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1…胸に手を置く

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「……」

 しかし、部屋に戻っても矢向くんの位置は変わっていなかった。

 それどころか、ずずずと横にゆっくり倒れて仰向けになってしまった。

「矢向くん、あの、タクシー呼ぼうか?」

「あー、ちょっと待って下さい…頭痛くて」

「え、大丈夫⁉︎」

「少し休んだら平気なんで…ジブン、酔いが長いんすよ。浅く広く続くんで…」

「酔ってたんだ」


 うっかり失念していたが、そういやみんな呑んでいた。

 矢向くんも矢向くんで、ふわふわ気持ち良い状態だったらしい。

「…見た目に分かんない酔い方するんだね」

「そうっすよ…すんません、最後はこうやって超絶頭痛が来るんす…」

「お酒が抜けてないから鎮痛剤は止めといた方が良いね…ごめん、私を送ったから…ちゃんと帰ってたら自宅ですぐ寝られたのに」

「良いんすよ……ジブンが…一緒に居たかったんで…」


 「なんですって?」と尋ねようにも、矢向くんはスピーと寝息を立て始める。

「え、ここで寝るの?」

 段々と胸板の上下幅が大きくなって、口がポカンとだらしなく開く。

 いかにも眠りに落ちたという感じ、あどけなさも匂う矢向青年は気持ち良さそうにスヤスヤ眠る。

「……これが仮眠だとして、起きたとしても日付変わってるよね…」

 タクシーは呼べば来てくれるだろうが、彼はいわゆる泥酔者なのでお断りされるかもしれない。

 なら泊めるしかない、というか勝手に朝を迎えそうだ。

「んー…こういうのって良いのかなぁ…」

 仮にも男女の仲で、簡単に宿泊させるのはいかがなものだろう。

 私は構わないのだが、矢向くんの評判が落ちたら申し訳ないとそっちの心配をしてしまう。

 なんせ、私は酔って胸の話をするような女である。

 私が無垢な矢向くんを手篭めにしたとか思われるのが順当だろう。


「まぁ、良いか…吐かなければ」

私はいつもと変わらぬルーティンで寝る前の家事を済ませて、風呂に入った。

 いつもと違うといえば炊飯器に米を2合入れたこと、矢向くんがご飯派かは存じないが余っても問題無い。
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