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 薫が引っ越しておおよそひと月が経とうという頃。

「…あれ?」

表のフェンスにぶら下がっている不動産屋の看板が『満室』から『空室あり』に切り替わっているのを聡太は発見した。

 退去が済んで次の募集をかけるんではないのか、薫は立ち会いにいつ来たのか。

 問い合わせでもしてみようかと考えているとバンタイプの軽自動車が来客用スペースへと駐車して、作業着の大人が後方トランクから用具を下ろし始める。


「ハウスクリーニングか、退去…したのか…」

 業者は薫が住んでいた部屋の玄関扉を開けて固定して、薬剤やバケツやスクレイパーなんかをゴトゴト持ち込む。

 しばらくすると窓を開け放つ音や何かを磨く音なんかが漏れ聞こえてきて、聡太は床に座り込んだまま「そうかぁ…」と繰り返し呟いた。


 連絡は付かずとも置き手紙とか待ち伏せとかしてくれると思っていた。

 店に顔を出して挨拶してくれるとかそれなりの振る舞いをしてくれると思っていた。

「想定はしてたけど…ツンが過ぎるよ、薫ちゃん…」

 哀しいかな振られた実感なんてものは無いのだ。

 きちんと告白だってされてないししていない。

 むしろ聡太から振ったような形での決着だった。

 連れ添った恋人だなんて呼べないし親友なんてものでもない。

 このところの喪失感の説明が聡太自身でもなかなか難しくてモヤモヤの払拭が出来やしない。

 例えるなら通り魔に殴られて看病されて去られたみたいな感じ、「君は何が目的なんだ」と問いかけてももう背中も見えない。


 きっと薫の中では完全に終わったことなんだろう。

 だから連絡も絶ったのだろう。

 泣いて説明してくれた聡太への想い、あの夜は混乱していて理解が及ばなかったがもしやそこに真実が含まれていたのか。

 だとすれば薫がトンチキな計画で聡太を巻き込んだのは自分のそれを成就させるためだったのか。

 しかしどこまでが嘘でどれが真実なのか。

 騙されたことに対してカッカして話し合いを打ち切り、以降それらしきものがされなかったから今の状況になっているのでは。

 つまりは消化不良、しっかりと討論して場合によっては断罪やゆるしを与えてやることでスッキリ前に進めるのではないか。

「……」
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