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しおりを挟むまさに社外秘の情報がつらつら記された業務記録、薫の仕事ぶりが表れた手帳が何だか愛おしくて堪らない。
「薫ちゃんだって、僕のことなんか意識して……あ、」
そうして春が過ぎようとするある日の欄、『かっこいい、好き』と小さく書き込んであるのを見つけた聡太はぶわっと血が沸いた。
薫は聡太へ昨年から好意を寄せていたと自称した。
だとすればこれは当時の彼女が想っていた別の男のことか。
聡太はペラペラとページを捲って同様のメモを探す。
『在庫探しを手伝ってくれた。頼もしい』
『笑顔がカワイイ。堂々としててかっこいい』
『きのうの飲み会、酔って寄りかかってきた。ドキドキした』
誰がとは書いていない。
エピソードが細か過ぎて自分だとも他の同僚だとも断定できる材料が無い。
けれどこの手帳に書いたということは明らかに会社の人間のことだろう。
その時もしくは翌日の朝礼時にメモしたのだろう。
圧倒的な片想い、ともすれば熱狂的なファン。
万が一、人に見られても分からないように実名記載を避けていたのかもしれない。
「すごく…惚れてる感じ…」
これをもし自分が直接向けられていたなら薫を好きになっていただろう。
控えめだけど情熱的な賛美の言葉が溢れる。
他愛のない覚え書きは想い人への気持ちの積み重ね、何でもないことまでも気にかかるのだろう相当に没頭していることが分かる。
「妬いちゃうなぁ…」
そして数冊確認してみて『カワイイ』だの『かっこいい』だの抽象的な単語ばかりが続く中、ついに
『お父さんとそっくり。歯並び、鼻の形が同じ』
とのメモを見つけて聡太は静かにガッツポーズを決めた。
世の中には父親似の人間はごまんと居るだろう。
けれど店内で男で身近な人間はおそらく聡太しか当てはまらない。
厳密には他にも居たかもしれないが、聡太は薫本人から同じ文言を聞いている。
『望地くんご指名でたまに買い物に来て下さるじゃない。案内したこともあるし…さすがに顔は憶えちゃう。お父さまと歯並びとか鼻の形がそっくりだし』
実家へ泊まった翌朝、彼女は確かにそう言っていた。
ほんのりとした期待が確信に変わり自信が湧いてくる。
聡太はその後も年度順に手帳を拾いメモを探して読み漁った。
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