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「真綾、今度指輪買いに行こう。俺は調理するから仕事中は着けられないけど…それか、ネックレスでも良いか?」

「それ良いね。ピアスでも良いよ、お揃いなら何でも嬉しい」

「ん…真綾って、欲が無いな。高い物は買ってやれないけど、おねだりしても良いんだぞ?」

 謙虚で控えめなのは美徳だが、自信が無いのは褒められない。

 和樹は時計を確認して、ロコモコ丼用のハンバーグの焼き作業に入る。

「…そう?」

「うん、真綾は物分かりが良過ぎるな。幼なげなんだけど、ワガママは言わないし、妙に諦めが良いというか…何か欲しい物とか無いのか?」

「んー…」

 真綾は内心、「もう100万円も使ってもらってるから、これ以上は図々し過ぎるよ」と思っていた。

 けれど終わった話を蒸し返すのも悪いので、他の案を考える。


 ジュージューと脂の跳ねる音が聞こえ出し、香ばしい匂いに釣られて人が足を止める。

 今日はお馴染み駅前広場で、地元企業の生産品や特産物を紹介するマルシェが開かれている。

 和樹は飲食店のひとつとして参加しており、普段のロコモコ丼よりグレードアップしたメニューを提供する予定だ。

「ぼちぼち客入れ始まるよな、準備中の札外すか…真綾、注文取れるか?やっぱり代わろうか」

「ううん、やりたいから…頑張る」

 度胸はあれど対人スキルの低い真綾が、どこまで頑張れるのか。

 受付が無理なら客引きも無理だろうし、調理を任せられるほど練習をさせていない。

 これも試練のひとつとして張り切ってもらおう、和樹は調理中につき触れないので膝で真綾の脚をつついた。

「良い子だ。気張れよ」

「うん…あ、和樹くん、欲しいもの、あった」

「ん?何よ」

目玉焼きの準備にかかる和樹は、腰を屈めて真綾の口元に耳を寄せる。

 真綾はそこに

「婚約したんだし、私、和樹くんが欲しい♡」

と囁いて、フッと息を吹き込んだ。

「どわぁ」

「物は要らないから…なんちゃって、冗談だよ♡ふふっ…開店でーす!いらっしゃいませー!」

「ま、真綾…?」

「店長、ロコモコ丼2つ入りまーす!」

「あ、はいはい、2つ、」
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