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「玲二くん、あたし、被害届とか出さないから…あと成人してる」

「だとしても、だわ…あとお前が財布盗るから追いかけたんだ、こっちは被害者だぞ!被害届はこっちが」

「じゃあさ、抱いてくれたらおとがめナシにする」

 声が近い、後頭部に彼女の息とまとう湯気が当たる。

「抱かなかったら?」

「ホテルに連れ込まれましたって通報する」

「っっお前なぁっ‼︎」

 ガバッと体を起こせばひょいと身軽に避ける。

 その反動で汗ばんだ胸元が妖艶に照って揺れた。

「見たね」

「……馬鹿、」

「これまで裸だったんだから…良いじゃん」

「猫と人を一緒にすんな……あ…」


 目を逸らせば壁に設置された姿見には四つん這いの彼女が映っていて、肩から背中、そこから腰、尻としなった身体の曲線が美しい。

 こちらの視線に気付けば不敵に微笑んで唇を手で拭う…それはまるで四つ脚の猫のよう、骨張った肩を前後させて迫る姿はエロティックでいて可愛らしかった。


「首輪、着けようか」

彼女は首輪を取り出して、自身の首周りの髪の毛をぱさぱさと払う。

 蛍光灯の下で改めて見るそれは、カシャの物とやはり同型だがだいぶん新しいものだった。

「(…ほう)」


 カシャはこだわりが強くて、14年ひとつの首輪を使っていた。

 親父とお袋が「そろそろ買い替えようか」なんて話したもんなら、言葉を理解していたのか暴れ回って手が付けられなかったそうだ。

 首輪を外そうとすれば珍しく親父を睨み付けて、関係無い俺には何故か猫パンチをたくさん食らわせて訴えかけていた。

 何となく首輪のことかな、なんて気付いたのは同じ事が数回続いてからで、「お前、この首輪が好きなんだな?」と尋ねると賢く「ニャーン」と答えてくれた。


「……」

 そりゃ現実世界に転生なんて無いわな、分かっていたが蒸し暑い夜の戯言たわごとというか世の中広いからこんな奇跡体験があっても不思議ないかもなんて思ってしまった。

 ファンタジーはもうお終いだ。

 振り返って

「…お前、名前は」

と問えば、彼女は変わらず

「だからカシャ、だって」

としれっと答える。


「違う、本当の名前だ」

見上げたまま細い腕を掴めばガチッと強張る…しかし俺は逃さぬようさらにきつく握った。
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