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3…胸を張る
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しおりを挟む旅行から帰って最初の出勤日、エリナは静かに働いていた。
キャピキャピが減ったかなという感じ、タメ口を言い直したり物を丁寧に扱ったりと改善点が見られた。
髪色も戻して、メイクも大人しめになっている。
同僚から聞いたところによると、彼女は複数人の男性社員に粉を掛けては天秤にかけて男漁りをしていたらしい。
業務に支障は無かったので公に注意は免れたものの、幹事の左崎さんから「またこんなことがあると来年は連れて行かないよ。それどころか契約更新も無いかも」と釘を刺されたそうだ。
懇意にしていた男性たちからのフォローも無さそうで、広いフロアで孤立してしまったらしい。
それどころか、人事部から「貴女、異動しようにもどの部署からも要らないって言われてますよ」をオブラートに包んで告げられたそうだ。
だから今の部署で慎ましく過ごすしかない、広範囲に嫌われてるなんて考えておらずショックだったようだ。
さらにだが、同じ日の参加者の法務部の方から、名誉毀損だとか暴行だとか、そっちもチクチクと注意されたそうだ。
私の方にも「被害届出さなくて良いの?」と改めてお伺いがあったが、酒の席でのことだしとやはり不問にした。
これに関しては、私はエリナに貸しを作った形になる。
おかげで鉢合わせても避けてくれて、フロアが快適になった。
「根は悪い人じゃないんだろうね」
「はしゃぎ過ぎ、たんだと思いますけど…美紀さんは人が良いっすね」
本日は自宅でまったり、つまりはいつも通りのお家デートである。
「帰ったら抱く」なんて言うからドキドキしたものの、月のものが始まってしまい延期になってしまった。
「ケンケンしても、ね…あれだよ、若気の至りってやつだよ」
「…美紀さん、今日くらいストレッチ休んだらどうすか」
「ん?これ骨盤に効くんだよ、引き締め」
矢向くんを前にして恒例の寝る前ストレッチ、彼は頬杖をついてジト目でこちらを眺めている。
しかし生理前って思考が停滞したりするんだな、いやに悲観的になったりイライラしたり。
正常な状態だったらエリナの口撃もスルー出来ていたかもしれない。
上手く立ち回って、人前でムネムネ連呼されることも無かったかも。
「あんま、無理しないで下さい」
「うん……よし、寝よっか」
「美紀さん、同棲も…ゆっくりで良いんで考えてみて下さい」
「う、ん…そうだね、矢向くんとなら穏やかな生活が送れそう」
ベッドに並んで、明かりを消す。
暗がりに矢向くんの
「結構、ジブン美紀さんにマジ惚れしてんすよ」
という愛の告白が沁みてまた静かになる。
「嬉しい、私も惚れてる」
そう返して、瞳を頼りにキスをして、目を閉じた。
つづく
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