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しおりを挟む仕事終わり、薫は実家の母へと電話をかけた。
いつ聡太が「見舞いに行こう」と言うか分からない。
電話だけでもしておきたいと言い出しかねないので口裏合わせをしておかねばならないのだ。
「……もしもし、お母ちゃん、私」
『どないしてん、電話なんか珍しい』
「ん、あのさ、話さないかんことがあってんな」
『なんよ…』
母は体調でも悪いのかと疑っている様子、お国訛りに戻った薫はかくかくしかじかと昨日の概要を順序立てて伝えた。
「……、でな、とりあえず一緒に暮らそか、言うて…まとまったとこやねん」
『……はぁ?何がまとまってんの。あんた私らを勝手に瀕死にすなよ!』
薫母は唾が飛んできそうなくらいの勢いで、しかし見当違いな部分について怒りをぶつけてくる。
お怒りはごもっともだがこれも幸せのため、薫は
「ごめんて…聡太くんと付き合いたかってんもん」
と涙を浮かべた。
『どないすんの、いつかバレるやんか。そん時あんた『嘘つきや!』言うて嫌われんで?今よりもっと嫌われんねんで⁉︎』
「今も嫌われてはない、だから、それまでに信頼関係を築こうと」
『嘘の上に信頼なんか立つかいな、阿呆‼︎』
「……でももう戻られへん。聡太くんな、優しいねん。両親が長くないって言ったらまず『ご病気なの?』って心配してくれてん。『死ぬとか言うな』とか、会話の中で敬語まで使って会ってもないお父ちゃんお母ちゃんに丁寧に向き合うてくれて…ほんま…優しいねん、そういうとこが好きなん…結婚したら『相手に責任負う』って、しやから簡単には決められへんて、そういう悩むとこもらしくて好きやねん…」
『誰でも悩むわ、んなこと!』
母は終始娘の迷惑な計画について叱りつけて、薫はそれでも「やめない」と姿勢を崩さない。
二十数分に及ぶ交渉は決裂。
母は
『協力なんかせぇへんからな!馬鹿娘!』
と電話を切ってしまった。
やれやれ自分でなんとかするしかない。
薫はアパートまで帰ってふぅとひと息つき…
『おつかれさま。親には私から説明しておいたから大丈夫』
と聡太へメッセージを拵え送信する。
いずれ破綻する作戦だが笑って許してもらえるくらい信頼関係を作っておかねば、最悪失敗しても駄目で元々だ。
こういうのを拗らせと呼ぶのだろう。
8年に渡る片想いは昔の自分が想像もしないような行動力を発揮させてしまった。
「不誠実な女やと思われたら…幻滅されるやろか…あぁ~…」
薫は突発的なプロポーズを少しだけ後悔し、けれどこの嘘をなるべく長く隠していこうと決意を固めるのだった。
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