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2・ついて来てくれ

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「…なぁ、わしさぁ…ここ辞めて独立しよう思うてんねん。頃合いやろ、中卒で10年以上は働いた、資格も取った、」

「え、辞め、はんの、」

「…独立言うても父方のじーさんの会社が兵庫にあるからやぁ、じーさん会長になってもうて、わし社長で事務所継いで…千早ちはや高石たかいしも連れて出よう思うてんねん、」

 千早も高石もここ大阪で就職した高卒組、哲哉てつやと同い年の配送工事スタッフである。

「あいつらも出資してくれる言うし…設備もまぁまぁ揃ってるからやぁ、ここ最近…休みは向こう行って挨拶したりな、しててん…じーさんの地盤継いで…新しいこともやって行こかなぁて、思うてんねん、ん、」

「え、ひょう、ご、あ、哲哉さ、引越しちゃう、の、」

「しやで、なぁ、そんでさ、文香ふみかも連れて行きたいねん、一緒に行こう、」

「なッ…うちの仕事はッ、どないすンの、そないな、大事なことッ…あ♡こんなトコで、言わんとってッくらさ♡ア、」

「な、文香、ワシと結婚しよ、お前もなんぼか出資せぇ、専務な、事務は任せる、なぁ、先に子供作るか?」

「嫌やッ、あ、ちゃんと、こんなん、嫌です!」

要旨は分かった、悪い話ではない。

 しかしそんな大切なことは告げるタイミングとシチュエーションというものをしっかりとあつらえるべきであろう。

 文香は頭と体の相反するリアクションに混乱していた。


「…ぉ、」

「…⁉︎」


 そんな時に外の駐車場へ車両が入る音がして、ドアの開閉に砂利を踏み鳴らす音、音の主は事務所の入り口へと近づいて来る。

 スタッフが戻って来たか、ホワイトボードの各人のスケジュールでは昼に戻る予定の者は居なかっただろうと文香は記憶していた。

 ならば来客か。

 しかし大体応対する社長も不在だし事前の連絡も無かったように思う。

「……誰か帰ってきたな、文香、見て来いよ」

「無理や…こんな格好で出られへん…」

「仕事中にスケベしとったらすぐクビやろ、お前も辞めやすいやんか、なぁ、」

「阿呆、いや、」

 ばくばくとうるさい心音に押し潰されそうになりながら静かに待機していると、足音は事務室から廊下、こちらへと進んで来た。

 いよいよ駄目かと文香が目を閉じると哲哉は置いてあった座布団で彼女の胸を隠し、扉からあられもない姿が見えぬよう体を回して壁となる。

 そうするのなら抜いて服を整えさせて、と思うのは当然なのだが、吊り橋効果なのか彼の的外れの気遣いさえも今の文香には「優しさ」「男らしさ」として受け止められた。


 ぺたぺたと床を叩くスニーカーの音、それは和室の前で止まり、

「あれ、誰か居てんの?」

と引き戸の向こうから声が飛んでくる。

「…なんや、千早か…驚かしなや。どしてん?」

「哲っちゃんか。近くに寄ったからトイレ借りよ思うて」

同僚・千早はそう言うと奥のトイレへ進み、しばらくするとまた和室の前に戻ってきた。

 中で着替えたり仮眠をとったりすることもあるので使用中は閉扉、用があれば許可を得てから開けるのがルールである。

 それを律儀に守る彼は引き戸の磨りガラスに限りなく近付いて

「哲っちゃんは?仮眠?ふみちゃんも居れへんけど」

と尋ねる。

 哲哉は文香へ「しー」と口止めポーズをとってから、

「千早、今ちょいと文香にプロポーズ中やねん。よろししてるから、すまん」

と真昼間の情事を暴露した。

「(哲哉さん‼︎)」

「はぁ⁉︎会社で盛んなや…え、マジで言うてんの?」

「せやで、見るか?」

「ええの?」

「(嫌や!)」

「嘘や、見んな、へへ」

 千早は引き戸から少し離れて、

「うわ、文ちゃん…大丈夫?畳濡れてへん?」

と頓珍漢に畳の心配をする。

 それを聞いて突き上げを再開した哲哉は

「おー、濡れてるわ、拭いとく」

と適当をこいて文香へ満面の笑みを落とした。

「したら社長にはバレんようにしいや、哲っちゃんお気張りやす」

「うい、おおきに!」


 足音は事務室へ戻り半開きだった事務所の扉がしっかり閉まる音がして、またじゃりじゃりと石を踏み締めて千早の作業車が敷地を出て行く。

 その頃には文香は声を抑えられないほどにほろほろに崩れていて、喘ぎの合間に

「阿呆、どこまで阿呆なんや…」

と哲哉を糾弾していた。

「喘ぎ声までは聞かせへんかったやろ、な、」

「次、どないな顔して、会えばええんよ…恥ずかしい…」

「んー…すましとけばええやんか、付き合うてるのは皆知ってるし」

「そういうこととちゃいます…も、あ♡」

少し軟化した文香の態度に気を良くした哲哉はここぞと気張り、決定的なラストに向けて規則的なピストンを打ち始める。

「なぁ、わしに、ついて、来いよ、嫌や言うても、連れて行くけどや、」

「頼み方、がァ♡不真面目っ、や、」

「なぁ、ナカに出すで、ええやろ、」

「嫌です、嫌やッ‼︎」

「なぁ、気持ちええやろ?わしのちんちんしか入ってへんねんから、わしで打ち止めにしとけよ、なぁ、」



 高卒で入社した文香に早々と手を付け処女を奪ったのは哲哉で、それは事あるごとにこうして発表されるために他のスタッフも全員が周知していた。

 最初は大きな胸に惹かれた、真面目な性格に気付き付き合いたいと思った。

 他の男に取られたくないと入社後一ヶ月でデートに誘った。

 初めて体を重ねてその気持ち良さに酔いしれ、手料理を振る舞われれば結婚したいと感じ、そして5年…転職の話が湧いて出てこの機会だと踏み切った。

「知らへんッ、こんな、レイプみたいなんッ、許されへんッ、」

「そぉ、ほならなおさら、んッ♡奥に、な、注いだろな、責任とりたい、ん、ん、」

「嫌やぁ、哲哉さん、転職の、ことは、考えるから、出さんとって、お願い、」

「ほんまに?ついて来てくれるか?あ?」

「考える、カラっ、抜いて、くらさ、イっ、」


 文香においては100パーセント無理な話ではない。

 いずれは纏まると思っていたし初めての男性と添い遂げられるなら本望…しかしやはり人生を左右するその決断はこんなみっともない格好でされなくても良いと思うのである。

 ボロボロにされた下着とストッキング、ボタンの飛んだ制服、畳に組み敷かれた体は正常位からさらに上の…いわゆるまんぐり返しまでさせられるという惨めさ。
 
 こんなことを覚えさせられて、性感帯を開発され、でも許してきた、自分にも責任の一端が有るのかと思うとこの状況も完全に彼が悪いとも言い難く…文香は浮いた頭で過去を悔やむ。
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