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おまけ
はじめまして
しおりを挟む俺の実家を訪ねるにあたり、俺はまず真秋の実家詣でをクリアすることにした。
行ってみて、まず俺は驚いた。
「まー、いらっしゃい!話は聞いてるわ、ナッちゃんね?上がって上がって、」
「あの、」
「ほらそこ座って、まー、あら、こうして並ぶと二人はナイスカップルって感じねぇ♡どうなの、見た目通りの真秋がリードなのかしら?」
「えっと」
「まぁ良いわよね、どちらでも♡愛があればなんだって出来るものね」
「あの」
話には聞いていたがここまで理解があるものとは、お母さんは俺を他所のお嬢さんばりに丁重にもてなし始める。
ちゃん付けは親愛の印か、それとも俺をメス扱いしているからなのか。
俺はダイニングでやっと挨拶をして、手土産を渡すことが出来た。
「開けちゃいましょ、頂きましょ♡お父さん、お茶淹れるからまだ食べちゃダメよ」
「うん」
お父さんはお母さんよりは冷静な方で、でも厳しさとか堅さみたいなものは感じさせない。
軽薄でもなく、穏やかな、良い雰囲気の大人だと思った。
「頂きます」
持ち込んだ焼き菓子をそれぞれに選んで、お茶を頂く。
一服して「さて、」と、お父さんが口を開いた。
「良い天気だね」
「あ、はい、そうですね」
「僕は暑いのは苦手だから…秋や冬の方が好きでね」
「そ、そうですね、僕も秋は好きです……ぁ」
突然怒る不思議なタイムラグ、俺は季節のことを指したのだが真秋のことだと思われただろうか。
気にしすぎか、弁明すべきか、ぶわぁと脂汗が浮いてくる。
秒を長く感じていると、
「父さん、ナツは秋も僕も好きなんだよ」
そう言って、ふふ、と真秋は俺の顔を覗き見る。
「な、何言って…」
「僕はナツが好きだなぁ、アツくて、汗もかくけど爽やかで」
「何の話してんだ、バカ!」
「夏の話だよ…あはは♡」
俺たちのいちゃラブを見せつけられたご両親はどんな空気になっているんだろう、恐る恐る確認すれば2人とも目を細めていた。
「(どんな表情だ)」
「…良いねぇ…愛は…映画を観ているようだよ」
「は…?」
「本当ね、お父さん…」
「え…」
真秋の親なんだな、俺はうっとりと俺たちを眺める夫婦を見てそれを実感した。
その後は簡単に馴れ初めや今後の展望などを話して、食事をしてから帰路についた。
「良い親御さんだな、アキの豊かさが分かるわ」
「そう?まぁ貧しくはなかったけど」
「経済的なこともあるけどゆとりって言うの?余裕っぷり、みたいな」
「あー、せかせかしてない夫婦だよね」
寛大で寛容で素敵だったな、駅から歩く道中ではそんな話をした。
「…次は俺んちかぁ…怒られたくねぇなぁ」
「頑張ろうよ……にしても、ふふっ」
「あんだよ」
真秋が意味深に笑うものだから、反射的に文句が出る。
卑屈な俺は、馬鹿にされたと察するセンサーが敏感なのだ。
しかし真秋は「違うよ」を手で表して、
「ナツが親の前で『僕』って言ってて、可愛くて♡」
と目尻を下げてさらに笑う。
確かに俺は、親御さんの前では一人称を変えていた。
社会人の大半は、畏まる場所とプライベートとで意識せず変えられるものだろう。
俺も張り切って着飾った訳ではなく、自然と身が引き締まり物言いを変えただけだ。
「…ちゃんとしなきゃって…思って…」
「うん、印象が違うもんだなって、面白かったんだ…可愛かったし…ねぇ、ナツ♡」
「あんだよ、どうせ『僕呼びでエッチしよ』とか言うんだろ」
毛色の変わったセックスをするんだろ、そんなことを察するセンサーだって俺は搭載している。
「あははっ」
呆れる俺の肩を抱いた真秋は、どっしりと体重をかけてぴったりくっ付いた。
「あぶね、アキ!」
「じゃあ、僕は『俺』って言うよ、それならどう?」
「…新鮮」
俺たちはもみくちゃになってヨロヨロフラフラしながら、けれど和かに家へと帰った。
そして。
「ナツ、俺、もぉ、イきそ」
「あ、ッぎ…僕、も、あ、あ♡」
「ぷは」
「ふはッ♡」
一人称を交換して臨んだこの夜はまた格別で…昼の疲れやこの先への不安なんかを放っぽり出して、俺たちは半笑いで愛し合うのだった。
おわり
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