ。

何の権利も持ってない。

「ねえ、あたし、亜沙子と色々したいことあるんだ」
「何?」
「学校帰りにクレープ食べたりとかさ」
「あはは、いいねそれ」

やってみたいって亜沙子は笑う。
できるわけないのは知ってる。
そんな自由は、あたし達にはない。

「死んじゃったらさ、新しい世界見れなくなっちゃうよ」

ギュッと手を握って亜沙子に向き合う。
亜沙子も握り返してこっちを見てくれた。

「新しい世界、一緒に見ようよ」
「……うん」

亜沙子は、泣きそうな顔をしてた。
あたしもきっと泣きそうな顔だったと思う。

だってあたし達には、新しい世界があるかなんてわからないんだ。
どこかで、あるわけないって思ってるんだ。
でも死んだらそんなチャンスは本当になくなっちゃう。
それは少しだけ、もったいない気がするんだ。

あたしは亜沙子と新しい世界が見たい。
一緒に、変わった世界で『普通』を過ごしたい。

それまで亜沙子に、あたしができるだけの、たくさんの楽しいをあげるから。

「でももし、それでも本当に死にたくなったらさ」

その世界に亜沙子がいなければ意味はないから。

「そのときは、一緒に死のう」

亜沙子は
笑いながら、泣いた。

「うん」

あたしも、涙が溢れた。

「必ずだよ。一人で行っちゃダメなんだから」
「うん」

繋いだ手に手を重ねて
祈るように、また明日も会おうねって約束した。
もしも亜沙子が連れてかれたら
あたしはきっと、全部壊して追いかけるから。
END

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

新しい派遣先の上司が私のことを好きすぎた件 他

rpmカンパニー
恋愛
新しい派遣先の上司が私のことを好きすぎた件 新しい派遣先の上司は、いつも私の面倒を見てくれる。でも他の人に言われて挙動の一つ一つを見てみると私のこと好きだよね。というか好きすぎるよね!?そんな状態でお別れになったらどうなるの?(食べられます)(ムーンライトノベルズに投稿したものから一部文言を修正しています) 人には人の考え方がある みんなに怒鳴られて上手くいかない。 仕事が嫌になり始めた時に助けてくれたのは彼だった。 彼と一緒に仕事をこなすうちに大事なことに気づいていく。 受け取り方の違い 奈美は部下に熱心に教育をしていたが、 当の部下から教育内容を全否定される。 ショックを受けてやけ酒を煽っていた時、 昔教えていた後輩がやってきた。 「先輩は愛が重すぎるんですよ」 「先輩の愛は僕一人が受け取ればいいんです」 そう言って唇を奪うと……。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

処理中です...