胸に手を置かれたら、朋也くんのことしか考えられないじゃん。ー無気力系後輩がグイグイ来るのは想定外でしたー

1…胸に手を置く

12

　そして、翌朝…アラームに目を開ければ、

「おはようございます…」

寝癖だらけの矢向くんはむくりと起き上がって挨拶をくれた。

「おはよ、頭は痛くない？」

「それは大丈夫っす…すんません、トイレ借ります」

「うん、そこ出て右のドアね」

　お風呂も貸してご飯も食べさせてあげよう、ちょっとお姉さんになったみたいでワクワクする。

　ちなみにだが、私はすっぴんを人に見せることにあまり抵抗が無いタイプだ。

　普段もナチュラルメイクという名のサボりメイクだし、幸い眉も形が崩れないのでほぼ描かなくて済む。

「（朝を迎えた恥じらいみたいなの、演出した方が良いのかな）」

ここから何が発展する訳じゃなし、それは良いか…私は構わず二度寝に入った。


「元宮さん…あの、すんません、泊めてもらっちゃって」

トイレから戻った矢向くんが、無愛想の中にも気まずさを滲ませる。

「良いよ、酔って喋れなかったらタクシーもダメだったろうし、気持ち良さそうに寝てたからそのままにしちゃった」

「…すんません」

「お風呂使って良いよ、トイレの隣ね。着替えは無いけどタオルは自由にどーぞ」

「…お言葉に甘えます」

矢向くんは小股で、風呂場へ向かって行った。

　私は私でまだ起きる気にはならず、浴室から響くシャワーの音を聞きながら目を閉じる。


「（他人だというのに落ち着いてるな…弟みたいな感じだ…）」

　人付き合いは広い方で、異性の友人も多いと思う。

　さすがに男友達を部屋に泊めたりはしたことが無いが…今回の件が特別な感じはしなかった。