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しおりを挟む翌朝。
「じゃあね、薫ちゃん」
「気を付けてね…向こうに着いたら連絡入れてね、じゃあ」
聡太は予定通り駅まで送ってもらい、去り際のクールな薫に物足りなさを感じつつも「これが薫ちゃんなんだよなぁ」と持ち味を噛み締める。
愛情深いことは知っているし一途なことも知っている。
行動力があるけれど臆病で意地っ張りで恥ずかしがり屋で…総合的に見て好ましい女性だということをよく理解できている。
「(ここからスタートだ)」
駅舎から離れて職場へ向かう車を見送って、聡太は気持ち新たに券売所へと歩き出す。
リュックの中には職場の皆への土産をたんまり詰めて、疲れもあるし「新幹線では寝よう」なんて算段をつけて鈍行に揺られた。
「(松阪…松阪牛か…桑名、そういや薫ちゃんの実家で蛤食べたっけ…あれがそうだったのかな…)」
車だと5時間超、鉄道でも4時間弱の遠距離だが不思議と聡太は薫とそう離れた気持ちになっていない。
むしろ想いに気付かず過ごしていた8年の方が心理的に距離があったぐらいで、寂しさで言えばこの前の引っ越しの時の方が精神的にきつかった。
「(あとはこの物理的な距離を詰めるだけ…楽しみだなぁ)」
昨夜は何となく今後の話もして、婚約指輪は作らず結婚指輪は早めに注文しようと決めて地元近郊のショップの選定にも入っている。
式は小規模で親族のみになるだろうか、店の同僚たちと呑み会という形のパーティーをしても良い。
薫は遠慮するかもしれないが、彼女が当初言っていた花嫁姿は意地でも皆に見せてやりたいと…聡太はちょっとした仕返し感覚で策を練った。
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