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「お兄さん、よろしければ、名刺を頂けませんか?」

女の子は改めて言葉を飾り、和樹を見つめる。



「良いけど……ほい、萩原和樹と申します」

和樹は、尻ポケットの財布から1枚取り出して両手で差し出した。

 商工会青年部の兼ね合いで、一応作っているのだ。

「頂戴します……わ、私、白銀しろがね真綾まあやと申します、どうぞ」

「ありがとう。キレイな名前だね」

「え、あの、そんな、褒められても…嬉しくないし!でもありがとうございました!」

真綾はぶんと勢い付けて頭を下げる。

 ふんわりしたショートボブの髪が乱れて、それをあたふたと直す仕草が初々しくて可愛らしいと和樹は感じた。

 ツンデレなのか、デレざるを得ないツンは見ていて可笑しい。

「…あと、何枚配るの?」

「あと……10枚くらいは…」

「いけそう?俺で何枚目?」

「いちまいめです…」

 だろうな、和樹は大きなお世話と思いながらもすぐ後ろを通ろうとしたビジネスマンに声を掛ける。

「すみません、少しお時間よろしいでしょうか!」

「え?なんですか、」

「この子と、名刺交換してやってくれませんか」

「はぁ、」

 和樹はしてくれそうな人を見つけては、小走りで近付いて声を掛けた。

 断られることもあるが仕方なし、真綾もめげずに声を掛ける。

「あの、名刺、頂けませんか…」

「白銀さん、声が小さいよ、すみませーん、名刺交換して頂けませんかぁ!これくらい、出さないと聞こえないよ!」

「は、はいっ!」

「白銀さん、こちらの方、交換して下さるって!」

「ありがとうございます!」

「すみませーん、ご協力お願いします!名刺交換して下さる方、いらっしゃいませんかぁ!」

「お、お願いします!」


 駅前で始めた名刺交換は小さな渦巻きの中心となり、和樹の大声のおかげもあってすぐに人が集まった。

 エプロンを付けた和樹はすぐそこのキッチンカーの店員であることが推測されたし、怪しがる人が少なかったようだ。
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