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しおりを挟むスーパーで買い物をしてまた薫のアパートへ、聡太は2リットルのペットボトルや野菜の入った袋を運び入れて我が物顔で脱衣所の洗面台で手を洗う。
「…望地くん、結構図々しいのね」
「ごめん、昼間にも開けちゃった」
「片付けてたから良いけど…散らかってたらみっともないじゃない」
「ごめんって…あとお手洗いも使わせてもらったよ」
「呼んだのは私だから良いけど…何して過ごしてたの?」
まさか薫が隠していた秘密を暴いたなんてすぐ言えやしない。
聡太はリビングに置いたままのリュックを指して
「ここで横になってた」
と嘘をついた。
「そう…静かな所でしょ、田舎で…」
「うん、田んぼとか畑が多い所だね。でもお店もいっぱいあるから住みやすそう」
「そうね、物価も安いし…穏やかで…淡々と時間が過ぎて行く感じ…」
レタスを捥ぐ手が止まる。
隣に立つ聡太を見上げたその瞳には涙が浮かんでいた。
「…かお」
「ごめんなさい、本当に、謝っても、許してくれないことは分かってるの、でもあの時はこうするしか浮かばなくて」
「落ち着いて、僕はそのことを責めに来たわけじゃないよ」
カタンと俎板の上の包丁が動いて、聡太は薫の両手首をそれぞれ捕まえて作業台から離れさせる。
「じゃあ何、賠償でも」
「違うって…薫ちゃん、僕は二人の関係に決着を付けに来たんだよ」
「だから、謝るしかできないの、私がいくら好きだって言ってももう信用して貰えないんだも」
「聞いて、薫ちゃん」
言葉を遮って大きな胸に泣き顔を抱く。
少し汗臭い服に埋もれた薫は、その温かな感触に気持ちが安らぐのが分かった。
「もうちく」
「聡太で良い、そっちの方が慣れたから」
「そ、聡太くん…暑いよ、苦しい」
「ごめん…薫ちゃん泣いてたから落ち着かせようと思って」
「赤ちゃんじゃないんだから…」
以前より優しくなったメイクの目から流れる涙、尖らせた唇も前ほど紅くはない。
聡太はよりギュッと抱き締めてから体を離し、
「話より先にご飯食べようか、腹ペコなんだ」
とおどけて見せた。
薫は自分のことを8年も前から好きだったのだ。
現段階で彼女に復縁の気持ちがあるかどうかは不明だが、聡太にしてみれば大きなアドバンテージというか保険ができている。
今一度互いの心を確かめ合えば行き着く先は本物の恋人…嘘の数で言えば罪が軽いと踏んだ聡太は薫より上位に立ったつもりなのだ。
「ちょ……ま、まぁ良いけど…」
「お皿出すね」
「うん…」
「お茶注ぐねー」
「あ、ありがとう…」
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