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「…おかえり、お嬢。えー…今日の予定やけど、これからスイミング、帰って宿題、んで明日は歯医者やから色が付くもん飲んだらあかんよ」

「はーい…」

予定の確認をする和久わくに対して、少女は実に子供らしく嫌そうな顔で返事をする。

 みやびの明日の予定、午前中から歯医者で歯列矯正を受けることになっているのだ。

「嫌やろうけど、旦那さんが言うてるからね、頑張ろ」

旦那さんとは彼女の父親、仕事でほとんど家に居ない忙しい婿殿である。


「うち、別に歯並び悪くないやろ?」

「いやァ、これから崩れるかもわからんよ?ほれ、俺みたいになったら困るやろ」

そう自虐的に言って助手席の垣内かいちは振り返り、イーっと全体的に前に出た歯並びを雅へ見せてやる。

 和久も振り返り、

「せやで、お嬢。もう2・3年もしたら、縁談が来るかも分からんから。キレイにしとって損はあらへんよ」

と後押しをした。


「エンダンって何?」

「結婚の話よ、見合いとかな」

 小学生に対してのあまりにも突飛な話に、雅と垣内は顔をしかめる。

「おいおい和久ちゃん、気ぃ早いわ…まだ嫁にやりたないよ」

「お嬢は婿取りやけどね。……まぁ先に備えよってことよ…シートベルトした?出すで」


 和久は学校の守衛所を通過して正門から車を出し、勾配のある坂道へと入って行った。
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