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第四話
第九十二節 彼女は何処に
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ゆっくりと休息を取った翌日。エイリークたちは早速、噂になっている辻斬りについて情報を集めることにした。直近の被害者はいるのか、いるとするならばその惨状は、その犯人について。
エイリークたちは各々で情報を集め、昼食の時間になったら宿屋の食堂で落ち合うことにしていた。朝から情報を集め、予定の時間になった事に気付いたエイリークは食堂へと向かう。入口まで行けば、そこには仲間たち全員が揃っていた。
「ごめん、遅くなったかな」
「俺たちも今来たばかりだから大丈夫だよ」
「そう?ありがとう」
軽く会話を交わしながら食堂へ向かう。中に入ると、女将の一人に空いていた席まで案内された。只今ご用意いたします、と告げると女将はキッチンへと向かう。
食事が来るまで、エイリークたちは各々収穫した情報を伝えることにした。
「聞いてみてんだけど、ここ数日はこの辺りで被害者は出てないらしいよ」
「俺も同じこと聞いたな。まるで嵐が去ったかのように、今じゃここら一帯は平和そのものだって」
「一番最近被害に遭った奴も、今までと同じ惨状だったらしい。武器も奪われていた、とな」
「最後に犯人を見た人の話だと、その人は火山方面に向かったらしいってさ」
「そうみたいですね……。ですがムスペルースの火山は活火山が多くて、未だに活動している火山もあるみたいです。そんなところに、何の用があるのでしょうか」
ケルスが言葉を漏らした後、エイリーク達の元に昼食が運ばれてきた。お盆にはサラダうどんとおにぎりが一つと、味噌汁のセットだ。外が暑かっただけに、サラダうどんがあるのは嬉しい。まずは食べようと、一同は昼食にする。
ガラスの器に盛られたサラダうどんは見た目も涼やかで、一口食べれば、つるりとした食感が喉を楽しませる。トマトやブロッコリーなどの野菜も新鮮さを感じさせる味わいであり、外の気温で火照った体の温度が、すぅっと下がる感覚がした。
どうやらこのサラダうどんには胡麻のドレッシングがかかっているらしく、炒られた香ばしい胡麻の風味が口の中に優しく広がった。
「ああ~美味しい~」
その美味しさに舌鼓を打つ。談笑も交えながら食事を楽しんでいる途中で、思い出したかのようにレイがアヤメに尋ねた。
「そういえば、アヤメさんは何か情報を掴みましたか?」
「ん?ああ、そういえばウチだけ報告がまだっしたね」
彼女はおにぎりを食べ終えてから、懐からメモ帳らしきものを取り出す。そこに目を落としながら、彼女はこう切り出した。
「辻斬り犯の向かった先は、ここから南東方向にある火山群一帯の一つ、シュムック火山っす。シュムック火山を含め、ムスペールヘイムーにある火山には、そのマグマから上質なマナが放出されてるんすよ。世界樹から流れている原初のマナ、と言っても過言じゃないっす」
「原初のマナ……」
「まぁ、あくまで例えっすけどね。でも武器を集めて向かった先が火山ってことを考えると、辻斬り犯の目的は魔剣の復元じゃないかなって思うっす」
そのために、魔剣ダインスレーヴの破片が宿っている武器を持つ人物を襲撃していた。それがヒトの噂の中で辻斬りだと変化し、広まったのではないか、とのこと。
アヤメの濃密な情報を耳にして、思わずエイリークはフォークを持つ手が止まる。彼女の高い情報収集能力に、ただただ脱帽する。
「さ、さすが……」
「ウチだってこう見えて、情報屋の端くれっすもん。諜報活動や情報収集は朝飯前っすよ~」
ふふん、と自慢げに話すアヤメ。そんな彼女でも、何故辻斬りの犯人が魔剣の復元を目論んでいるのかまでは、突き止められなかったそうだ。話をして食べ終えたアヤメが、ごちそうさまと手を合わす。彼女にグリムが質問を投げる。
「忍びの。その火山までは、ここからどのくらいかかる」
「うーん、半日くらいっすかね。ただ、道が完全に整備されてるわけでもないっすから、火山の中に入るだけでも大変だと思うっす」
「でも、俺達ならきっと大丈夫だと思う」
アヤメと同じく昼食を食べ終えたレイが手を合わせ、晴れ晴れとした笑顔を浮かべながらエイリークたちに話す。
「俺はみんなのこと信じてる。この六人でなら、俺は怖いものなんて何もないよ」
「レイ……」
「行こうよ、シュムック火山に。そこに答えがあるかもしれないならさ」
行ける場所まで行こうよと笑うレイに、エイリークの心の中にあった不安が消えていく。そう言われると、自分も何でもできる気が湧いてくる。
強くなったな、とレイを眺めながら思う。なにか、一皮むけたように見えた。
「そうだね。ここで立ち止まってても、何もわからないもんね」
「だろ?」
「うん。俺もレイに賛成。シュムック火山に行こう、グリム」
グリムに声をかければ、彼女は小さく笑いながら勝手にしろ、と呟く。
「うん、勝手にさせていただくね」
「じゃあ、準備して今から行こうか」
「だな、善は急げだ」
「ですね、行きましょう!」
賛同する仲間たち。早速準備を整え、シュムック火山へ向かうことにした。そんな自分達に、グリムは苦言を呈すことはしなかった。なにより、何処か安心しているような表情すら浮かべていた──気がした。
少しずつだが、彼女も変わってきているのだろう。どこか嬉しさを感じるエイリークであった。
シュムック火山は、広大な火山一帯の中にある。火山の入り口までは、その先に向かう馬車があるとのことで、それを利用することにした。その道中、相乗りしていた商人からとある噂を聞かされる。
「そういやここ数日前から、火山から何か金づちを打つようなカンカンって音が聞こえるって、馭者や商人の間でもっぱらの噂になってんだぜ」
「金づち、ですか?」
「ああよ。実際に見た奴はいねぇんだが、そんな音が火山から聞こえるっていうもんだから、鬼か悪魔でも棲みついているんじゃねぇかって話になってな」
「貴方はその音を聞いたことありますか?」
「おうさ。俺ぁこのムスペルースと砂漠を往復するために、火山付近を通るんだがよ……。不気味なんてもんじゃねぇぞありゃ。鬼だったら食われるだろうな」
ああ恐ろしい、と。大げさに震えあがりながら、その商人は話を続けた。
やがて馬車は火山一帯に到着し、料金を払ってその地に降り立つ。馬車の窓から顔を出した商人が、最後にと言葉をかけてきた。
「間違えておっちぬんじゃねぇぞ?俺はまだ死神になりたかねぇからな」
「はい、大丈夫です」
「大した自信だな全くよぉ。じゃあな、命知らずの阿呆共!」
冷やかし交じりの激励を背に受け、エイリークたちは立ち並んでいる火山群を見上げる。ふとケルスが耳を傍立て、何か音を拾ったのか「あ」と言葉を漏らす。どうかしたのかと尋ねれば、彼は金づちの音がすると答えた。
「音の発生源は、恐らく火山の中からです」
「火山の中……どこのだ?」
「多分ですが、あの奥の山だと思います」
ケルスが指さした先を目で追えば、そこにはぽっかりと口を開いている山一つ。ケルスが言うには、そこから音が漏れているのではないか、とのことだ。
よし、と気合を入れて、仲間に行こうと声をかける。その言葉を合図に、エイリーク達はシュムック火山へと向かった。
******
入口にも見えた穴が開いている火山──シュムック火山かと思われる山──の中へは、どうにか入ることが出来た。ここに来るまで襲ってきた魔物たちが案外強く、思ったよりも手間取ってしまったのだ。
それでも六人もいれば倒せるというもので、ダメージは少ない。入口に辿り着くと、カン、カン、という音が、ハッキリとエイリークの耳にも届く。間違いない。ここに目的の人物がいる、と確信した。意を決したように、中へと歩を進める。
火山の中に入ると、空洞が広がっていた。岩肌の隙間からは、マグマがどろどろと流れている部分もある。そこに響くカン、カン、という音。しばらく歩き、ひときわ大きく開けた空間に出ると、そこには自分たちに背を向けている人物が一人。
その人物は目の前で、マグマから漏れ出ているマナを、何かに吸収させていた。煌々と赤く煌めいているそれは、やがてマナを吸収し終わると、赤黒い刀身を持つ剣に変化する。謎の人物はそれを確認したのか、躊躇いなく手に持つ。剣からは威圧的な存在感を感じさせた。あれが、魔剣ダインスレーヴなのか。
剣を持った人物が、ゆっくりとエイリークたちに振り返る。その姿は、事前に聞いていた情報にあった通りだった。
グリムと同じく闇を溶かしたような黒髪に、この火山とは正反対の色のアイスブルーの瞳。尖った耳の先は紛れもなく、デックアールヴ族の特徴と一致していた。
グリムはその人物を見ると、冷静にその人物の名を呼ぶ。
エイリークたちは各々で情報を集め、昼食の時間になったら宿屋の食堂で落ち合うことにしていた。朝から情報を集め、予定の時間になった事に気付いたエイリークは食堂へと向かう。入口まで行けば、そこには仲間たち全員が揃っていた。
「ごめん、遅くなったかな」
「俺たちも今来たばかりだから大丈夫だよ」
「そう?ありがとう」
軽く会話を交わしながら食堂へ向かう。中に入ると、女将の一人に空いていた席まで案内された。只今ご用意いたします、と告げると女将はキッチンへと向かう。
食事が来るまで、エイリークたちは各々収穫した情報を伝えることにした。
「聞いてみてんだけど、ここ数日はこの辺りで被害者は出てないらしいよ」
「俺も同じこと聞いたな。まるで嵐が去ったかのように、今じゃここら一帯は平和そのものだって」
「一番最近被害に遭った奴も、今までと同じ惨状だったらしい。武器も奪われていた、とな」
「最後に犯人を見た人の話だと、その人は火山方面に向かったらしいってさ」
「そうみたいですね……。ですがムスペルースの火山は活火山が多くて、未だに活動している火山もあるみたいです。そんなところに、何の用があるのでしょうか」
ケルスが言葉を漏らした後、エイリーク達の元に昼食が運ばれてきた。お盆にはサラダうどんとおにぎりが一つと、味噌汁のセットだ。外が暑かっただけに、サラダうどんがあるのは嬉しい。まずは食べようと、一同は昼食にする。
ガラスの器に盛られたサラダうどんは見た目も涼やかで、一口食べれば、つるりとした食感が喉を楽しませる。トマトやブロッコリーなどの野菜も新鮮さを感じさせる味わいであり、外の気温で火照った体の温度が、すぅっと下がる感覚がした。
どうやらこのサラダうどんには胡麻のドレッシングがかかっているらしく、炒られた香ばしい胡麻の風味が口の中に優しく広がった。
「ああ~美味しい~」
その美味しさに舌鼓を打つ。談笑も交えながら食事を楽しんでいる途中で、思い出したかのようにレイがアヤメに尋ねた。
「そういえば、アヤメさんは何か情報を掴みましたか?」
「ん?ああ、そういえばウチだけ報告がまだっしたね」
彼女はおにぎりを食べ終えてから、懐からメモ帳らしきものを取り出す。そこに目を落としながら、彼女はこう切り出した。
「辻斬り犯の向かった先は、ここから南東方向にある火山群一帯の一つ、シュムック火山っす。シュムック火山を含め、ムスペールヘイムーにある火山には、そのマグマから上質なマナが放出されてるんすよ。世界樹から流れている原初のマナ、と言っても過言じゃないっす」
「原初のマナ……」
「まぁ、あくまで例えっすけどね。でも武器を集めて向かった先が火山ってことを考えると、辻斬り犯の目的は魔剣の復元じゃないかなって思うっす」
そのために、魔剣ダインスレーヴの破片が宿っている武器を持つ人物を襲撃していた。それがヒトの噂の中で辻斬りだと変化し、広まったのではないか、とのこと。
アヤメの濃密な情報を耳にして、思わずエイリークはフォークを持つ手が止まる。彼女の高い情報収集能力に、ただただ脱帽する。
「さ、さすが……」
「ウチだってこう見えて、情報屋の端くれっすもん。諜報活動や情報収集は朝飯前っすよ~」
ふふん、と自慢げに話すアヤメ。そんな彼女でも、何故辻斬りの犯人が魔剣の復元を目論んでいるのかまでは、突き止められなかったそうだ。話をして食べ終えたアヤメが、ごちそうさまと手を合わす。彼女にグリムが質問を投げる。
「忍びの。その火山までは、ここからどのくらいかかる」
「うーん、半日くらいっすかね。ただ、道が完全に整備されてるわけでもないっすから、火山の中に入るだけでも大変だと思うっす」
「でも、俺達ならきっと大丈夫だと思う」
アヤメと同じく昼食を食べ終えたレイが手を合わせ、晴れ晴れとした笑顔を浮かべながらエイリークたちに話す。
「俺はみんなのこと信じてる。この六人でなら、俺は怖いものなんて何もないよ」
「レイ……」
「行こうよ、シュムック火山に。そこに答えがあるかもしれないならさ」
行ける場所まで行こうよと笑うレイに、エイリークの心の中にあった不安が消えていく。そう言われると、自分も何でもできる気が湧いてくる。
強くなったな、とレイを眺めながら思う。なにか、一皮むけたように見えた。
「そうだね。ここで立ち止まってても、何もわからないもんね」
「だろ?」
「うん。俺もレイに賛成。シュムック火山に行こう、グリム」
グリムに声をかければ、彼女は小さく笑いながら勝手にしろ、と呟く。
「うん、勝手にさせていただくね」
「じゃあ、準備して今から行こうか」
「だな、善は急げだ」
「ですね、行きましょう!」
賛同する仲間たち。早速準備を整え、シュムック火山へ向かうことにした。そんな自分達に、グリムは苦言を呈すことはしなかった。なにより、何処か安心しているような表情すら浮かべていた──気がした。
少しずつだが、彼女も変わってきているのだろう。どこか嬉しさを感じるエイリークであった。
シュムック火山は、広大な火山一帯の中にある。火山の入り口までは、その先に向かう馬車があるとのことで、それを利用することにした。その道中、相乗りしていた商人からとある噂を聞かされる。
「そういやここ数日前から、火山から何か金づちを打つようなカンカンって音が聞こえるって、馭者や商人の間でもっぱらの噂になってんだぜ」
「金づち、ですか?」
「ああよ。実際に見た奴はいねぇんだが、そんな音が火山から聞こえるっていうもんだから、鬼か悪魔でも棲みついているんじゃねぇかって話になってな」
「貴方はその音を聞いたことありますか?」
「おうさ。俺ぁこのムスペルースと砂漠を往復するために、火山付近を通るんだがよ……。不気味なんてもんじゃねぇぞありゃ。鬼だったら食われるだろうな」
ああ恐ろしい、と。大げさに震えあがりながら、その商人は話を続けた。
やがて馬車は火山一帯に到着し、料金を払ってその地に降り立つ。馬車の窓から顔を出した商人が、最後にと言葉をかけてきた。
「間違えておっちぬんじゃねぇぞ?俺はまだ死神になりたかねぇからな」
「はい、大丈夫です」
「大した自信だな全くよぉ。じゃあな、命知らずの阿呆共!」
冷やかし交じりの激励を背に受け、エイリークたちは立ち並んでいる火山群を見上げる。ふとケルスが耳を傍立て、何か音を拾ったのか「あ」と言葉を漏らす。どうかしたのかと尋ねれば、彼は金づちの音がすると答えた。
「音の発生源は、恐らく火山の中からです」
「火山の中……どこのだ?」
「多分ですが、あの奥の山だと思います」
ケルスが指さした先を目で追えば、そこにはぽっかりと口を開いている山一つ。ケルスが言うには、そこから音が漏れているのではないか、とのことだ。
よし、と気合を入れて、仲間に行こうと声をかける。その言葉を合図に、エイリーク達はシュムック火山へと向かった。
******
入口にも見えた穴が開いている火山──シュムック火山かと思われる山──の中へは、どうにか入ることが出来た。ここに来るまで襲ってきた魔物たちが案外強く、思ったよりも手間取ってしまったのだ。
それでも六人もいれば倒せるというもので、ダメージは少ない。入口に辿り着くと、カン、カン、という音が、ハッキリとエイリークの耳にも届く。間違いない。ここに目的の人物がいる、と確信した。意を決したように、中へと歩を進める。
火山の中に入ると、空洞が広がっていた。岩肌の隙間からは、マグマがどろどろと流れている部分もある。そこに響くカン、カン、という音。しばらく歩き、ひときわ大きく開けた空間に出ると、そこには自分たちに背を向けている人物が一人。
その人物は目の前で、マグマから漏れ出ているマナを、何かに吸収させていた。煌々と赤く煌めいているそれは、やがてマナを吸収し終わると、赤黒い刀身を持つ剣に変化する。謎の人物はそれを確認したのか、躊躇いなく手に持つ。剣からは威圧的な存在感を感じさせた。あれが、魔剣ダインスレーヴなのか。
剣を持った人物が、ゆっくりとエイリークたちに振り返る。その姿は、事前に聞いていた情報にあった通りだった。
グリムと同じく闇を溶かしたような黒髪に、この火山とは正反対の色のアイスブルーの瞳。尖った耳の先は紛れもなく、デックアールヴ族の特徴と一致していた。
グリムはその人物を見ると、冷静にその人物の名を呼ぶ。
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